JR九州は4月27日、西九州新幹線(武雄温泉~長崎間)の運賃と料金を発表した。本誌でも既報の通りだが、報道資料をもとに改めて紹介しよう。
■諫早~長崎間の運賃が在来線と同じ理由
報道資料では、西九州新幹線の運賃に関して、「諫早~長崎間は、長崎本線として並行する在来線が存在するため、長崎本線の営業キロ(24.9キロ)と同一とし、480円とする旨認可申請を行いました」と説明されている。
長崎本線と同一なら認可申請は不要ではないか、と思うかもしれない。わざわざ認可申請を行う理由は、実際の距離と異なるからだ。西九州新幹線の諫早~長崎間は、実際には21.2kmで、これを実キロという。新幹線は駅間をなるべく最短で結ぶルートになるため、在来線と同じ駅間でも距離は短い。それを「在来線と同じ距離にしますよ」というから、国の認可が必要になる。
なぜ在来線に合わせて、実キロより長い営業キロを設定するかというと、JRが在来線と新幹線の両方を運行する場合、「在来線の複線増加」とみなす考え方があるからだ。これは東海道新幹線開業時から採用されている。東海道新幹線のほうが実キロは短いが、運賃は在来線と同じ。つまり実キロより割高になる。なんだかずるいような気がするし、実際、1975(昭和50)年に「新幹線運賃差額返還訴訟」も起きた。最高裁まで争われ、「運賃は鉄道事業者の裁量の範囲」「在来線と新幹線は高度の代替性があり一体の施設」「別立て運賃とすれば乗車券の販売や変更手続きが増えて費用が増える」として原告が敗訴した。
ちなみに、九州新幹線の博多~新八代間や川内~鹿児島中央間も、在来線と同じ営業キロになっている。JR発足以降、新幹線の開業にともない並行在来線として分離する区間が多いため、開業後の新幹線は独立路線として扱われ、独自の営業キロを設定している。それだけに、在来線と同じ営業キロの申請は珍しい。
なお、JR九州の運賃制度では、新幹線の諫早~長崎間の実キロ21.2kmも在来線の営業キロ24.9kmも480円だが、距離数の差はこの区間を含む長距離きっぷの料金区分に関係する。
■武雄温泉~諫早間の認可申請がない理由
西九州新幹線の運賃については、報道資料で「その他の区間については、建設キロを営業キロとしますので、認可申請は行いません」とも記されている。
「その他の区間」は武雄温泉~諫早間のこと。諫早~長崎間と異なり、在来線の線増とはみなされないため、独立した新路線として扱う。したがって独自の営業キロを設定した。他の路線をなぞらないから、建設したキロ数をそのまま営業キロとする。認可申請しない理由は、認可済みのJR九州の運賃制度を適用するからだ。
武雄温泉~諫早間を独立した新線として扱う理由は、並行在来線とされた長崎本線の肥前山口~諫早間がJR九州の保有ではなくなるから。別会社が保有する路線だから、線増扱いにできない。肥前山口駅(西九州新幹線開業後、江北駅に改称予定)から諫早駅までの区間は、JR九州が23年間にわたり運行する約束になったが、線路保有者は「一般社団法人 佐賀・長崎鉄道管理センター」になる。そもそも在来線から離れているし、地図上でもかなり遠回りとなる線路と同じ運賃では、利用者の理解も得られないだろう。
■自由席特急料金の上限認可が必要な理由
西九州新幹線の特急料金に関して、JR九州の報道資料では「認可申請を行った西九州新幹線の自由席特急料金の上限額」とされている。
新幹線の列車に乗るとき、運賃の他に新幹線特急料金を払う必要がある。きっぷは1枚でまとめられることが多いが、よく見ると「乗車券・新幹線特急券」と記されている。新幹線特急券は指定席であり、自由席はわざわざ「自由席特急券」と呼ぶ。新幹線の座席はほとんどが指定席で、自由席の割合は少ない。
ゆえに、新幹線の特急券は指定席特急券が標準で、自由席特急券は「座席を指定しない代わりに料金を割り引いている」と思うだろう。筆者も最初はそう思っていた。しかし、国の認可制度では、自由席特急料金が標準で認可対象となる。自由席特急料金に指定席料金を加算することで、指定席特急料金が設定される。
