近年、横浜市は人口が増加し、企業の進出も著しかった。今後は人口減少が予想されているものの、横浜市の中でも新幹線停車駅である新横浜駅の存在感は強まっている。2023年春には、新横浜駅を経由する相鉄・東急直通線の開業が予定されている。

  • 東海道新幹線の全列車が停車し、JR横浜線や横浜市営地下鉄ブルーラインへ乗換え可能な新横浜駅。来年春には相鉄・東急直通線も開業する

相模鉄道は横浜駅を軸に、神奈川県央に路線網を有する大手私鉄として知られる。関東を地盤としながら、長らく東京都心へ乗り入れておらず、東京進出を悲願としてきた。

2019年11月、西谷駅から羽沢横浜国大駅を経てJR線と直結する相鉄・JR直通線が開業。JR線との相互直通運転により、東京進出を果たした。新横浜駅を経由して東急線と相互直通運転を行う相鉄・東急直通線(日吉~新横浜間は東急新横浜線、新横浜~西谷間は相鉄新横浜線として営業)の開業により、相鉄がさらに存在感を強めることは間違いないだろう。

東海道新幹線とJR横浜線、横浜市営地下鉄ブルーライン、来年開業予定の相鉄・東急直通線と、鉄道路線の集積する新横浜駅だが、その歩みは決して順調なものではなかった。

  • 新横浜駅北口。大きな駅ビルを併設

  • 新横浜駅は横浜市営地下鉄ブルーラインの駅も設置されている

1964(昭和39)年、東海道新幹線東京~新大阪間の開業に合わせ、横浜線との交差部に新横浜駅が開設された。駅名に「新」と付けられたことからも、歴史の浅い駅であることがうかがえる。旧街道や旧城下町でもない新横浜駅周辺は、商店等もとくにない農村然とした雰囲気だった。新横浜駅が開設された当時、現在のように大きく発展した街並みを想像した人は皆無だっただろう。

横浜市の中心は現在も横浜駅・桜木町駅を中心とする一帯だが、東海道新幹線の全列車が停車するようになった新横浜駅のアドバンテージは大きい。ただし、実際に新横浜駅で下車してみると、駅の南側・北側で街の様相は大きく異なる。初めて下車する人は、その落差に驚くのではないだろうか。

新横浜駅の「表の顔」といえる北口には、大きな駅ビルが併設されている。駅から続くペデストリアンデッキによって繁華街と直結し、多くの利用者がこちらへ流れていく。横浜F・マリノスの本拠地でもある日産スタジアム(横浜国際総合競技場)も北口側にあり、ペデストリアンデッキにチームの旗がなびく。駅前の繁華街に「F・マリノス通り」と呼ばれる街路があり、飲食店が軒を連ねる。

  • 北口のペデストリアンデッキに横浜F・マリノスの旗がたなびく

  • 繁華街を貫くF・マリノス通り

  • 中華街も有名だが、新横浜ラーメン博物館にもラーメン好きが集まる

F・マリノス通りから駅北側に広がる繁華街を歩くと、新横浜ラーメン博物館が現れる。1994(平成6)年にオープンした同館は、後にブームを巻き起こすフードテーマパークの先駆けとなった。

さらに進むと、新横浜駅前公園が見えてくる。この公園は鳥山川を挟んで新横浜公園とほぼ一体化しており、厳密に区別している利用者は少ないかもしれない。新横浜駅前公園は小ぢんまりとした雰囲気で、周辺住民やオフィスワーカーにとって憩いの場となっているようだ。

  • 鳥山川を挟んで駅側にある新横浜駅前公園

  • 日産スタジアムは、試合のない日でも地域住民の憩いの場となっている様子

  • 日産スタジアム正面

対する新横浜公園内には日産スタジアムがあり、周辺にバスケットコートや球技場などが並ぶ。試合のない日は地域住民が散歩やジョギングなどをしているくらいだが、「スポーツの殿堂」といった趣は感じられる。

日産スタジアムの周辺では、農地が広がり、野菜を栽培している様子も見られる。東海道新幹線の全列車が停車する日本屈指の巨大な駅となり、せわしなくビジネスマンらが闊歩する一方で、のどかな雰囲気を残す農地が広がっている様子は不思議な光景に映る。

スタジアムが立地する新横浜公園は、遊水池としての機能も有している。遊水池とは、豪雨や長雨などで雨量が増した非常時に水を流し込む遊休地のこと。平時は公園等に使用され、有事になると防災用に供する。そうした運用により、新横浜駅周辺の人家を水害から守っている。スタジアムの裏側には、JR横浜線の小机駅があり、ここもスタジアムの最寄り駅のひとつとして案内される。

  • 日産スタジアムの脇に広がる農地

  • 小机駅は日産スタジアムへのもうひとつの最寄り駅

  • マンホールもマリノスカラー

  • ひっそりと「ワールドカップ大橋」の銘板が取り付けられている

日産スタジアムから東側へ歩くと、「ワールドカップ大橋」との銘板が取り付けられた橋梁に出くわす。2002(平成14)年、日韓ワールドカップが横浜国際総合競技場で開催されたことを記念したものだが、ワールドカップ開催から20年が経過したこともあってか、周辺でワールドカップを思わせるような碑などはとくに見当たらなかった。

ワールドカップ大橋を越えると、コンサートやスポーツイベントの会場として使用される横浜アリーナが見えてくる。横浜アリーナは日産スタジアムとともに、新横浜駅に多くの来街者を呼び寄せる集客施設だが、現在は使用を休止しており、今年7月末まで大規模改修工事が行われている。

  • 現在、横浜アリーナは改修中

  • 新横浜駅の篠原口。周辺は純然たる住宅街

こうした街のにぎわいを牽引する駅北口に対し、駅の南側へ出る篠原口は、駅前からして住宅街然とした風景が広がっている。

しかし、篠原口側では相鉄・東急直通線の開業を見据え、2008年前後から再開発計画が進められていた。駅ビルのほか、駅前広場などを整備する計画とのことだが、現状では目に見えるような進捗状況にはなっていない。

再開発を行うにあたり、地権者との交渉、行政・事業者による計画策定などが必要となるため、簡単に事は進まない。相鉄・東急直通線の開業に間に合うとは思えないが、長期的に開発されていくことを期待したい。

東海道新幹線の開業後、大きく変貌を遂げた新横浜駅。相鉄・東急直通線の開業にともない、駅周辺に再び変化の波が訪れようとしている。