■売り込み続けた自分に「今は感謝」

『ボス・ベイビー ファミリー・ミッション』で主人公を演じただけでなく、今年は愛する娘を救うために走り出す父親役を演じた『マイ・ダディ』で映画初主演を果たすなど絶好調。ムロは今や出演作が途切れない俳優となった。

これまでの道のりにおいては、下積み時代も長かった。「25、6歳くらいまではかっこつけた舞台役者でした。『役者は待つものだ』という言葉にちゃんと洗脳されて(笑)、オファーを待つのがかっこいいと思っていました。でもある日アルバイトをしながら“これがいつまで続くんだろう”と思ったら、休憩時間に涙が流れた。さらに当時お付き合いした女性もいなくなってしまうなど、悲しいことが同時に重なって。そこで次の日から一気に考え方を変えました。待つのではなく、営業して売り込む。自分を売り込む人生に変えました」と転機を明かし、「『ムロツヨシです』と連呼して、『使ってください』、『売れたいです』、『経験を積みたいです』と言いまくって。人が変わったようでした」と笑う。

営業活動については「周囲にはバカにされました」とも。「それでも笑ってやり続けた自分に今は感謝ですね。もちろん売り込むだけではダメだから、売り込みを続けながら、お仕事をいただけたときにはそこで経験値を増やして、それを今度はきちんと記憶していく。失敗と成功を記憶して、新しい成功を求めていったんです。時間はかかりましたが、僕にはこのやり方しかなかったんだろうなと思います」と力強く語る。

■夢が叶ったと実感も危機感「変化が必要かも」

その積み重ねが今、確実に実を結んでいる。「俳優になりたい」と思ったときから考えると、ムロは「今、夢が叶ったという実感がある」とキッパリ。しかしながら、彼は先を見据えてこう打ち明ける。「ものすごくありがたい状況です。自分の中に“このままでいたい”という甘えが出てきているのも確か。でもこれが一番危ない。現状維持をしたいと思ったときが一番危ないと感じています」。

続けて「欲しがっていたものが手に入ったんだから、それをやり続けられればいいのにね! 難しい」と笑顔を弾けさせながら、「舞台に立っているとよくわかるんですが、 “俺を見てくれ!”という役者に対しては、お客さんも“よし、見てやろう。見せてみろ”と前のめりになるんです。でも放出し慣れた人間が出てきた途端、お客さんも少し興味を失ってしまったりする。それはきっと役者が成功体験をもとに、“これをやればいいんだ”と楽をしようとしてしまっているから。舞台に立つ以上、現状維持ではなく、お客さんが楽しみにするようなもの、もしくは何をしでかすかわからないと期待してもらえるものをお伝えしないといけないなと思っています」と役者業の奥深さを痛感している。

必要なのは、「変化かもしれない」と率直な思いを口にする。「役者として生きていくという夢のために何年もかかってしまったがゆえに、ここからの目標の立て方が足りていない。だから恐怖心が増えていく。20代でガラッと自分を変えたように、ここでもう一度変えないといけないのかもしれない。新しい考え方を持つのか、仕事をしない時間を持つのか……。今までの成功体験も一度捨てないとかもしれない。その勇気を発動させることが必要なのかもしれません」と頭を悩ませることも多い。

そんなときに励みになるのが、追いかけたくなるような先輩たちの存在だ。「役者としては古田新太さん、阿部サダヲさんという、昔から芝居をどうにか盗もうとしたお二人を見ながら生きています。一人の大人としては、リリー・フランキーさんに憧れます。何を考えているかわからないような危うさを持っているけれど、いろいろな話を聞いてくれて、いろいろな答えを持っている。これぞ大人だなと思います。追いかけたくなる人がいるというのは、とても幸せなことです」としみじみ。これからもムロツヨシはもがきながら、奮闘していく。その姿こそ彼の人間力、そして役者としての魅力につながっている。

■ムロツヨシ
1976年1月23日、神奈川県出身。大学在学中に役者を志し、99年に作・演出・出演を行った独り舞台で活動を開始。本広克行監督の映画『サマータイムマシン・ブルース』(2005)をきっかけに映像にも活動を広げる。福田雄一監督の映画『大洗にも星はふるなり』(2009)やドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズで個性派俳優として存在感を発揮。2018年には42歳でエランドール賞新人賞を受賞する。『マイ・ダディ』(2021)で実写映画初主演を果たすなど、映画、ドラマ、舞台とジャンルを問わず活躍している。

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