つまり、最低限の運賃・料金は認可を必要とするが、それ以上の着席補償サービスは自由に設定し、届出を行えば良い。新幹線特急料金には閑散期・通常期・繁忙期が設定されており、利用者から見れば閑散期は値引き、繁忙期は割増しのように見える。しかし、運賃のしくみから見れば、自由席特急料金が基準で、閑散期は少し高く、繁忙期はもっと高く、通常期はその中間という考え方になっている。
JR九州によると、西九州新幹線の特急料金について、通常期は自由席より530円高く、繁忙期は730円を加算するとのこと。
ただし、新幹線の自由席特急券については、認可制度の特例的なしくみだ。在来線では特急料金に上限認可のしくみはない。これを理解するために、鉄道運賃の上限認可制度を理解する必要がある。
■そもそも認可運賃とは何か
鉄道運賃の上限認可制度は、簡潔に言えば「国が運賃の上限を認可しますよ。それ以上の勝手な値上げはダメですよ」というしくみ。鉄道は地域独占事業としてつくられた経緯があり、ライバルが不在。儲けようと思えばいくらでも値上げできる。それでは地域の人々が困るし、公共交通機関とはいえない。
そこで、運賃については国が上限を審査する。鉄道事業者が値上げを申請したとき、費用に対して適正な利益と認められた場合は認可される。費用の審査は他の地域の同業他社の費用を参考とする。
ただし、上限認可の対象は運賃、つまり乗車券だけであり、グリーン券、急行券、特急券、指定席券、寝台券などの料金は上限認可の対象にならない。鉄道事業者が任意に設定して届け出ればいい。しかし、あまりにも世情と離れていると判断された場合は、国土交通大臣名で「指導」される。
つまり、鉄道のきっぷは「運賃」「料金」の2種類があり、運賃は上限認可の対象、料金はその対象外。消費者保護の観点から、「鉄道を利用するための最低の値段は国がしっかり監督する」という趣旨である。
在来線の場合、自由席特急料金も含めて付加サービスは「料金」という扱いになる。しかし、新幹線は特急専用の路線といえるので、運賃だけでは乗れない。そこで乗車に必要な最小の組み合わせとして、自由席特急料金も上限認可の対象となった。
JRとしては、自由席特急料金の上限認可を受けたら、認可いっぱいの料金をいただきたい。しかし上限はある。「のぞみ」「みずほ」の自由席特急料金も割高にしたいが、「ひかり」「こだま」「さくら」「つばめ」で上限料金を設定したため、これ以上の値上げはできない。したがって、「のぞみ」「みずほ」の自由席特急料金も「ひかり」「こだま」「さくら」「つばめ」と同じになっている。
■上限運賃未満の値段設定は届出のみ
上限運賃は上限のみ定めており、つねに上限で運賃を設定する必要はない。値下げも設定できる。ライバルとの競争や集客など、営業政策のため、上限以下であれば割引運賃を設定できる。こちらは届出のみでよい。ただし、経営や市場を混乱させる場合に指導が入る。
西九州新幹線の自由席特急料金に関して、報道資料では「近距離利用の促進を図るため、届出により九州新幹線(鹿児島ルート)と同額の低廉な料金(斜字)を設定します」と説明されている。西九州新幹線では、全駅の相互間すべてで自由席特急料金の上限額を一律の1,760円と定めているが、短距離区間は上限運賃より安く設定された。たとえば新大村~諫早~長崎間の相互間で、実際の自由席特急料金は870円となり、ほぼ半額になった。
報道資料では、西九州新幹線「かもめ」と在来線リレー特急を乗り継ぐ場合の特急料金についても説明があり、「西九州新幹線『かもめ』と門司港~博多~武雄温泉間を運転する在来線のリレー特急列車(『リレーかもめ』)とを武雄温泉で改札を出ないで乗り継ぐときの特急料金は、新幹線と在来線の特急料金を各々1割引して合算した特急料金とします」とのこと。
