「NOといえない日本人」という言葉もあるように、わたしたち日本人の多くは自分の「本音」をなかなかいえないという国民性を持っています。しかしながら、本音を隠し続けていることも精神衛生上よくないことでしょう。

そこでお話を聞いたのは、最新刊『自己肯定感が高まる うつ感情のトリセツ』(きずな出版)が話題の心理カウンセラー・中島輝さん。本音をいえない理由、本音をいえる人が持つ特徴、そして本音をいえるようになるための方法を解説してくれました。

■日本人が本音をいえないのは、日本が島国だから

——欧米人に比べると日本人は本音をズバッといえないともいわれます。
中島 それには日本の地理的なことも影響していると思います。四方を海に囲まれた島国であるために、意識は外向きではなくどうしても内向きに働きます。その内向きの意識によって、「自分の世界を外向きに広げたい」ではなく「自分が所属するコミュニティーをしっかり守りたい」というふうに考えるわけです。

そのときに重要となるのは、コミュニティーのなかにおける「協調性」です。ですから、日本人の場合は周囲の人たちと強調してなにかをやり遂げるような力には長けているといえます。

でも、協調性を求めるということは、逆にいうと周囲と同じではないものを個性として認識するのではなく、異質なものとして敵視して排除しようという心理も働くということを意味します。「出る杭は打たれる」という言葉があるように、突飛な考えを持つような異質な人間を非難しがちだということも日本人が持つ特徴のひとつでしょう。

そうした周囲の空気のなかで、多くの人が「異質な人間として非難されたくない」「排除されたくない」と考え、なかなか本音をいえないのだと思います。

——そんな日本人のなかにも本音をズバッといえる人もいます。
中島 そういう人は、無意識のうちにも「人間関係の法則」というものを認識しているのかもしれませんね。人間関係の法則とは、「その人の言動のちがいにかかわらず、2割の人は支持し、2割の人は非難し、6割の人は『どうでもいい』と考える」というものです。

それこそ有名人であれば、たくさんのファンがいる一方で、なにをいってもなにをしても一定数の人には非難をされます。たとえ人間関係の法則なんてものを知らずとも、そういうことを肌感覚でわかっている人なら、「どうせなにをいっても非難してくる人はいるし、まあいいか」と考えていつでも本音をいえるということになるのでしょう。

——そうなると、その人間関係の法則を知るだけでも、本音をいえる人に近づくこともできそうです。
中島 まさにそのとおりだと思います。「どうせなにをいっても非難する人はするのだし、逆に支持してくれる人もいるんだ」と思えば、「じゃ、もう本音をいってしまえ!」と少し思えてきませんか?(笑)。

■「自分の強み」に意識を向ける「SWOT分析」

——人間関係の法則を知ることとは別に、本音をいえる人になるためにできることを教えてください。
中島 「本音をいえない」というのは、周囲と異質なものとして「嫌われることが怖い」ということでもあります。そういう人は、自分に「自信」を持てていません。たとえ異質だと認識されるとしても自分に自信があれば「たとえ嫌われてもいい」と思えて本音をいえるのですが、その自信がないために「嫌われることが怖い」という心理が生まれるのです。

では、なぜ自信を持てないのでしょうか? その理由は、「自分の弱み、短所、苦手なことなどネガティブな側面にばかり意識を向ける癖がついている」ということにあります。ですから逆に、「自分の強み、長所、得意なこと」というポジティブな側面に意識を向ければ、自分に自信を持つことができます。

——「自分の強み、長所、得意なこと」に意識を向ける…。自信を失っている人にはそれも難しそうです。
中島 たしかにそうかもしれません。そういう人には、企業の事業分析や戦略立案によく使われる「SWOT分析」を自分に対して行うことをおすすめします。次のようなかたちで、自分の「強み(Strengths)」「弱み(Weaknesses)」「機会(Opportunities)」「脅威(Threats)」の4項目を書き出します。

【SWOT分析】
1.あなたの「強み、長所、得意なこと」を紙に書き出す
2.あなたの「弱み、短所、苦手なこと」を紙に書き出す
3.あなたが「これから成長するための機会」を紙に書き出す
4.あなたを「脅かすもの、危険な人物」を紙に書き出す

■「自分の強み」を実際に活かすことで、自信を持つ

——自信を持つために「強み、長所、得意なこと」を書き出すというのはよくわかります。でも、「弱み、短所、苦手なこと」や自分を「脅かすもの、危険な人物」を書き出すことにはどういう意味があるのですか?
中島 どちらも、事前に「心構えができる」ということが理由です。なんらかの苦手なこと、あるいは自分を脅かすような恐怖を感じることに突然直面した場合、どうしても感情はネガティブな方向に一気に向かってしまいます。つまり、先にお伝えした自分のネガティブな側面ばかりに意識を向ける癖を強めることになるのです。

でも、自分の苦手なことや恐怖を感じることを事前にしっかりと認識していたらどうですか? 「自分はこのことが苦手なんだよな、怖いんだよな」「そして、そのことをわかっているぞ」という心構えがクッションとなって、感情がネガティブな方向に向かい過ぎることを抑えてくれるというわけです。

——なるほど。3番目の「これから成長するための機会」というのは?
中島 最初に書き出した「強み、長所、得意なこと」を活かす場面ということです。その場面で実際に自分の強みや長所を発揮してみたとしたらどうなるでしょう?

——それこそ自信が持てそうです。
中島 そうですね。自分の強みや長所というものは、自分にとってはあたりまえのことだと思っているためにふだんはなかなか自覚しにくいものです。それらをまずは紙に書き出してしっかりと自覚する。そして実際に活かしてみる。結果、その強みや長所をさらに伸ばすことにもつながりますし、自信を持つということにもなるわけです。

——最後に、「嫌われることが怖くて本音がいえない…」という人にメッセージをいただけますか?
中島 まず知ってほしいのは、あなたと他人はまったく異なる価値観を持つ別人だということです。同じ言葉で「お腹がすいた」といっても、あなたは大盛りラーメンが食べたいのに、他の人はシュークリームひとつでいいと思っているかもしれません。人間は千差万別であり、100人いれば100人それぞれが異なる価値観を持っています。

もちろん、別の人間だからといって他人の価値観をないがしろにしていいというわけではありません。でも一方で、他人の価値観に自分の価値観を無理やり合わせていくような必要もないのです。それぞれの価値観に沿ったそれぞれの本音を持っているのが人間なのですから、その自分の本音というものを大事にしてほしいと思います。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/川しまゆうこ