JR東日本の水素ハイブリッド電車FV-E991系「HYBARI」。2月18日に鎌倉車両センター中原支所(川崎市中原区)で報道公開され、燃料電池の稼働実演も行われた。3月下旬以降、南武線川崎~登戸間と南武線支線(浜川崎~尻手間)、鶴見線で実証試験を開始する予定となっている。
水素ハイブリッド電車「HYBARI」は、水素をエネルギー源とするハイブリッド車両(燃料電池)試験車両として開発された。燃料電池装置は2号車の床下に計2箱(1箱あたり燃料電池2つ)を搭載。屋根上の水素貯蔵ユニットは計4ユニットあり、水素タンクを合計20本(1ユニットあたり水素タンク5本を固定)搭載している。水素貯蔵ユニットに充填された高圧水素は、屋根上配管ユニットで燃料電池装置の稼働に適した圧力に減圧され、床下配管ユニットから燃料電池装置へ供給される。水素充填口は床下配管ユニット内にあるとのこと。
報道公開では、車内・外観の撮影に続き、燃料電池の稼働実演が行われた。燃料電池装置が起動した後、装置から水蒸気が噴き出し、水滴が線路上へこぼれ落ちる。燃料となる水素と空気中の酸素が化学反応することにより、電力の発生とともに水が生成され、床下から排出されるという。
「HYBARI」のハイブリッド駆動システムは、燃料電池装置からの電力と、主回路用蓄電池(バッテリー)からの電力を主電動機へ供給し、車輪を動かす制御を行う。主回路用蓄電池は1号車の床下に2箱取り付けられ、大容量の蓄電池を搭載。燃料電池装置からの電力とブレーキ時の回生電力を充電する。電力変換装置(コントロールユニット)も1号車の床下に取り付けられ、VVVFインバータ装置と補助電源装置を小型化して1箱に収納することにより、床下専有面積の縮小化を図った。
なお、「HYBARI」では異常時への対応として、水素タンクの周辺温度が異常な上昇を示した場合、自動的に水素を大気中へ放出し、拡散させるしくみになっている。屋根上に異常時水素放出口を設置しており、設置位置や放出角度も安全に配慮したという。
「HYBARI」の概要説明はJR東日本研究開発センター所長の大泉正一氏が行い、インタビューにも応じた。大泉氏は「HYBARI」に関して、「水素を燃料とする燃料電池の特徴は、非常にクリーンであること。次世代を担う鉄道車両として、大きな期待を持っています」「我々が『水素ハイブリッド電車』と呼んでいるように、この『HYBARI』は電車として国土交通省に届出を行い、許可をいただきました」とコメント。開発費用に関する質問もあり、「車両単体の額は公にしていませんが、実証試験にあたっての設備改修なども含めると約40億円」と答えた。
3月下旬から始まる実証試験では、「HYBARI」の車両性能に加え、水素燃料電池と蓄電池のハイブリッド制御、水素消費量測定、水素充填方法の検証などを行う。「水素の充填はこの中原支所をはじめ、鶴見線営業所と扇町駅で行う予定です。70MPa・35MPaの2段階で充填を行い、試験を進めていきます」と大泉氏。70MPa充填は航続距離が約140kmと長く、35MPa充填は短時間で充填可能というメリットがある。
「将来的には架線のない線区で走ることも視野に入れています」とした上で、大泉氏は電化区間の南武線と鶴見線を試験区間に選んだ理由についても説明した。水素を燃料とする車両を走らせるにあたり、「供給拠点を設置でき、水素に対する理解のあるところを調査してきました。その結果、とくに臨海部において水素の製造・供給が容易であること、川崎市を中心に、横浜市、神奈川県がさまざまな水素の施策に先進的に取り組み、水素に対する理解のある自治体であることから、南武線と鶴見線で試験することになりました」とのこと。実証試験の実施にあたり、神奈川県、横浜市、川崎市の協力を得て環境整備が行われている。
JR東日本は2020年に策定した環境長期目標「ゼロカーボン・チャレンジ 2050」の中で、2050年度のCO2排出量「実質ゼロ」に向け、2030年度のCO2排出量を約半分に減らすとしている。「その頃に『HYBARI』ベースの車両を各地で導入できるよう頑張っていきたい」と大泉氏は語った。