多様性と包括性のある社会を目指し、刑務所との新たな協働について考える「刑務所と協働するソーシャル・イノベーション」が、3月17日に開催された。

さまざまな分野で活躍する社会起業家やビジネスパーソンに向けて、刑務所との協働を呼びかける本カンファレンス。「再犯防止」「地域社会への貢献」など刑務所を取り巻く課題の解決と、"誰も置いていかない社会"という人的資源の社会的包摂を含めた「循環型社会」の実現が目標に掲げられた。

後編となる本記事では、各界の有識者が意見交換を行ったインスピレーショントークをレポートする。

【前編】刑務所との協働を目指すカンファレンスが開催 - 刑務所が地域コミュニティのハブに?

  • 地域社会への貢献に焦点を当て、各界の有識者が意見交換を行ったインスピレーショントークを行った

■受刑者に人気の就職先は?

最初に登壇したのは、非行歴・犯罪歴を持つ人を対象とした日本初の受刑者専用求人誌『Chance!!』編集長でヒューマン・コメディ代表の三宅晶子氏と、認定NPO法人「育て上げ支援ネット」理事長の工藤啓氏だ。出所後の就業支援などを行う立場から、2人は再犯防止や社会の包摂性についてトークを展開した。

「刑務所の受刑者は、決して給料が高い求人に応募が集まるわけではなく、アットホームな会社が人気。例えば社長が賄いで夕食を作るとか、福利厚生の範疇を超えて社員に寄り添ってくれる会社の方が、応募率も定着率も高いですね」(三宅氏)

一方で「いくら面倒見のいい会社に入社しても、本人がそこにどっぷり依存する心持ちだとうまくいかない傾向があると思います」とも指摘した。

  • 受刑者専用求人誌『Chance!!』編集長でヒューマン・コメディ代表を務める三宅晶子氏

また、少年院と連携して若者支援を行う工藤氏は、現在の出所後の活動を取り巻く課題や問題点について見解を述べた。

「一般的には知られていませんが、少年院・刑務所は塀の内側と外側で部局が違っていて、中でも外でも担当できる担当者がいないという問題があります。少年院や刑務所の中の人に塀の外で会うことは原則として許されておらず、それって文字通り壁がある状態。我々もこういう会場で知人がいたら、それだけで少し緊張がほぐれたりするのと同じで、外に知っている人がいる安心感はけっこう大事なのかなと。イメージとしては塀の中に入っていって、手をつないで一緒に出てくるような関係性が理想だと思います」(工藤氏)

  • 認定NPO法人「育て上げ支援ネット」理事長の工藤啓氏

また、一般に出所者に対する偏見や差別は、他の偏見や差別以上に厳しいという話もある。加害者と被害者が存在するだけに、その背景には社会的な制裁として容認されてしまう気持ちや感情が見えることも。

「そもそも新しい加害者も被害者も生まない方が当然いい。欧米などに比べて日本では『投資として経済的リターンがある』『再犯率が下がる』といったメリットが語られる機会が少ないのかなと。刑務所や受刑者に関する記事やイベントって多くの人に興味を持たれますが、SNSで拡散する行動にまではつながらない。関心があっても外へ発信しにくい状況では、社会の包摂性は担保されないと思うので、SNSでこうした話題に『いいね!』をつけるだけでも価値のあることだと思います」(工藤氏)

■サーキュラーエコノミーの波は刑務所にも

「サーキュラーエコノミーが刑務所のあり方を変える?」と題されたインスピレーショントーク2では、サーキュラーエコノミー研究家の安居昭博氏と鴨志田農園園主でコンポストアドバイザーの鴨志田純氏が登壇した。

設計やデザインの段階から廃棄を生み出さないことを念頭に置くサーキュラーエコノミーだが、安居氏と鴨志田氏は2020年から「黒川温泉一帯地域コンポストプロジェクト」のアドバイザーとして参画。同エリアの旅館で発生する食品残渣を回収し、地域の落ち葉や牛糞、もみ殻なども使いながら堆肥化して地元食材の生産に生かす取り組みを実施している。

