スバルが初めて作ったピュアEV(電気自動車)の「ソルテラ」は、はたしてスバルらしいクルマなのか。電動車開発では一日の長があるトヨタ自動車との共同開発なので、そのあたりには不安があった。スバル車が得意とする雪道でソルテラに試乗し、実力を探ってみた。

  • スバル「ソルテラ」

    スバルの新型EV「ソルテラ」。2022年年央までに発売予定だ(本稿の写真は撮影:原アキラ)

似たサイズ感のライバル多数

車名のソルテラはラテン語の「SOL」(太陽)と「TERRA」(地球/大地)を組み合わせた造語。開発コンセプトは「Upscale Practical(格上の実用性)なSUV」だという。このクルマのプロトタイプに群馬県水上の群馬サイクルスポーツセンター(標高900m)で試乗した。コースを含め、あたりは一面の銀世界だ。

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    群馬サイクルスポーツセンターの雪上コースに「ソルテラ」で突入!

ソルテラのボディサイズは全長4,690mm、全幅1,860mm、全高1,650mm。ホイールベースは2,850mmで、最低地上高は210mmを確保している。スバルでは「フォレスター」、トヨタでは「RAV4」や「ハリアー」と同等のサイズ感で、EVだと日産自動車「アリア」、ボルボ「C40 Recharge」、フォルクスワーゲン「ID.4」、メルセデス・ベンツ「EQA」、BMW「iX3」、アウディ「Q4 e-tron」など、主要メーカーのメインSUVモデルがガチンコのライバルとなる。今、最もホットなゾーンに属するクルマだ。

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    「ソルテラ」には似たようなサイズ感のライバル(EVのSUV)がたくさんいる

プラットフォームは「e-SUBARU GROBAL PLATFORM」を採用。低重心・高剛性なEV専用の車台だ。ちなみに、兄弟車であるトヨタ「bZ4X」では「e-TNGA」と呼んでいる。全体的なスタイリングは、エアロダイナミクスを考慮した低く伸びやかなSUVスタイルを形成。bz4Xがグリルレスの近未来的な顔つきであるのに対し、ソルテラはフロントに大型のヘキサゴン枠を装着していて、「C」シェイプの前後ライトとともにスバルらしさを強調している。一方で、フロント左右のエアダクトや左右2分割のリアウングなどはbZ4Xとほぼ同じ意匠だ。

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  • フロントは「ヘキサゴン」型のパネルでスバルらしさを強調

ソルテラにはFWD(前輪駆動)とAWD(4輪駆動)がある。パワートレインはFWDが前150kWの1モーター、AWDが前後80kW、合計160kWの2モーター式。0-60mph(96km/h)加速は7秒台前半というから、2t前後の車重としては十分な瞬発力を備えている。フル充電での走行可能距離(WLTCモード)はFWDが530km前後、AWDが460km前後。

複数の機能を集約したコントロールユニットとモーターを一体化したフロントの「e-Axle」は前後長を短くし、リアは高さを抑えることで室内空間を拡大。総電力量71.4kWhのリチウムイオンバッテリーはパックの内外に補強材を入れて電池保護を行い、さらに水冷電池冷却システムは室内エアコンシステムと共用することで、BEVの弱点となる室内空調についての最適制御が行える設計となっている。万が一の事故で電池ケースが破損しても、冷却水がケース内に入らないような構造とし、また入ったとしても、ショートを防止するための保護対策は万全とのことだ。

狭い雪道でも不安なし?

ドライバーズシートに乗り込んでみると、ポジションは意外にもスポーティー。ちょっと足を前方に投げ出すようなスタイルが自然に取れる。小径ステアリングの上から見る7インチトップマウントメーターは視線移動が少なく、HUD(ヘッドアップディプレー)がなくても問題なし。ただし、表示の文字がちょっと小さめなのと、ステアリングのリムの上端が少し画面にかかってしまうところが気になった。bZ4Xはステアバイワイヤ方式を採用した異なるデザインのステアリング(飛行機の操縦桿に似て上面が開いている)を用意するそうだが、ソルテラには設定がないようだ。

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  • 内装はブラウンレザーも選べる

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    後席は足元が広々としているものの、敷き詰めたバッテリーの影響なのか少し床面が高くなっていて、膝下が少し浮くようなポジションとなる

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  • ステアリングの上から見るトップマウントメーターを採用。シフトはダイヤル式。ステアリングのパドルで回生量を調整できるのは「ソルテラ」のAWD車だけ(FWDおよびトヨタのbZ4Xには付いていない)

サイクルスポーツセンターの雪上コースは全長約6km、標高差40mで、適度なアップダウンと急なコーナーが連続している。ラッセル車で幅3mほどの路面が作ってあり、その上をソルテラで走った。

試乗車はAWDモデル。スタートボタンでシステムをONにし、丸型のシフトダイヤルを右に回して「D」(ドライブ)に入れるとあっけないほど簡単に走り出してくれた。雪上であることを忘れるほど、前後輪のグリップ感が伝わってくる。

まずはオススメの「Sペダルドライブ」(つまりはワンペダルモード)にして、先導車と赤のソルテラに続いて走る。コース上にはコーナーの大小に応じ、20km/h、30km/h、40km/hの速度制限があるのだが、アクセルペダルを緩めると自然に減速してくれるし、直線になってアクセルを再び踏みつけるとグイグイと加速していく。ワンペダルの減速Gは最大で0.15Gというから急激なものではないが、雪上でも姿勢を乱さずにコントロールできる。

狭いコーナーや抜けてからの立ち上がりも安定感は抜群。前後独立モーターによって4輪のグリップ力を均等に配分してくれているためで、雪道での運転が上手くなったように感じてしまう。コースサイドは高さ1mほどの雪の壁となっていて、オーバースピードで突っ込んだり、直線路でもお尻を振ってぶつけたりすると結構なダメージをくらいそうな気がしていたけれども、途中からは、ペースに乗った走りができるソルテラをしっかりと楽しんでしまった。

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    全体的に狭い雪上コースでも不安なくコントロールできた

データから見ると、圧雪路での発進については従来型では25km/hまでスリップが続いていたのに対して、ソルテラは13.8km/hでグリップができるというふうに大きく改善。コンベ車(エンジン車)だとアクセルオンから0.6秒前後で加速度が5.4m/s2に達していたのが、ソルテラは0.4秒で6.2m/s2とレスポンスが段違いに速い。

40km/hからの加速についても、コンベ車が変速の段付きによって1m/s2、2m/s2、3m/s2(6秒後)と上下に振れるのに対して、ソルテラは5秒前後で4m/s2まで一気に上がっていくので、滑らかさという点でも差は明らかだ。つまり、「機械式AWDでやろうとしていて越えられなかった壁が、EV化によってかなり理想に近い形でポンと進化できた」(スバルの小野大輔プロダクトGM)ということなのだろう。

また、スバル独自のAWD技術としての「Xモード」には、新たな機能として「グリップコントロール」を追加。こちらは悪路を一定速度で車両を安定させながら走行できる機能で、Xモード時に車速を2km/h、4km/h、6km/h~と5段階で選ぶことができる。雪上に設置された前後左右の凹凸路で試したが、軽々とクリアできた。ちなみに、グリップ力は4km/h時に最大となるそうだ。

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    「Xモード」には「グリップコントロール機能」を追加

BEVの心臓部や安全面(トヨタセーフティセンスⅢ)などはトヨタ色が強いものの、雪道や悪路で力を発揮するAWD性能からはスバルらしさが感じられた。雪上を走った感じからいうと、実力はエンジン車よりも“格上”なようだ。

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