「コミュニケーション力」は、わたしたちが社会生活を送るうえでの永遠のテーマといっていいでしょう。ただ、永遠のテーマゆえに、人間関係のコミュニケーションで悩むことは多いはずです。

最新刊『自己肯定感が高まる うつ感情のトリセツ』(きずな出版)が話題の心理カウンセラー・中島輝さんは、「トレーニングさえ積めば、必ずコミュニケーション力を高められる」と力強くいい切ります。そのトレーニングとはどういうものでしょうか。

■コミュニケーション力を左右するのは「しなやかさ」

——個人差も大きいとは思いますが、「コミュニケーションがうまい人」「コミュニケーションが苦手な人」には一般的にどんなちいがありますか?
中島 ひとことでいうと、「しなやかさ」を持っているかどうかですね。コミュニケーションとは、他人との関係づくりのことだと考えます。ただ、その関係づくりにおいては、自分と相手とのあいだで思考や価値観というものがぶつかってしまうこともあります。

人間は千差万別で、自分とまったく同じ思考や価値観を持つ人というのは存在しません。そんな自分と異なる思考や価値観を持つ人と接したとき、そのちがいを面白がったり、受け流したり、笑い飛ばしたり、「まあいいか」と許すといったしなやかさを持っている人が、コミュニケーションがうまい人です。

——逆にコミュニケーションが苦手な人というのは、そういうしなやかさを持っていない人ということですね?
中島 はい。自分と異なる思考や価値観を面白がれず、受け流せず、笑い飛ばせず、「まあいいか」と許すこともできない。いい換えると、「頑固な人」ということになるでしょうか。自分の思考や価値観に近い人とはつき合うことができますが、そうでない人とは衝突したり距離を置いたりしてしまうのです。

——では、そういうしなやかさを持たない人が、コミュニケーション力を高めるにはどうすればいいでしょうか。
中島 これはトレーニングをするということに尽きますね。逆にいうと、トレーニングさえすれば誰でもコミュニケーション力を高められるということでもあります。

もしかしたら遺伝的な影響もあるかもしれませんが、たとえば親などコミュニケーション力が高い人が近くにいる場合には、ふだんの会話などによって毎日のようにトレーニングをしているようなものですから、コミュニケーション力が高まっていきます。

■半年で100人と話す、コミュニケーション力向上法

——肝心のトレーニング法を教えてください。
中島 コミュニケーション力を高めたいという人には、次のようなトレーニングをすすめています。

【中島流「コミュニケーション力」向上トレーニング】
1.自分が話しやすい10人をリストアップして話してみる
2.その人たちにそれぞれ10人を紹介してもらい、さらに話してみる
3.6カ月で計100人といろいろな話をする

中島 話す内容は本当になんでも結構です。好きなアニメや映画、スポーツなどテーマを決めてもいいでしょう。話しやすい知人からスタートして、その知人を介して自分が知らない人とも話してみるのです。

そうするなかで、自分とは異なる思考や価値観をやわらかく受け止める緩衝力、あるいは共感力といったものが育まれ、結果として総合的なコミュニケーション力が高まります。

——知人と話すことはすぐにできそうですが、その人たちに紹介してもらった人と話すというのはハードルが高そうです。
中島 紹介される人の側からすると「なんでこんなことを頼まれるんだろう?」「変な人なのかな?」なんて警戒するかもしれませんね…(苦笑)。コミュニケーションが苦手だという人がいきなり赤の他人と話すことには抵抗を感じるということもあるでしょう。

そういうことが心配なら、紹介してくれる知人にもその場に同席してもらうといいと思います。そうしてお茶やお酒を飲みながら会話を楽しんでください。コミュニケーション力を高めながら、もしかしたら仕事につながる人脈を広げられるということにもなるかもしれません。

■コロナ禍のいまは、コミュニケーション力向上における危機

——コロナ禍によって、他人と直接会う機会が激減しました。このことを、コミュニケーション力を高めるという観点からどうとらえていますか?
中島 とくに、社会に出てそれほど時間がたっていない若い人にとっては好ましくない状況だと見ています。若いうちに先輩や上司に連れられてさまざまな人と会って会話をするということは、コミュニケーション力を高めるための最適なトレーニングといえます。そのトレーニングを若いうちにどれだけこなしたかが、30歳、40歳になったときのコミュニケーション力を左右します。

でも、いまはリモートワークも広まり、取引先など他の会社の人たちとの打ち合わせもオンラインになったという人も多いでしょう。オンラインでの打ち合わせの場では、先輩や上司が主導し、若手が発言するチャンス自体があまりないということもあるのではないですか? 仕事において、多くの人と会って会話をするということができづらくなっているのですから、先に紹介したトレーニングをプライベートで実践してほしいと思います。

——コミュニケーション力の重要性はどんなところにあるとお考えですか?
中島 人間は、文字通り「人の間」を生きています。社内外問わず多くの人とかかわるのがビジネスパーソンです。なにかを黙々とつくり上げる孤高の職人だって、買い手がいるからこそ仕事が成立します。他人とともに社会を形成しなければ生きられない人間にとって、人とかかわることは逃れられない運命のようなものなのです。

逃れられない運命なのですから、それはしっかりと受け入れなければなりません。ビジネスパーソンにとってというよりも、人間にとってコミュニケーション力がとても重要であることは間違いないでしょう。そう考えて、いまはコミュニケーションに苦手意識を持っている人も、ぜひ頑張ってコミュニケーション力を高めるトレーニングに取り組んでほしいと思います。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/川しまゆうこ