絵画や書道の作品において、作品が完成したことを示す作者の印を落款印(らっかんいん)といいます。趣味や創作の場面で使われることの多い印で、書類の承認など事務業務では使わない印鑑です。

この記事では落款印の意味や使い方・種類を解説します。

  • 落款印とは

    「落款印」について解説します

落款印とは? 正しい読み方は?

落款印とは作品の完成を示すためのハンコです。落款印と書いて「らっかんいん」と読みます。作品が出来上がったことの印であり、作家自身の作品であることを表します。実印や認印など、個人が日常生活で使用するハンコとは異なり、趣味や創作のために使用されるものです。

絵画や書道の作品の完成を示す

落款印は主に絵画や書道の世界において、作品に押される印です。作品が完成したことを表しており、作品全体を引き締める効果があります。作品が完成したという節目として、作家本人の満足度は高まります。

ほかにも水彩画や水墨画、扇子、魚拓などにも落款印が使われる場合があります。特に決まった作品のために使われるわけではなく、それぞれ好きなように活用するためのハンコです。

さらに落款印は由緒ある作品の真贋(しんがん)判定において根拠となり、作家本人だと証明できるケースがあります。これらの作品において、落款印がなくとも価値は変わらず、必ずしも落款印が必要であるわけではありません。

しかし、完成度の高い作品にするためには、落款印の力は侮れないわけです。

落成款識印・篆刻印や遊印とも呼ばれる

落款印は落成款識印(らくせいかんしきいん)の略語です。作品が完成したときに行う署名や押印の意味を持ちます。ハンコに刻印される書体の篆書体から由来した篆刻印(てんこくいん)や遊印とも呼ばれます。現在は篆書体以外の書体やひらがな、カタカナなども使われますが、ハンコを作ることを篆刻と呼びます。

遊印とは名前や作家名ではなく、好きな語句を彫ったハンコです。文字以外にも絵を彫る場合もあり、作品のサインとして使われるものを指します。荷物の受け取りや手紙の封印などの実用的な場面で使わない印であることから、「遊」という名前が付けられたとされています。そのため、篆刻印も遊印も落款印と同じような意味合いで使われています。

  • 落款印とは

    落款印は絵画や書道の作品で押されるハンコです

落款印の種類

落款印には決まった形はありませんが、基本的な4つの種類があります。まず、姓名印と雅号印(がごういん)、引首印(いんしゅいん)を合わせて、三課印(さんかいん)といいます。

必ず3種類がセットである必要はなく、引首印を省略したり、姓名印と雅号印のどちらか一方だけにしたりと、作品によってさまざまです。さらに飾りとして、押脚印(おうきゃくいん)が押される場合もあります。

姓名印

姓名印とは本名をフルネームか名前で記載する印です。姓のみを記載することは基本的にありません。文字を白くする印であるため、白文印とも呼ばれます。雅号印がある場合は雅号印の上に押印します。

雅号印

雅号印とは本名ではなく作家の雅号を記載する印です。雅号を決めていない場合は本名の名前のみを使用します。基本的に正方形で、朱色の文字の印であるために、朱文印とも呼ばれます。姓名印がある場合は姓名印の下に配置して、サイズを揃えておくと美しくみえます。

雅号とは画家や書家が本名以外に用意する風雅な名前を指します。個人で付ける場合や師匠、または所属団体から命名される場合があります。

書道において、雅号は書家としての称号であることから、作品に雅号印を残すことで、風格のある作品にすることができます。特に白い紙に黒い墨で表現する書道の世界では朱色の雅号印により、作品の完成を示せるわけです。

引首印

引首印とは作品の右上にはじめの印として記載します。関防印(かんぽういん)とも呼ばれており、縦長の長方形や楕円の印が選ばれるケースが一般的です。

好みの言葉や詩句、座右の銘などを彫っておきます。作家それぞれが好みに合わせて決められる部分であるため、作家性が問われるところです。

押脚印

押脚印は作品の右下に飾りとして押される印です。遊印とも呼びます。引首印と同様に好きな言葉を彫り、作品の空白部分の飾りの役割を持ちます。飾りであるため、ほかの種類と比べて優先度の高い印ではありません。角型で白文と朱文のどちらでもよいとされています。

  • 落款印の種類

    落款印は主に4つの種類にわかれます

落款印の使い方

落款印は創作以外にも使われる場合があります。落款印の使い方について解説します。

創作

落款印は基本的に絵画や書道などの創作の場面で使われています。印自体を作家性のあるデザインとして、または名前や作家名を書いてサインのように使う方法があります。

名刺

落款印を名刺に記載する方法があります。個人や作家としての名刺に落款印を加えておけば、名刺のデザインのアクセントになります。

名刺は情報とデザインの取捨選択を行わなければ、見にくい名刺となってしまいます。同様にデザインにとって余白は大切です。しかし、朱色で独自性のある落款印は名刺のデザインを邪魔せずに、デザイン力を上げることができます。固い名刺の印象に遊び心を加えられるのです。名刺交換の際の話のネタにもなります。

手紙やハガキ

落款印は手紙やハガキに自身を示すためのサインとして押印することもできます。年賀状にもアクセントとして使えます。落款印は自身を表現するための手段として、さまざまな場面で気軽に使える印なのです。

  • 落款印の使い方

    落款印は創作以外に名刺や手紙でも使われます

落款印の作り方や自作する方法

落款印を作るためには印材やサイズ、書体を決める必要があります。また、店舗にオーダーする他に自作する方法もあり、奥深いハンコです。落款印の作り方を解説します。

印材

落款印の印材は主に石が選ばれますが、木材である柘(つげ)、金属、黒水牛調、象牙など、豊富な種類が存在します。ハンコの前印である「アタリ」が付けられていて、印影の前後がわかるような落款印もあります。

サイズ

サイズも好みによって変わりますが、18.0mmから24.0mmほどが人気のサイズです。特に強いこだわりがない場合は一般的なサイズを選びましょう。

使える書体や字体

書体は別名である篆刻印の由来となった篆書体のほかに、印相体や古印体などの書体から、比較的読みやすい行書体や楷書体などがあります。特殊な書体や文言を希望する場合は作成する店舗に相談したり、サンプル確認を行ったりしておきましょう。

自作する方法とデザイン

落款印は店舗で作成する以外にも自作する方法があります。まずは彫る文言やデザインを決めて紙に書き、レーザープリンターでコピーします。次に転写をするために、印材となる石を平らになるまで削り、朱色の墨を塗ります。コピーしたデザインの紙を裏返して石に固定して、黄色のマジックで印面を塗りつぶすと石に転写されているわけです。

そして、乾いたあとに彫刻刀で削っていき、試し押しを行って整えたら一旦は完成です。落款印に質感を出すために、傷や欠けをあえて作って風合いを出すと完成度は高まります。

落款印を自作するためのセットが販売されていることがあるので、自作する場合は探してみましょう。

  • 落款印の作り方

    落款印には規定の作り方はありません

落款印は作品の完成を示す印

落款印は主に絵画や書道などの創作において、作品の完成を示すために押印するハンコです。完成したという印を入れる意味を持ちます。押印することで、作品全体が引き締まり、独自の落款印を使用すれば作家性を高めることもできます。

種類としては姓名印、雅号印、引首印、押脚印があります。落款印に種類はありますが、規定のないハンコであるため、製作者それぞれが独自の素材やデザインで作成します。自作することも可能です。創作に関わる方や趣味として興味がある方はぜひ試してみてください。