6週連続で放送されているフジテレビの深夜バラエティ番組『ここにタイトルを入力』。予想を裏切る企画が週替りで放送されているが、TVer・FODで見逃し配信されている第5週(9日放送)は、南海キャンディーズ・山里亮太MCの『その恋、買い取ってもいいですか?』だ。

事前の予告では「今までになかった新感覚の恋愛バラエティ番組」と紹介されていたが、一体どこが“今までになかった新感覚”だったのか――。

  • 『その恋、買い取ってもいいですか?』で「LOVE THINK」に挑戦する霜降り明星・せいや (C)フジテレビ

    『その恋、買い取ってもいいですか?』で「LOVE THINK」に挑戦する霜降り明星・せいや (C)フジテレビ

■「恋に値段をつけて、買い取っていただければっていう感じです」

恒例となった収録本番前の出演者とスタッフの打ち合わせ。しかしそこにいるのはMCの山里でなく、霜降り明星のせいやだ。

スタッフが「企画書に書いてある通りではあると思うんですけど、『その恋、買い取ってもいいですか?』っていう番組でして、一般人の方がスタジオで恋の告白をするので、せいやさんが買取人としてその恋に値段をつけて、買い取っていただければっていう感じです」と番組内容を説明。

続けて、「結構、今っぽいポップな感じなんですけど、なんかドキュメント的な緊張感とかも欲しくて、でも最終的には万人ウケする感じの笑って泣ける的な、そこらへんは雰囲気でガンガン盛り上げていただければと思います」と、“感じ”を2回、“的”を3回散りばめてフワッとした希望を伝え、「じゃあ本番よろしくお願いします」と立ち去ってしまった。

一方的な説明に、せいやは「はい」「はい」と答えていたが、常にまゆ毛が八の字で、全く理解できていない模様。質問するタイミングも逃してしまったため、スタッフが去った後に一生懸命台本を読み込んでいる様子が映し出されたが、この曖昧な認識のまま収録に臨んでしまったがために、後に地獄を見ることになる――。

■ハナコ岡部からの補足情報にかき乱される伊集院光

こうして『その恋、買い取ってもいいですか?』の収録がスタート。MCの山里が「この番組は、全国の恋する一般の方をスタジオにお招きし、意中の相手へ告白。その恋を買い取ってしまおうという恋愛バラエティ番組でございます」と概要を説明するが、それっぽいことを言っているようでやはり意味不明。しかし、内容を理解していると思われる「見届け人」のホラン千秋とAマッソ・加納は、これから訪れるであろうキュンキュンな展開に、早くも胸を躍らせている様子だ。

続いて紹介された「買取人」の伊集院光は「僕がこの席でいいのかっていうことはさておきですよ」と、異例のポジションであることを暗示。野々村友紀子は「正直、朝からめっちゃ緊張してて」と、百戦錬磨の彼女でもプレッシャーのかかる番組のようだ。

「一般の人が真剣に恋愛をしてるわけですから」(伊集院)、「納得の行く査定を頑張るしかないなと。皆さん真剣ですから」(野々村)と、「買取人」が重責を担う番組であることが伝わってくる中、スタジオで唯一番組趣旨を理解していない3人目の「買取人」せいやは「いろんな恋愛を見れるっていうことが、まず楽しみやなって」と軽いノリで発言。横に並ぶ伊集院と野々村が首を傾げたように見えた。

そんな不穏な空気の中、いよいよ「告白人」が登場。そこからの流れは……

・「買取応援人」のハナコ・岡部大が告白の背景を説明(※告白人に寄り添う天使のような存在)
・「買取人」から「告白人」に向けて、査定の参考にするための「質問TIME」(※買取人がトラップを仕掛けることもあるらしい)
・岡部がハート型の「ラブモニュメント」を設置し、ゲージがMAXまで点灯したら告白相手の「被告白人」が登場(※最初の山場のようで、点灯したら出演者が一様に安心したので、何か要素が足りなかったら点灯しないこともあるらしい)
・「告白人」から「被告白人」へ思いを伝える「告白TIME」(※見届け人の加納が乙女のリアクション)
・「買取人」がこの恋をいくらで買い取るかを査定する「LOVE HOW MUCH」(※岡部が、買取額が少しでも上がるように補足情報を投入。それを聞き、頭を抱えて悩む伊集院)

  • 「LOVE HOW MUCH」で頭を抱える伊集院光 (C)フジテレビ

■あの山里が全くフォローしてくれない

「LOVE HOW MUCH」で買取人が提示した金額は、伊集院「18万2千円」、野々村「17万5千円」、そして相場の全く分からないせいやは「3万円」。これには、ホラン、加納、岡部、そして告白人も落胆の色を隠せない。

