JR総武本線の新小岩駅とJR常磐線の金町駅を結ぶ「新金線(しんきんせん)構想」について、読売新聞が「2030年頃の区間開業目指す」と報道した。新金線は現在の貨物線を旅客路線化する構想で、地元の人々も鉄道ファンも期待している。良いニュースだと思うが、1月8日の第1報も、1月14日の第2報も、ともに2021年3月までの情報をなぞっただけで、とくに進捗情報はない。先週の記事で紹介した「東京メトロ有楽町線・南北線、延伸に着手へ」のような建設確定でもない。

  • 新金線構想の路線図。ピンク色が7駅案の中間駅、10駅案では青色の3駅が加わる(地理院地図を加工)

新情報としては、車両に葛飾区ゆかりの映画『男はつらいよ』、マンガ『こちら葛飾区亀有公園前派出所』『キャプテン翼』をデザインする「案もある」だけだ。「この構想を忘れないでほしい」が記事の趣旨だろうか。葛飾区長への取材とのことで、意欲と覚悟はわかった。ただし、解決すべき問題はそのままだ。今年の進捗に期待したい。

■吉田茂が却下した路線

新金線旅客化構想の歴史は長い。1953(昭和28)年、国会で当時の総理大臣・吉田茂に却下された。質疑は「単線の貨物線を旅客化してほしいと地元から要求されている。しかし貨物列車が多く客車は入れない。そこで複線化して輸送力を増やして客車を運行すべきだ」という内容。これに対し、吉田茂は「多額の設備が必要で、目下の国鉄予算では困難」としている。提案を否定したわけではなく、予算がなかった。現在の新金線はJR東日本の保有だが、当時は日本国有鉄道であり、国鉄の事業は国会で審議されていた。

地元の人々の思いは強く、葛飾区は1993(平成5)年度から調査を実施している。2000(平成12)年に武蔵野線の南流山駅から西船橋駅を経由する貨物ルートが開通すると、新金線の貨物列車は激減した。「貨物時刻表」2021年3月号で確認すると、運行本数は貨物列車が平日に3.5往復(計7本)、レール運搬列車が1往復となっている。時刻表に掲載されない回送列車もあるだろうが、これなら単線のままでも旅客列車を運行できそうだし、むしろ列車を走らせないともったいない。

葛飾区は2019年、「新金貨物線旅客化の検討資料」を公式サイトで公開した。この段階では、両端駅を合わせて10駅を設置する案と8駅を設置する案があった。新小岩~金町間の所要時間は10駅案で22分、7駅案で約18分。運行時間帯は5時から24時まで。運行本数は1日あたり片道84本。通勤通学時間帯は10分間隔、その他の時間は15分間隔。運賃はJR東日本の地方交通線にならって、3kmまで140円、4~6kmで190円、全区間(7.1km)で210円としていた。

輸送人員は1日あたり10駅案で3.84万人、7駅案で3.66万人。概算事業費は鉄道車両で約200億円。ライトレール規格車両で約250億円と見積もっていた。なお、1993年度と1994年度は、貨物線用地の取得、全線高架で整備した場合を検討している。この場合、総事業費が930億円となり、かなりハードルが高かった。2003(平成15)年度は高架化から平面に転換し、技術的な検討を実施している。国道6号との平面交差が課題となり、施設保有者のJR東日本、運行事業者のJR貨物、道路管理者などと調整が必要とされた。

■新宿踏切の扱いが課題に

葛飾区が2020年3月に公開した「令和元年度 新金貨物線旅客化に向けた調査検討 概要版」では、新金線の旅客化について、鉄道事業法にもとづいて許可を得る方針が示された。LRT路線であれば軌道法の適用範囲でもあるが、同じ線路を貨物列車が使うことから鉄道事業法とした。

新宿踏切の扱いについて、現在は鉄道(貨物列車)優先となっている。しかし、10分おきに踏切遮断が起きると、現在の慢性的な渋滞がさらに悪化する。そこで道路信号優先の可能性を検討した。これは東急世田谷線と環状7号線が交差する若林踏切で採用されている方式だ。

新宿踏切は鉄道用遮断機と道路信号を併用しており、現在は鉄道優先。踏切において、自動車の運転者は一時停止し、安全確認する規則になっているが、道路信号踏切の場合は道路交通法第33条の規定により、道路側が青信号のときは一時停止不要となる。

