YouTube・サブスク動画配信サービスの台頭、視聴率指標の多様化、見逃し配信の定着、同時配信の開始、コロナ禍での制作体制――テレビを取り巻く環境が大きく変化する中、最前線にいる業界の“中の人”が語り合う連載【令和テレビ談義】

第4弾は、『全力!脱力タイムズ』制作総指揮『千鳥のクセがスゴいネタGP』総合演出の名城ラリータ氏(フジクリエイティブコーポレーション)、『有吉の壁』『千鳥のクセがスゴいネタGP』『新しいカギ』などを手がける元芸人の放送作家・樅野太紀氏が登場。『新しいカギ』の総合演出を担当するモデレーターの木月洋介氏(フジテレビ)を含めた3人によるテレビ談義を、4回シリーズでお届けする。

第3回は、樅野氏と木月氏が携わる『新しいカギ』がテーマ。10月30日の放送ではフジの重点指標・キー特性(13~49歳)で全局横並び1位をマークした同番組において、出演者たちを興奮させるテレビならではのスタジオセットの秘話、そして10月から進出したフジのお笑い伝統枠“土8”への思いとは――。

  • (左から)『新しいカギ』に出演するハナコ、チョコレートプラネット、霜降り明星 (C)フジテレビ

    (左から)『新しいカギ』に出演するハナコ、チョコレートプラネット、霜降り明星 (C)フジテレビ

■ハナコ秋山が会議にやってきて…

――木月さんと樅野さんは『新しいカギ』からですよね。

樅野:去年の夏くらいに中嶋(優一)Pから「今、総合バラエティを作れという指令が出て、うちの木月と一緒に考えてもらえませんか?」と電話があって、「ぜひぜひ」と言って、3人でフジテレビで企画会議を始めたんです。

木月:番組を一緒にやるのはこれが初めてなんですけど、『(笑って)いいとも!』の特大号とかでご挨拶はしてたんです。それからずっと気にかかっていて。

樅野:「なんで僕に声をかけてくれたんですか?」って聞いたら、「『ピカル(の定理)』のときに芸人さんから樅野さんのことを聞いてて」って言われて、それがすごくうれしくて。芸人だったとき、ピースとかノブコブ(平成ノブシコブシ)とかが直属の後輩だったんですよ。

ラリータ:『新しいカギ』も、すぐレギュラーになりましたよね。

樅野:でも、急造チームでコント番組作るってなかなかですよ。チューニングがみんな合ってない状態で、結構ゴリゴリやんなきゃいけなかったから。

木月:番組のヒットだけでなくて、局員の若手を育てなきゃいけないという目標もあるので、僕だけでやってたら絶対無理だと思って、10年来の相棒である中嶋亮介(演出)を呼んで。

樅野:中嶋亮介はADの頃から知ってるので、やりやすかったです。

木月:1月の特番1回だけでレギュラーにするって、すごく大変でしたよね。

樅野:しかも、それまでの総合バラエティと違って、すでに売れてる人たちと一緒にやるというのも難しいんですよ。スタッフ側がなかなか強く出られないし。

ラリータ:今までだったら一緒に成長していくという感じだったから、すでに売れっ子の人たちだと、ディレクターが共通の言葉を持つのがだいぶ大変だろうなって。「お笑い好きです」だけじゃ無理じゃないですか。ハナコさんだって優しいけど、心の中で「違うな」と思われるかもしれないし。

樅野:1回恐ろしいことがあって、ハナコの秋山(寛貴)が、構成会議にやってきたんです。「秋山が構成会議にやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」事件。

ラリータ:ビートルズ以来の(笑)

樅野:「どうやってコント作ってるのか見てみたい」っていうんですけど、俺は「これは『何でこんな変な台本しかできないんだ』っていう不信感か?」って思ったんです。結果は、ただのピュアな好奇心で、本当にコント作りを見たかったっていう(笑)

木月:本当に純粋に、テレビコントがどうやって作られているのかを知りたいっていう興味だったんですよ。

ラリータ:すごいなあ、秋山さん。会議見たくてしょうがなかったんですね。

  • 「天狗ですみません」ハナコ・秋山寛貴 (C)フジテレビ

■みんなが「こういうコント番組やりたかったんですよ!」って顔してる

樅野:僕は芸人時代、誰かが書いてきたコントを持ってこられたら「ん?」って思うタイプだったんですよ。だから、『新しいカギ』は大変なことになるんだろうなと思って始まったんですけど、芸人さんと議論になることは、思った以上にないですよね。だから、現場で木月さんとか中嶋とかがうまくやってるんだろうなと思って。

木月:レギュラーになるときに、最初に演者さんと結構話し合ったんです。長田(庄平=チョコレートプラネット)さんが一番明確でしたけど、「自分たちが今のスケジュールの状態で0から1を全て作るのは無理だから、そこは制作に任せる」ってはっきりと言ってくれましたね。

ラリータ:リーダーは長田さんになるんですか?

木月:座長っぽい感じはありますかね。年齢も一番上だし。芸歴も長いし。でもまだ一緒にやって10カ月くらいですから、まだまだコミュニケーションを取らないといけないなと思ってます。

樅野:こういう世の中だからメシも行けないですもんね。でもあの3組からしたら、俺なんて元芸人のただの先輩だから、レギュラーになってからは絶対収録に行かないようにしてます。向こうも気をつかうだろうし、部活のOBが練習見に来るのって嫌じゃないですか(笑)

ラリータ:でも、若手のディレクターさんにとっては、第一線の芸人さんと一緒にやれるのはラッキーですよね。

樅野:本当にそう思います。みんな「こういうコント番組やりたかったんですよ!」っていう顔してますもん。俺だってお笑いしかできないから、この時代が3年早くても3年遅くても今のポジションにいないと思うので、スーパーラッキーだなと思います。