気象予報士を目指すヒロインの姿を描いたドラマ『おかえりモネ』(NHK)のヒットもあり、昨今は「天気ブーム」ともいえる状況です。

  • 『すごすぎる天気の図鑑』(荒木健太郎 著/KADOKAWA)、人物写真/石塚雅人

ベストセラー『空のふしぎがすべてわかる! すごすぎる天気の図鑑』(KADOKAWA)に協力した気象予報士の佐々木恭子さんが、晴れとくもりの境界や降水確率の算出方法など、「天気」に関する素朴な疑問に答えてくれます。

■降水確率の意味は?

——雲ひとつない晴れや空一面に雲が広がったくもりの他、くもりがちなのに晴れといった天気もあります。晴れとくもりの境界はどこにあるのでしょうか。
佐々木 「雲量」というものでわけられます。雲量とは、空全体である全天を見上げたときの雲の占める割合のことで、全天の9割以上が雲に覆われている「雲量9」以上の状態がくもりであり、「雲量8」までは晴れとなります。

——空の8割が雲に覆われていても晴れなんですね?
佐々木 そうです。全天の8割も雲 が広がっていて、多くの人が「くもり空」という印象を受けるような状態でも晴れになるのです。

——「降水確率」はどのようなものですか? ふつうに考えれば「雨が降る見込みの度合い」といったものかと思いますが、いかがでしょう?
佐々木 降水確率は、「予報対象となる地域で予報時間内に1ミリ以上の雨や雪の降る確率」のことです。

天気予報では、降水確率を10%刻みで示しています。降水確率が30%だったら、同じ状況が100回あったとして同じ予報を100回行った場合、そのうち約30回は1ミリ以上の雨や雪が降るということを示しています。

なかには「降水確率100%=大雨」というふうに思っている人もいるかもしれませんが、降水確率とは、雨量や雨の降る強さ、雨の降る時間などを表したものではないということです。弱い雨でも強い雨でも、雨が降りやすければ降水確率は高くなります。

——降水確率はどのように算出しているのですか?
佐々木 ちょっと難しい話ですが、そもそも天気予報はほとんどが「数値予報」というものによって作成されています。数値予報とは、物理法則に基づき将来の大気の変化をスーパーコンピューターによって数値シミュレーションをし、予測するものです。この数値予報の予測値からさらに統計的関係式を用いて、降水確率などを計算しています。

——そのシミュレーションを行うプログラムというのは、気象庁がつくっているものなのですか?
佐々木 いま、気象庁が予報業務で使っている主なものは、地球全体のシミュレーションを行う全球モデル、それから日本周辺のシミュレーションを行うメソスケールモデルに、さらに狭い範囲のシミュレーションを行う局地モデルなどがあり、それらは気象庁がつくったものです。数値予報モデルといって、わたしが予報業務を行うときもそれらを使っています。

また、民間の気象会社のなかには、独自のモデルを開発して使用しているところもあります。

■天気予報でよく聞く「大気の状態が不安定」とは?

——天気予報で「大気の状態が不安定」という言葉を頻繁に耳にします。これはどういう状態を指すのですか?
佐々木 簡単にいうと、「積乱雲が発生・発達しやすい大気」のことです。大気の下層に暖かく湿った空気が流れ込む場合には積乱雲が発生しやすくなります。また、上空に寒気が流入すると雲がより発達しやすく、積乱雲の背が高くなります。それらの状態を指して、「大気の状態が不安定」というわけです。

たとえば、これらふたつの状態がそろう—つまり、大気の下層に暖かく湿った空気が流れ込んで上空に寒気が流入する場合など、「大気の状態が非常に不安定」となるときは、多くの雨を降らせる積乱雲が発生も発達もしやすくなるため、大雨に備える必要があります。

——そういえば、放送局やメディアによって天気予報を担当する気象予報士は異なりますが、気象予報士によって天気予報の内容も変わるものなのでしょうか。
佐々木 そういったちがいを感じますか?