「生産拠点から市場に商品が供給されて廃棄処分される従来のかたちと違い、資源循環の仕組みに基づくサーキュラーエコノミーでは、市場に渡った製品が再びリペアメンテナンスの拠点に戻り、再出荷される。今まで以上に修理メンテナンスの文化が進むことで、新たな雇用創出が見込まれています」(安居氏)

  • サーキュラーエコノミー研究家の安居昭博氏

これまで多くの業界や企業では廃棄物に関する情報は公にならなかったが、他の企業や分野にサステナブルへの意識が高まる中、そうした情報が共有されて新しい可能性が誕生する事例もあるようだ。

「ある漁業組合が廃棄していた貝殻が漆喰や化粧品の材料に使われる例があるように、サーキュラーエコノミーでは新しいつながりによって課題を可能性に変える性質があります。そこは本カンファレンスの主旨とも深く関連するところかと思います」(安居氏)

日本でも敷地内でコンポストを設置している刑務所があるそうだが、資源循環の仕組み作りには地域との連携が必要なため、刑務所と地域社会の新たな結びつきが生まれる可能性もあるという。

  • 鴨志田農園園主でコンポストアドバイザーの鴨志田純氏

また、鴨志田氏らが力を入れる完熟堆肥作りには、水分割合や原料の配合について専門的な技術も必要になるそう。

日本は食料自給率の前に肥料自給率が低いという問題があり、今まで廃棄処分されていた生ごみを資源として使い続けるには堆肥技術者の育成が求められている。出所後の仕事にもなるので、刑務所と連携をして地域一体でこうした取り組みを進めることは、社会的に意味があることだという。

■投資家が再犯防止の取り組みを変える

最後に登場したのはインパクト投資の世界で10年近いキャリアを積み、ゼブラ アンド カンパニー共同代表を務める田淵良敬氏。「ソーシャル・イノベーションと新しいお金の流れ」について語った。

田淵氏の社名にもあるゼブラ企業は、利益を最優先するのではなく持続可能な範囲での成長を重視し、よりよい社会の構築を追求する企業のこと。利益を優先する「ユニコーン企業」へのアンチテーゼとして、アメリカで生まれた考え方だ。

田淵氏が再犯防止に関する投資の代表例として紹介したのが「ソーシャル・インパクト・ボンド」なるイギリスの取り組み。元受刑者に対する支援サービスの成果を評価し、目標達成度などに応じた報酬が行政から事業者へ支払われるという仕組みである。

  • ゼブラ アンド カンパニー共同代表を務める田淵良敬氏

「政府主導で民間事業者に仕事を発注する場合、日本でも海外でも成果払いで支払われることはほぼなく、固定の金額が支払われています。ですが、それでは事業者が成果を上げるインセンティブがはたらきにくい。成果報酬型の仕組みを導入することのメリットとしては、よりよい結果が得られるのに加え、投資家と事業者、行政という関係者が同じ方向に向きやすくなるということが挙げられます。また、頑張っても成果が上がらなかった場合の負担やリスクを事業者が一手に負うのではなく、出資によって投資家とリスク分担できる点も特徴です」(田淵氏)

投資というスキームの活用によって資金面のメリットがあるのはもちろん、成功事例や成果の高い取り組みを、世に広く浸透させていけるといった特徴もあるという。

「私も再犯防止プロジェクトに関わった経験がありますが、投資家としてできることは受刑者のフェーズによっていろいろあると思います。就職斡旋事業・教育事業もそうですし、出所後の居場所ということを考えるとコミュニティ事業のニーズもあります。ただ、より本質的に社会を変えていくには、受刑者に対する根強い社会通念や固定観念を長期的に変えていくことも大切だと感じます」(田淵氏)