■キャラクターにはリアリティを追求

――今作のテーマはどのように決まりましたか。

今、自分たちのまわりに問題があふれているけど、情報が多すぎて取捨選択ができないので、自分のことだけ考えていればいいという人がどんどん増えていると思います。でも、すぐ近くで問題が起きているということに気付いてほしくて。そしてそんなとき、「所詮自分には何もできない」と思ってほしくないという思いで書きました。すぐ隣にいる人に声をかけるとか、何か話を聞いてあげるとか、そういうことは誰にでもできる。そんな思いを1人ずつが持てば、少しずつ幸せが広がっていくんじゃないかと。今だからこそやるべきテーマだったんじゃないかなと思っています。

――キャラクターを作り上げるうえで大事にされたことを教えてください。

リアリティですかね。ドラマでは、怖い役だから怖く、優しい役だから優しく演じてくださいと言いがちですが、実際は怖い人だって笑うときは笑うし、泣くときは泣く。個性的でありながらも「こういう人いるよね」と思ってもらえるように、セリフを読むのではなく、リアルな人間を演じてほしいと役者さんに説明しました。特に今作は、今すぐそばで起きている問題を描いているというドキュメンタリータッチな要素も入れたいので、芝居がかった仕上がりにはしたくない。たとえば、上戸(彩)さん演じる灯ちゃんは、表面的には怖いんだけど、芯が強くて真っ直ぐでとっても優しい人。長尾(謙杜)くん演じる柏木託也も、優しく見えるけど、優しいだけではなく冷たさや頑固さを持ち合わせているキャラクターです。

  • チカラの妻・中越灯を演じる上戸彩

■長尾謙杜は「最初は苦労していた」

――ヤングケアラーの問題を抱える託也について、長尾さんとはどんなコミュニケーションを取りましたか。また、長尾さんのお芝居は遊川さんから見てどのように映りましたか。

長尾くんはすごく爽やかなんです。「おはようございまーす!」って元気にあいさつしてくれて、いつもニコニコしてて、爽やかさ満載(笑)。託也は普通に演じると「おばあちゃん思いな優しい役」で終わってしまうので、それはやめてね、と。託也は“優しい青年”ではなくて、“優しい青年を演じようとしている青年”。本当は理知的でエリート志向もあって、自分の運命をどこか不平等で不公平だと思っている視野の広さを持つ人間だから、優等生が上から目線で話すような役でいてほしいと説明しました。

それは長尾くんの中の辞書にはなかったようなので、最初は苦労していましたね。「はい、また優しくなってる」「もっと冷たく。もっともっと冷たく」とかなり言いました。でも、どれだけ冷たく演じても、託也のバックボーンを知った視聴者が「冷たい人」だと受け取ることはなかったと思うんです。だから「長尾くんはとっても優しい顔をしてるから大丈夫。どんどん冷たくやって」と言い続けました。最近はかなり掴んでるんじゃないかな。僕は構想を練るとき「自分だったらどうするだろう」という問題に関心を持つので、長尾くんに言った託也の役どころにはどこか自分を重ね合わせていて。誰かを介護しなきゃいけなくなったとき、自分には何も出来ないと無力感を抱くんじゃないかなと思って、ヤングケアラーについて取り上げました。

――遊川さん自身が、託也に感情移入している部分もあるんですね。

ドラマにとって大事なのは、作る側だけじゃなく、見た人が「自分だったらどうするか」と考えてくれるかどうかだと思うんです。特に今作は、2話のラストの作文にもそんな思いを込めましたが「チカラくんに影響される人が1人や2人でもいれば」という点がコンセプトになっています。ヤングケアラーや困ってる人に対して、ドラマを見た人の態度が少しでも良いほうに変わってくれたらとっても素敵なことだと思います。「あなたのドラマを見て感動しました」という言葉より……いや、本当はそんな言葉もすごく言われたいけど(笑)、少しでも態度や行動に影響を与えられるなら、そっちのほうがよほどうれしい。ドラマにはそれくらいの影響力があると信じてやっています。

■チカラの過去は「託也に聞かせる」ことが重要だった

――第2話では、チカラの過去が灯から明かされるシーンがありました。物語の後半ではなく第2話で、本人の口からではなく妻の口から明かされるという展開が印象的でしたが、このシーンについて教えてください。

本人が話すと安っぽくなってしまうと思い、一番そばでチカラくんを見てきた灯ちゃんから明かす形にしました。サラッと描くことによって逆に興味を引きたくて、あまりウェットにならないでくれとお願いしましたね。あくまで僕の中では「灯ちゃんが話している」ではなく、「託也が聞いている」というシーンなので、その意図が伝わるような編集にしてもらいました。チカラくんに一番影響を受けるのは託也。家族の問題を抱えて孤独感に苦しんでいる託也がチカラくんも同じような境遇だったと知って、チカラくんの言葉をどう受け取るのか。そして、同じ孤独を抱えていた先輩が隣に、いや下に住んでいるということが彼の救いになって、もしかしたらチカラくんのようになりたいと思うかもしれない、そんな意味を込めました。自分と同じ境遇で生きてきた先輩がそれなりに幸せな家庭を築いている姿は、彼にとって勇気が湧くことだと思います。