——そもそもの話をすると、同じ時間帯でいろいろなテレビ局の天気予報をチェックすることがないので、そのちがいを感じることもありません。
佐々木 なるほど、ふつうはそうかもしれませんね。わたしの場合は、天気予報をザッピングするんですよ(笑)。天気予報の時間になるとすべてのテレビ局の天気予報をはしごします。

ただ、その内容が大きく変わるかといったらそうではありません。いいまわしなどが多少異なるだけで、予報の内容自体はほとんど同じです。

ただ、わたしが行っている企業向けの天気予報などでは、予報士によってちがいが出る場合もあります。気象予報士は、先に紹介した数値予報の結果を受けて、それが信頼できるかどうかを判断し、予報を発表する地域の地域特性などを考慮して天気予報をつくります。また、対象とする現象に応じて数値予報モデルを使いわけます。そのため、採用するモデルのちがいや解釈・判断のちがいから、予報担当者ごとにわずかな予報のちがいが表れる場合もあるのです。

■「山に笠雲がかかると雨」は本当か

——むかしから「ツバメが低く飛ぶと雨」だとか「山に笠雲がかかると雨」というふうに、天気にまつわるいい伝えは多いものです。それらの信ぴょう性はどれほどのものでしょう?
佐々木 動物の行動や雲や空の変化などから天気を予測することを「観天望気」といいます。それらのうち動物や昆虫にまつわるものについては、信ぴょう性が低いものが多いです。

——一方、雲や空の変化にまつわる観天望気はどうでしょう?
佐々木 そちらについては、しっかりと根拠を示すことができるものが多いです。「山に笠雲がかかると雨」という観天望気でいえば、富士山の山頂にできる笠雲は、日本海の低気圧から伸びる寒冷前線が近づくときに、その前面で湿った空気が山の斜面を昇って発生することが多いです。

すると、その後に寒冷前線の通過にともなって雨が降りますから、その通過前に生まれる笠雲は雨の兆しだといえるわけです。

もちろん、富士山以外の山でも笠雲が発生することがありますから、お近くの山で笠雲を見かけたら、天気予報を見てそれが雨の予兆になっているか確かめてみると面白いかもしれません。

  • ◆富士山にかかる笠雲は雨の兆し/『すごすぎる天気の図鑑』(荒木健太郎 著/KADOKAWA)

■日本海側では冬に雷が多発

——最後に、一般の人があまり知らない、びっくりするような天気の話があれば教えてください。
佐々木 これは、主に太平洋側に住む人にとってびっくりするような話になりますが、雷ってどんなときによく鳴ると思いますか?

——夕立とセットで夏に多いイメージです。
佐々木 そうですよね。だけど、日本海側では冬に雷がよく鳴るんです。いわゆる「西高東低の冬型の気圧配置」になると、日本海側で雪が降りやすくなります。その雪を降らせるのは、雷を伴う積乱雲です。そのため、日本海側では冬に雷が多いのです。

加えて、冬の日本海側でできる積乱雲は、夏の積乱雲とちがって背が低いという特徴もあります。すごく近くで雷が鳴っているように感じますし、しかも、夏の雷よりも落雷のエネルギーが大きいことが多いようです。また、ひょうやあられなど氷の粒が降って、バリバリと屋根をたたく音と雷の音が同時に鳴ると、けっこう驚きますよ。

——日本海側の人にとってはあたりまえのことなのかもしれませんが、そうでない人にはあまり想像できませんね。
佐々木 わたしの主人は新潟県出身なので、冬に夫の故郷に帰省したときなど、夜中にその爆音で起こされたことが何度かあります。慣れないうちは、平気で寝ている主人が不思議でなりませんでしたね(笑)。

——今回、天気や気象についていろいろお話を聞かせていただきましたが、きっとまだたくさん面白い話があるんですよね。
佐々木 もちろん、まだたくさんあります。ですから、空を楽しむキッカケとして、ぜひ『空のふしぎがすべてわかる! すごすぎる天気の図鑑』と一緒にお出かけして、もっと空を見上げてほしいなと思います。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 人物写真/石塚雅人 写真提供/『空のふしぎがすべてわかる! すごすぎる天気の図鑑』(荒木健太郎 著/KADOKAWA)