スバルの新型「WRX S4」を見て、目を見張った(あるいは疑った)人も多いのではないだろうか。スポーツセダンの新型車なのに、黒いフェンダーが付いているからだ。SUVではよく見る黒フェンダーが、なぜWRXの新型に付いているのか。飾りなのか、それとも意味があるのか。スバルに聞いた。
コンセプトカーの具現化に必須のパーツ
黒フェンダーの謎を解くには、2017年の「東京モーターショー」まで遡る必要がある。
スバルは同ショーにコンセプトカー「SUBARU VIZIV PERFORMANCE CONCEPT」を出展した。「VIZIV」はクルマづくりの将来ビジョンを示すスバルのコンセプトシリーズなのだが、東京モーターショー2017に登場したこのクルマは、来場者から非常に高い評価を受けたそうだ。クルマ好きやスバルファンから「カッコいい」の呼び声が高かったのである。
スバルとしても、このコンセプトカーを具現化したいとの思いがあった。その思いが実を結んだのが、今回の新型「WRX S4」だ。
コンセプトカーは写真でもご覧いただける通り、フェンダーを含めたクルマのボディ下部が黒い。これは「カーボン」を使っているという表現なのだが、量産車でカーボンを使うのは大変だ。そこで新型WRX S4では、ボディ下部を樹脂で縁取ることになった。
では、フェンダーを含むボディ下部の黒い部分は、VIZIVにビジュアルを寄せるための単なる飾りなのかといえば、そうではない。技術屋気質の色濃い(と取材のたびに私には感じられる)スバルが、機能的に意味のないパーツを見た目のためだけにくっつけるとは思えないし、事実そうではないらしい。スバル 第一技術本部 外装設計部の沼田圭史さんや商品企画本部 デザイン部の源田哲朗さんといったWRX S4開発陣に聞いた話をまとめると、黒い部分には空力上の大事な役割を持たせてあるそうだ。
表面にハニカム模様! 機能は?
フェンダーを含む黒い部分をよく見てみると、表面に六角形を敷き詰めたような、いわゆるハニカム模様の処理が施してある。ちなみに六角形(ヘキサゴン)は、スバルとなじみの深い図形でもある。
この表面処理は単なる模様ではなく、空力テクスチャ―として機能する。ここに触れる空気の流れを整える効果があるのだ。原理としてはゴルフボールと同じだそう。考えてみればピンポン玉を投げてもまっすぐ飛んだためしはないが、ゴルフボールはうまい人が打つときれいな直線を描いて飛ぶ(わざと軌道を曲げる場合もあるかもしれないが)。この原理で、空力テクスチャ―は新型WRX S4の操縦安定性向上に寄与している。
六角形の凹凸は深さが45ミクロンとなっている。深い方が空力上の効果は高まるそうだが、これ以上の深さにするとワックスでコーティングしたときなどに埋まってしまい、効果が発揮できなくなるおそれがあるので45ミクロンに決めたという。
ちなみに、アンダーカウルの下(車体前方の底の部分、フロントマスクの下に手を入れると触ることができる)にも六角形の空力テクスチャ―が施してあるが、こちらは操縦安定性というよりも、燃費向上に効いているらしい。
というわけで、新型WRX S4のSUV風フェンダーには確かに意味があることがわかった。単にビジュアルをVIZIVに似せたいだけならボディ下部をブラックで塗装すれば済む話だが、それでは納得できないのがスバルのスバルらしいところなのかもしれない。