3者に優勝の可能性 最終局は上位対決に
藤井聡太王位への挑戦権を懸けて争われる、お~いお茶杯第63期王位戦(主催、新聞三社連合)の挑戦者決定リーグ白組の羽生善治九段―千葉幸生七段戦と久保利明九段―澤田真吾七段戦が4月19日に東西の将棋会館で行われ、羽生九段と澤田七段が勝利しました。
まずは羽生―千葉戦から。ここまで両者1勝2敗で、本局に敗れると最終戦を残して陥落が決まりますから、お互いに負けられない勝負です。本局は後手の羽生九段が居飛車と振り飛車を両にらみにする序盤で始まり、結果としてはそれほど前例がない形の相居飛車となりました。
中盤でリードしたのは千葉七段でした。自陣に馬を引き付けて、羽生九段からの9筋の端攻めを逆用する形で▲2四歩△同歩▲2二歩△同玉▲2五歩と手にした歩を活用して敵陣を乱します。対して羽生九段も先手玉にひたひたと迫り、終盤を迎えました。
■羽生九段は虎口を逃れ2勝目を挙げる
運命を分けたのは113手目の局面でした。ここでは両者1分将棋で、千葉七段の玉は既に受けが難しい形です。勝つには羽生九段の玉を詰ますしかありません。千葉七段は▲6三成銀と迫りましたが、△同玉▲6六香△5二玉▲4三銀△同玉▲4四金△5二玉▲5三金△4一玉の進行は後手玉が詰みません。以下も先手の王手ラッシュは続きますが、羽生九段が的確に逃げ切りました。戻って、▲6三成銀では▲5四桂と打てば先手の勝ちでした。後手は△同歩と取るしかありませんが、そこで▲6三成銀と捨てれば△同玉に▲6四飛で詰んでいました。ただ以下も手数は長いので、これは指運というしかないでしょう。
続いて久保―澤田戦。本局開始時点での白組トップは3勝1敗の池永天志五段で、2勝1敗の澤田七段がもう一人の1敗者。本局を制して池永五段に並びたいところです。対する久保九段は1勝2敗で、残留のためにはやはり負けられない一局です。本局は先手の久保九段が中飛車から三間飛車に振り直す形で、銀冠対居飛車穴熊の対抗形となりました。
■澤田七段が1敗を守って首位タイに
中盤、久保九段が▲1八香~▲1九飛の地下鉄飛車から、▲1五歩と敵玉頭を目指す端攻めを敢行します。とはいえ先手玉も戦場に近く、反動が怖いところでもあります。69手目の▲1五香に対して、△同角と取ったのが力強い一着。▲同飛で角香交換の駒損になるようですが、△2五桂と桂を取った手が同時に1二の香車を通して飛車取りにもなっています。よく見るとこれで先手の飛車が相当に危ないのです。▲2五飛とかわす手には△1三香打の二段ロケットが強烈になります。実戦は△2五桂以下、▲1四歩△同香▲同飛△1二香▲同飛成△同玉▲1六香△2一玉▲2五歩と進みました。この瞬間は駒割りがほぼ互角で、かつ1筋の制空権も先手が制したようですが、ここでの△6九飛が強烈な打ち込みで後手優勢です。先手は歩を持っていないので、細かい攻めができないのも痛いのです。以下は澤田七段が久保九段の粘りを振り切って1敗を守りました。
■最終局は複雑な状況に
この結果、白組は3勝1敗で澤田七段と池永五段が並びました。2勝2敗で羽生九段と糸谷八段が続きます。リーグ最終局は澤田―羽生、池永―糸谷の上位4人の直接対決となっています。現時点で3勝の澤田七段、池永五段は最終局に勝つと4勝となり、4勝が2人の場合は両者によるプレーオフが行われます。
次に澤田―羽生戦で羽生九段が勝ち、池永―糸谷戦で糸谷八段が勝った場合、澤田七段、羽生九段、池永五段、糸谷八段の4人が3勝で並ぶことになります。この場合は4者間の直接対決により順位を決定しますが、ここからが少し複雑です。この4者の直接対決を見たところ、澤田七段と池永五段は1勝、羽生九段と糸谷八段は2勝で、またも羽生九段と糸谷八段が並ぶことに。そうすると羽生九段―糸谷八段の直接対決を参照するのですが、これは糸谷八段が勝利しています。よって糸谷八段がリーグ優勝となります。
結論としてまとめると、最終局の澤田―羽生、池永―糸谷の対局結果で
■澤田、池永勝ち 澤田、池永によるプレーオフ(4勝1敗が2名)
■澤田、糸谷勝ち 澤田七段の優勝(4勝1敗が1名)
■羽生、池永勝ち 池永五段の優勝(4勝1敗が1名)
■羽生、糸谷勝ち 糸谷八段の優勝(3勝2敗が4名、直接対決参照)
となります。
白組を制して挑戦者決定戦へ進出を果たすのは誰になるでしょうか。
相崎修司(将棋情報局)