「無い袖は振れない」とは、一般的にはお金がないことを示すことわざの一つです。この記事では「無い袖は振れない」の意味や類語、英語表現、例文などを紹介します。言葉の正しい意味を知り普段の生活や仕事に活かしてみましょう。

  • 「無い袖は振れない」の意味

    「無い袖は振れない」はお金に関わることわざです

「無い袖は振れない」の意味とは

「無い袖は振れない」は「お金や財がないからどうしようもない」「持っていないものは出せない」などの意味を持つことわざです。

「無い袖は振れない」の語源

「無い袖は振れない」は着物の袖(そで)に由来しています。着物には、胸元や帯の隙間など、薄いものをしまって持ち歩ける場所がいくつかありますが、中でも袖の部分には、比較的大きめのものが収納可能となっています。そのため、袖に財布を入れていた人が多く、いつしか袖が財布やお金を思い起こす言葉になったのです。

しかし、袖に何かを入れておきたいと思っても、持っていないものは入れられませんし出すこともできません。この「ないものはない」「どうしようもない」「持っていないものは出せない」という状態が、「無い袖は振れない」という言葉になりました。

「無い袖は振れない」は基本的にお金以外に使わない

前項で挙げたように、袖にはお金が入っているという共通認識があるため、「袖=お金」が連想されます。つまり、「無い袖は振れない」というのは、「たとえ袖をどれだけ振ったとしても、袖に入っていないお金は出せない」という意味です。そのため、「無い袖は振れない」は、基本的にお金に関する事柄と組み合わせて使われます。

  • 「無い袖は振れない」の意味

    着物を着ている人は袖にお金をしまう習慣がありました

「無い袖は振れない」の類語

ここでは、「無い袖は振れない」の類語を紹介します。

「鼻血も出ない」

「鼻血も出ない」は、出すものはすべて出しきったという意味で、有り金を使い果たした例えとして使われます。

以前から欲しかったレアゲームを購入したから、まさにもう鼻血も出ない状況だよ


有り金をすべてはたいた最終レースで負けてしまった。もう鼻血も出ないや

「素寒貧」

素寒貧(すかんぴん)は、貧しくて身に何も着けていない人や、無一文であることを指す言葉です。

給料までまだ3日もあるのに、もう素寒貧だよ


親が事業に失敗して大きな借金を背負ってしまったため、幼少時からずっと素寒貧だった

「袖」を用いたことわざ

ここでは「無い袖は振れない」と同じ「袖」を用いた言葉をピックアップして紹介します。

「袖にする」

袖にするは、今まで親しくしていたにもかかわらず、無視をしたりないがしろにしたりと軽んじて扱うという意味の言葉です。

語源は諸説あるものの、「無い袖は振れない」と同じように、袖にものを入れて持ち歩くことが関連しています。一説によれば、「袖に手を入れたまま相手に何もしない」「舞台袖のように見えないものとして扱う」「袖を振ってしつこい相手を追い払う」などの意味があるようです。

「自分が相手との関係に冷めて疎遠にする」「相手から自分が冷たくされる」などのケースで使われます。

相手と今までどおりに付き合いたかったが、袖にされてしまった


あれだけ親しかったにもかかわらず、袖にすることになった

「袖を振る」

袖を振るは「無い袖は振れない」と異なり、恋愛表現の一つです。別れを惜しむ気持ちや愛情を示す表現の比喩として使われています。

未婚女性の着物の正装は振り袖で、女性が男性に対して恋愛感情がある場合は袖を左右に振り、気がない場合には前後に振るというように、袖をどう振るのかによって気持ちを表現していたのです。

恋愛関係が成立しないときや壊れるときなどに、相手を「振る」という言い方をしますが、これも振り袖を着た独身女性が男性と別れたいと感じたときの態度から生まれた言葉とされています。

別れを惜しんでいつまでも袖を振り続けた


すっかり幻滅してしまったので袖を振ることにした

「袖振り合うも他生の縁」

「袖振り合うも他生の縁」は、袖を振る行為ではなく、相手と服の袖がわずかに触れ合う様子から生まれた言葉です。「たまたま行きずりの人と出会うことや言葉を交わすことすら単なる偶然ではなく、縁があって起こっている」という意味があります。

漢字で書く際は「多少の縁」は誤りで「他生の縁」だという点に注意をしましょう。「他生」は、仏教にある生まれ変わりの考え方である輪廻転生(りんねてんしょう)に基づきます。前世や来世など今生きている現世ではないという意味で、袖振り合うも他生の縁の場合は、過去の世界である前世(今生:こんじょう)を示しています。

「過去からの因縁により今出会う人が決まっている」という運命的な言葉なのです。

袖振り合うも他生の縁ですので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします


袖振り合うも他生の縁とはよく言ったもので、知らぬ人の話から学ぶことも多い

「袖を分かつ」

袖を分かつとは、今まで一緒にいた人と分かれることです。考え方や特別な事情で別れるという意味なので、相手が亡くなってしまいやむを得ず別れたケースなどには用いません。同じ意味で、袂(たもと)を分かつという言い方もあります。

結束の強い2社が袂を分かった結果、業界は大きな影響を受けた

この度、ビジネスパートナーだった〇〇氏と、袖を分かつことになりました

  • 「無い袖は振れない」の類語

    袖に関連する言葉はいくつもあります

「無い袖は振れない」の英語表現

「無い袖は振れない」の英語表現を見ていきましょう。

An empty bag will not stand upright.(空の袋はまっすぐには立たない)


A man cannot give what he hasn't got.(持っていない物は与えられない)

「無い袖は振れない」の英語表現は、絶対にできないことを示す言い方が多いです。英語の言い回しを確認すると、「無い袖は振れない」の意味がよりイメージしやすくなります。

  • 「無い袖は振れない」の英語表現

    英語表現で「無い袖は振れない」の意味がわかりやすくなります

「無い袖は振れない」の例文

最後に「無い袖は振れない」の具体的な例文をいくつかご紹介します。

金銭面の援助をしてあげたいけれど、無い袖は振れないのです


せっかくのお誘いですが「無い袖は振れない」ので参加は見送ります

お金がないという理由で、金銭的な援助の申し入れや借金や損害賠償などの返済を断る場合に用いられます。

一方、意見や考えなどが出せないというケースでは、「無い袖は振れない」は使えません。以下に誤用例をまとめました。

【誤用】

具体的な対応案を出せと言われても、無い袖は振れずアイディアが出ません


一夜漬けで試験を受けたけれど、無い袖は振れず全く答えられなかった

  • 「無い袖は振れない」の例文

    例文を参考に、「無い袖は振れない」を使いこなしましょう

「無い袖は振れない」は着物文化から生まれた言葉

「無い袖は振れない」は、昔は和服の袖に財布を入れていたことから生まれた言葉で、お金がないという意味を持っています。着物を着ている日本ならではの表現です。また、袖には物が入るという前提でさまざまな類語があります。

今回紹介した「無い袖は振れない」の使い方を参考に、生活に役立ててみましょう。