JR東日本は2月25日、「山手線の自動運転に向けた試験」を報道公開した。過去の試験は終電後の夜間に行われたが、今回の試験は営業運転中の日中時間帯に実施。2月中旬から下旬にかけて試験走行を5回行い、自動運転による乗り心地や省エネ性能を検証した。

  • 運転士が運転台のボタンを押すと、列車が発車する

JR東日本はグループ経営ビジョン「変革 2027」において、ドライバレス運転の実用化を目標としている。その実現のため、2018年度から山手線でATO(自動列車運転装置)の試験を開始した。これまでに加減速や定速走行、駅への正確な停車、乗り心地、運行間隔調整といったさまざまな試験や検証を行っており、一定の成果を得たことから、営業走行中の環境で列車が問題なく走行できるか確認すべく、日中時間帯の走行試験を実施することとなった。

報道関係者やJR東日本の関係者らを乗せた試験列車は、11時30分頃に山手線の車両基地である東京総合車両センターを発車。大崎駅から山手線外回りを2周走行した。駅に停車するごとに、各区間の所要時間と停止位置の誤差がアナウンスで報告される。

  • 省エネ運転についての説明。赤線は青線の通常運転より惰性走行が長く、制動時間が短い理想的な運転とされる

JR東日本の担当者から、まずは省エネ運転について説明があった。山手線の各区間はD-ATCによって制限速度が定められている。ATO試験では制限速度ギリギリまでスピードを出さずに、惰性走行の時間を長めに設定。ブレーキのタイミングを秒単位で検討し、ブレーキをかけている時間を短くすることでエネルギー消費を減らす。これらの工夫だけでも、通常運転時より約10%の消費電力削減が可能だという。

乗り心地を確かめるため、吊り革につかまって立ってみる。発車や停止の瞬間に感じる揺れは通常運転時と比較してもとくに変わらず、まったく気にならない。取材日は晴天だったが、ATOシステムは雨天等の天候の変化にも柔軟に対応している。今後は雨天モードや晴天モードといった切替えを行えるように検討していくとのことだった。

ホームドアの設置が進む山手線では、停止位置の誤差の許容範囲を35cm以内としている。取材時は外回りを2周したが、誤差が10cmを超えた駅は3駅程度しかなく、非常に正確だった。

  • 停止位置の誤差はかなり少ない

  • 1号車に設置された2台のモニターに、D-ATCの指示速度や実際の運行速度、ブレーキを表すグラフが映されていた

その後、1号車に移動して別の担当者から説明を受ける。2枚のモニターにグラフが映され、D-ATCの指示速度や実際の運転速度、ブレーキの強さを表す線が描かれていた。列車は駅を発車すると順調に加速し、ATCの指示速度より少し遅めの速度で惰性走行を開始。勾配などに応じて加減速しつつ、ブレーキを徐々にかけて駅に停車する。

ATOの開発にあたり、山手線の指導運転士の意見も取り入れた。熟練の運転士から区間ごとの乗り心地や省エネに関する助言を得て改善したとのこと。これらの試行錯誤により、ATOでも技術の高い運転士による運転と遜色のない運転を実現している。

  • ATO運転時、運転士は手を離した状態で前方を目視している。ハンドル操作をすれば、自動でマニュアル運転に切り替わるという

  • 運転室内に目盛りが貼り付けられ、担当者が目視で停止位置の誤差を確認し、車内にアナウンスする

  • 発車時は、写真中央の「インチング」ボタンを3秒程度押下する。EBスイッチもそのまま使用していたが、ATO実装後のEBスイッチの扱いは今後検討するとのこと

運転室に入ると、運転士の他に担当社員が2名程度乗務し、作業を行っている。駅を発車する際、運転士が「インチング」ボタンを3秒程度押下。すると、ハンドル操作を行うことなく列車が発車した。「インチング」は本来、短時間でモーターの起動・停止を繰り返すことを意味するのだが、今回の試験に向け、ボタンを流用したようだ。運転士は走行中もハンドル操作を一切行わず、前方目視に集中している。EBスイッチの動作音が鳴り、運転士がスイッチを押す。担当者によると、ATO運転開始時までにEBスイッチの扱いも検討していくという。

停車駅が近づくと、列車は自動的にブレーキを開始。最初は弱めに、やがて徐々にブレーキを強めていく。駅に停車した後、運転室の側窓に貼り付けられた目盛りで誤差を目測し、車内アナウンスで報告した。揺れはほとんど気にならず、停止位置の大きな誤差もないまま、試験走行は14時前に終了。列車は東京総合車両センターに戻った。担当者らは、非常に順調かつ良好な試験結果だったと受け止めたようだ。

山手線では、2025年から2030年までにATO運転開始をめざす。ATO運転の実現により、乗務員の負担軽減や働き方改革に寄与するという。さらに、2030年代にはATACSの導入によるドライバレス運転の実現を目標としている。今後も試験を重ね、早期実現に向けて取り組んでいく。東京の中心を走る山手線に再び大きな変化が訪れる日も、そう遠くはないかもしれない。