しかし、筆者が現地で観察したところ、ほとんどの車が一時停止する。青信号は一時停止不要という規則が浸透していない。規則を知っている車も、先行車が一時停止すると追突するから速度を落とす程度。周辺の信号機との連動も効果がなく、すでに慢性的な渋滞になっている。

  • 新宿踏切(写真中央奥)の付近はすでに渋滞している。左端に映っている大きな建物は「東京かつしか赤十字母子医療センター」。この渋滞が緊急医療に影響しないかと心配になる(2020年12月、筆者撮影)

葛飾区の調査検討では、「道路側赤信号時間の35秒以内に旅客列車が通過すれば、自動車交通に影響はない」と判断している。貨物列車は通常の踏切で、旅客列車は交通信号で。今後はこれを前提に技術開発、安全確保、省令との整合性を検討する方針となった。

しかし、そもそも国道6号の渋滞解消という課題は手つかずになっている。1日に数本の貨物列車が走るだけの踏切付近が渋滞しているとなれば、それは「渋滞と踏切の関係性は低い」とも言えるだろう。旅客列車は通せる。渋滞は悪化しない。しかし渋滞は解消されない。これでいいだろうか。本当に35秒で旅客列車は通過できるのか。

また、新宿踏切以外の踏切は鉄道と同じルールとなるため、別の踏切で渋滞が発生するおそれもある。新宿踏切の渋滞を迂回するルートの踏切をいくつか改良しているものの、想定外の交通量になるかもしれない。

もうひとつの懸念は、新宿踏切の道路側の改良計画と整合性が取れていないことだ。国土交通省関東地方整備局首都圏国道事務所が「国道6号新宿拡幅」事業を進めており、葛飾区金町6丁目の江戸川新葛飾橋から、葛飾区新宿2丁目中川大橋まで2.1kmの区間を拡幅。鉄道とは立体交差する計画となっている。

すでに金町地区の1.2kmは開通しており、京成金町線をオーバーパスしている。一方、新宿地区の0.9kmは停滞している。この区間に新宿踏切があり、新金線は高架化する予定。しかし、JR東日本が実施する予定の新金線高架化は時期未定のままだ。1日数本の貨物線のためにコストはかけられない。やらないとは言わないが、優先順位は低いということらしい。

葛飾区の新金線計画は平面交差を前提としている。国土交通省は鉄道立体交差で踏切を解消する計画だ。どちらかに決めないことには話が進まない。いや、すでに確定している道路側の計画を取り下げてもらう必要がある。新金線旅客化も重要課題だが、新宿踏切に手を入れるにもかかわらず渋滞が解消しないとなると、道路利用者の理解が得られないだろう。

葛飾区としては、道路側計画が進展するまで新宿踏切を通過しない案もある。新宿踏切手前までを整備する2段階整備だ。ここまでが2021年3月に公開された「令和2年度 新金貨物線旅客化に向けた調査検討」である。しかし、そもそも新金線構想は葛飾区南北方向の鉄道整備として始まった計画だった。新小岩駅と金町駅を結ばないと意味がない。

筆者の私見だが、まずは新宿踏切区間の新金線を高架化し、(仮称)新宿駅は高架駅としたほうがいい。あるいは国道6号新宿拡幅計画を見直し、新金線を地上のまま、道路側を上下1車線ずつオーバーパスにしてはどうか。事例としては、相鉄本線と県道18号(横浜市環状4号)の立体交差がある。

これらの課題が整理されなければ、国土交通省の交通政策審議会のテーブルに載せられないだろう。「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について(答申198号)」は、2016年から15年後を見据えた方針を定めた。その期限、2031年頃に次の国土交通大臣諮問と答申が行われるはずで、原則としてはここに載せないと国や都の計画として認知されない。それから調査に10年、整備に10年として、筆者の見立てでは2050年頃の開業となる。2030年開業の見通しは甘い。

読売新聞の記事で、葛飾区長は「排ガス削減など『脱炭素化』の潮流を踏まえても、公共交通の重要性は今後ますます高まる」と語っている。排ガス削減なら、道路の渋滞解消が先ではないか。

葛飾区は計画推進のため、100億円を目標に積み立てているという。しかし2021年の予算を見ると、「新金貨物線旅客化整備基金」の2020年度末の残高は10億円。2021年予算の積立額は100万円。このペースだと、100億円に達するまで9,000年かかる。具体化したら積み増すとは思うが、のんびりしすぎのような気がする。有効な路線には違いないから、急いで着手してほしい。「本当にやる気があるのか。本気出せよ」と思う人は筆者だけではないだろう。