テレビ朝日系ドラマ『となりのチカラ』(毎週木曜21:00~)は、松本潤が演じる、思いやりと人間愛だけは人一倍、だけど何をしても中途半端で半人前な男・中越チカラが、同じマンションに住む住人たちの悩みを解決し、強い繋がりを持っていく様子を描いた社会派ホームコメディ。今回は、ドラマ『家政婦のミタ』(11年)や『過保護のカホコ』(17年)で知られる今作の脚本家・遊川和彦氏に、『となりのチカラ』誕生秘話や、松本や長尾謙杜との役作りにおけるコミュニケーション、そして最近「とっても面白い」と感じたドラマについて聞いた。

  • 主人公の中越チカラを演じる松本潤=テレビ朝日提供

    主人公の中越チカラを演じる松本潤=テレビ朝日提供

■主人公・中越チカラは「松本潤以外いない」

――松本潤さん演じる今作の主人公、中越チカラが誕生した経緯を教えてください。

「松本潤さんが主役の作品を」というオーダーを頂いたのですが、かっこいい男性がかっこいい役柄を演じる姿に僕がリアリティを感じないこと、すでに松潤はかっこいい役をたくさんやっていることから、「かっこ悪い役をやらせたいな」と一番に思いました。僕は芯が強く悩むことのない女性を主人公にすることが多いのですが、迷いまくる男性のドラマって面白そうだなと。「悩む」=「中腰になる」ことから、松潤が中腰になる画を想像したらとてもキュートになりそうな気がして、問題を鮮やかには解決しないけど周りの人にあたたかい火を灯していく、というチカラくんのイメージが広がっていきました。

――実際松本さんが演じられている姿を見ていかがですか。

合わないんじゃないかな? 大丈夫かな? という不安も大きかったのですが、見るからに優しそうな人が優しい役をやっても、インパクトがなく普通に見えてしまう。本読みをしたときに、芯の強そうな松潤の中にある優しさが出てくるのを感じて、この人で良かった、この人以外チカラくんはいないんじゃないかとすぐに思いました。彼の言葉にはとても伝わってくるものがあるんです。

――完璧なイメージのある松本さんを情けない男に仕上げるために、苦労した点や、ご本人と話し合った点があれば教えてください。

松潤は、自分とは全く正反対の人間なのでどう演じればいいのかとすごく苦労していました。あとは「いい人がいいことをした」というあざといドラマにはしたくないので、リアリティを追求する中で主人公にどんな魅力があるのか、という話をしたり。「普通に演じるとかっこよく見えてしまうので、オドオドしてください」とか、「深刻なシーンで声が低くなると暗い雰囲気になってしまうので、なるべく声を高く出してください」といったことをしつこくお願いしました。

■松本潤のお芝居の魅力

――松本さんのお芝居で、すごいと感じる点を教えてください。

感情的になるシーンも、基本的には全部理論で通そうとするんです。徹底して正確さを求める。たとえばスーパーで袋から落ちたものを拾うシーンも、どのタイミングで何を拾うのか、映っていないところもすべてちゃんと決めようとする。「そんなやり方してると疲れるよ(笑)」と思うんですけど、理論構築して整合性を取らないとできないと言って、見事にやりますね。でも理屈っぽくならずにエモーショナルな芝居になるので、計算しつくして演じているのに計算に見せないところは一番すごいなと思います。天才型というよりは、“究極の秀才型”。僕はそういう人の方が好きなんですよね。

――そのすごさを、特に感じられたシーンはありますか。

一気にまくしたてるシーンですね。チカラくんは感情に任せて言っているから、演じるほうも感情に任せて言えばいいんじゃないかと思うんだけど、彼は細かい動きも全部計算して、かつ台詞も正確に言わないと気が済まない。そこに僕のオーダーも入るので、また計算して……と。でも、彼が長回しで映るシーンも、さすが画が持つんです。