明らかに安値を付けてしまったことを追及されたせいやは「すいません! 岡部がちょっとチラチラ目に入って…」と冗談で切り抜けようとするが、“真剣な恋を安く買い叩こうとする男”に対する周囲の視線は厳しい。いつもはどんなことでも拾ってくれるあの山里さえ、「気持ち切り替えて」と編集で切られる前提の一言アドバイスしかできない状況だ。

買取額が出そろうと、被告白人が買取人を選ぶ最大の山場「LOVE CHOICE」の時間。その結果、最高額の伊集院でも、最低額のせいやでもなく、中間の野々村が選ばれた。

ここで野々村は、支払い方法を選択する運命の時間「CASH or CARD」へ。たっぷり間をもたせて「CASHで」と口を開くと誰もが納得し、加納も「まあそっかあ~」と笑顔でこの選択を支持する。「ナイスCASH!」の声が飛び、依頼人も岡部も皆笑顔で、この買取は大成功だったようだ。

こうして1組目が終わったが、全く番組内容を理解できないせいやは「むちゃくちゃヤバい、この番組」と混乱が加速し、この後出てくる2組の査定でさらなるミスを犯してしまう。その上、『新しいカギ』で一緒にコントを作る仲間であるはずの岡部がどんどん遠い存在になっていき、告白を聞いて涙してしまった加納には「築き上げてきたもん今日で全部崩れたよ」とドン引きだ。

また、「倍額買取チャンス」「転売チャンス」「PUSH!!!ラブモニュメントチャンス」「LOVE THINK」「LOVE STOP(通称:ラブスト)」など、新たなルールが次々に登場するたび、「なんなんこのルール」「ずっと何言うてんの?」と、せいやの心の声はずっとONになっているが、誰も反応してくれず、スタジオで孤立を深めていく。本番前にスタッフが望んだ「雰囲気でガンガン盛り上げていただければ」という期待を、ことごとく裏切る結果となってしまった。

  • 「告白TIME」で一途な思いを聞いて涙するAマッソ・加納 (C)フジテレビ

■気持ち悪くて心地良い謎ワードたち

今回のような“呼びかけ系タイトル”の番組は『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京)や『突然ですが占ってもいいですか?』(フジテレビ)といったものが存在するだけに、『その恋、買い取ってもいいですか?』と言われても、正直、最初に違和感はなかった。「恋」「買い取る」といった要素を盛り込んだ番組もよくあるためだろう。

しかし、よくよく考えると、この2つは全く相容れないもの。それどころか、一途で真剣な恋を出演者が皆あれだけ本気で応援しているのに、実際にやってることは“金に換算して他人に売り飛ばす”という矛盾に満ちた構図であることに気づくと、たまらなく面白くなってくる。

また、「ラブモニュメント」や「LOVE HOW MUCH」など、意味が分かりそうで全然分からないワードで、さも当たり前のようにどんどん進行していく様が、気持ち悪くて心地良い。かつて『松本人志のコントMHK』(NHK)という番組で、通販で買った謎商品「ダイナミックアドベンチャーポータブル」を組み立てようとするも、ガイダンスの理解不能ワードに部屋の中で振り回されるコントがあったが、今回は集団の中でせいやだけが異空間に放り込まれた状況となっており、そのシュールな世界がスケールアップした印象を受けた。

そして、テレビ番組で重視される「説明」を相変わらず放棄する姿勢が素敵。まず、「恋を買い取ることでどうなるのか」というところから、「買取額が変動する要素」「買取人を選ぶ基準」「ラブモニュメントが灯る要因」「CASHとCARDそれぞれの利点」「LOVE THINKの15秒でやるべきこと」、さらには「岡部は“買取応援人”というより“告白応援人”ではないか」などなど、残された疑問は枚挙にいとまがない。

しかし、これらを全て割り切ることによって、せいやに対する番組との“共犯関係”となり、番組を見た人同士が次の日に学校で「あそこは絶対CASHだよね~」「まさかあのタイミングでラブストくると思わなかった~」と会話するのも楽しいだろう。

これまで放送してきた、(1)バイきんぐ・小峠英二のダブルブッキング→小峠を縦に分割して2番組同時出演 (2)ロケの撮影データ消去→街中の映り込み映像で取り繕う (3)マジックのコンプラ見落とし→1つのテーブルマジックを延々遠回りして見せる (4)ドラマの予算ショート→露骨な費用削減……という「スタッフのミスで起きたピンチを斜め上行く発想で乗り切る」パターンを覆し、また違った手法を見せてきた『ここにタイトルを入力』。いよいよ来週で6週連続の放送が最終回を迎えるが、どんなラストを飾ってくれるのか、期待は膨らむばかりだ。