西九州新幹線「かもめ」は武雄温泉~長崎間で運行され、博多~武雄温泉間は在来線の特急「リレーかもめ」が運行される。現在、博多~長崎間を結ぶ特急「かもめ」と比べて、武雄温泉駅で乗換えが必要となり、特急料金が合算となって割高になってしまう。それを少しでも緩和するために、双方の特急料金から1割ずつ値引きする。
なお、「西九州新幹線にかかわる割引きっぷにつきましては、改めてお知らせします」としており、西九州新幹線を利用できる割引きっぷの発売も匂わせている。開業までにどんな企画きっぷが登場するか、楽しみにしたい。
■ライバルは高速バスと空路
今回のJR九州の発表で、博多~長崎間の運賃・料金もわかった。「リレーかもめ」も含めて自由席を利用した場合、合計で5,520円になる。現行の特急「かもめ」だと、博多~長崎間で自由席を利用した場合の運賃・料金は合計5,060円だから、新幹線開業後は460円の値上げになる。所要時間が30分短縮されるとはいえ、武雄温泉駅で乗換えを強いられるだけに、運賃・料金とサービスが見合っているか気になる。しかし、博多~長崎間で鉄道を利用する場合、これしか選択肢がない。
西九州新幹線のライバルは高速バスだろう。博多~長崎間のスーパーノンストップ便は1日あたり片道約35便運行され、所要時間は約2時間半。停車タイプは1日あたり片道約22便運行され、所要時間は3時間超。料金は2,620円で、ほぼ半額となる。
西九州新幹線の所要時間は約1時間20分と見込まれ、高速バスに対して所要時間は半分、料金は約2倍。利用者のニーズに合わせて使い分けがあるだろう。
一方、空路と比較するとどうか。大阪から長崎までの空路が約1時間20分に対し、新大阪~新鳥栖~武雄温泉~長崎間は約6時間で、まだまだ空路が圧倒的有利だ。しかも、いままで博多駅または新鳥栖駅での乗換え1回のみだったが、西九州新幹線の開業後は武雄温泉駅でも乗り換える必要があり、乗換えの回数が2回に増える。
やはり全線フル規格で直通運転を行わないと、空路には勝てないだろう。
■並行在来線のダイヤ案を該当駅に掲示
JR九州は4月28日から、並行在来線となる肥前山口~諫早間の各駅に西九州新幹線開業後の運行時刻案を掲出している。地元に提案する未確定版だから、JR九州の公式サイトには掲載されていない。SNSでは目撃情報が写真とともに報告されている。おおむね既報通り、博多~肥前鹿島間の特急列車は上下14本、普通列車は増便となっている。
肥前山口駅に掲出された諫早方面の時刻表によると、始発列車は5時10分発の普通列車諫早行。7時27分発の列車は長崎行として運行される。普通列車はおおむね1時間あたり1本運行され、15~16時台は1時間あたり2本。行先は肥前浜行が多い。掲示された時刻表にはQRコードがあり、利用者の意見を伝えられる。
ところで、この区間を走っていた特急「かもめ」は西九州新幹線の列車名になる。博多~肥前鹿島間の特急列車は新しい名前になるはずだ。
長崎本線で過去に運行された優等列車の名称を調べると、昼間の列車は急行「ながさき」「出島」で、どれも長崎にちなんだ列車名だった。広島と長崎を結んだ急行「ふたば」は広島県の山の名前だ。博多~肥前鹿島間の特急列車はおもに佐賀県内を走るから、佐賀県にふさわしい名前になるだろうか。QRコードで同時に列車名募集もすればいいと思うのだが、どうなるだろう。
■開業日はブルーインパルスが飛来、「かもめマーク」に期待
読売新聞の4月30日付記事によると、長崎県は西九州新幹線の開業日イベントに合わせ、航空自衛隊の曲技飛行隊「ブルーインパルス」の展示飛行を行うという。航空自衛隊の広報サイトにも記載された。
ブルーインパルスは2011年3月12日の九州新幹線全通記念イベントで展示飛行を予定していたが、前日に発生した東日本大震災の影響で、展示飛行を含むすべての開業記念イベントを中止した。あれから11年。やっとブルーインパルスがやってくる。そういえば、西九州新幹線「かもめ」のシンボルマークをスモークで描いてくれるだろうか。青空に舞う「かもめ」マーク、実現したらイキだなあ。