動力性能、快適性、安全性など、どれをとってもDセグメントのベンチマークだとされる性能を誇っているのが、1982年に登場した「190クラス」をルーツとするメルセデス・ベンツの「Cクラス」だ。先代はセダン、ステーションワゴンを合わせて日本で累計10万台が売れ、2015年から2019年までの間は同セグメントの年間販売台数1位を獲得し続けた人気モデルだった。

このほどフルモデルチェンジした新型Cクラスには、同社のフラッグシップである新型「Sクラス」譲りの要素がふんだんに盛り込まれている。技術面のみならず、内外装のデザインもはしばしからSクラス的な雰囲気が漂う。このクルマさえあれば、あえてSクラスを買う必要はないのか? そんな思いを抱きながら、箱根で新型Cクラスに試乗した。

  • メルセデス・ベンツの新型「Cクラス」

    メルセデス・ベンツの新型「Cクラス」に試乗!(本稿の写真は撮影:原アキラ)

今のところ国内唯一! 希少な新型Cクラス

試乗会に供された7台の新型Cクラスは、日本にやってきた最初のロットのもの。今のところ、国内でお目にかかれるのはこれだけという超希少な個体だった。筆者が担当したのは、外装色が「モハーベシルバー」の「C200アバンギャルド」。オプションの「AMGライン」を装着したクルマである。

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  • 試乗したのはモハーベシルバーの「C200 アバンギャルド」。AMGラインを装着している

ボディサイズは全長4,785mm(先代比+80mm)、全幅1,820mm(同+10mm)、全高1,435mm(同+5mm)、ホイールベース2,865mm(同+25mm)と堂々たる体躯だ。全長が伸びたわりに幅が少しのアップにとどまったのは、日本で乗る我々にとってみれば大歓迎といえる。トレッドは前1,590mm、後1,575mmでどちらも15mm拡大となり、重量も70kg重い1,700kgとなっている。

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    全長は結構長くなったが幅は10mm増に抑えてある

エクステリアは短いフロントオーバーハングに続く長いボンネットが伸びやか。その後方に置かれたウインドスクリーンとなだらかなルーフを持つキャビンの位置関係がスポーティーな印象を与える。プレスラインやエッジを極力排したシルエットは、メルセデスが掲げるデザインの基本思想「Sensual Purity」(官能的純粋)に基づく。

ヘッドライトはSクラスに似て上下方向に薄く、エッジが効いている。AMGラインを装着した試乗車のフロントグリルは、マットクロームのスリーポインテッドスターが無数に散りばめられた新しい「スターパターン」タイプになっていた。

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    フロントグリルにはスリーポインテッドスターがびっしり

サイドに1本だけある「キャットウォークライン」やリアの2分割コンビネーションランプもSクラスを彷彿させる。全体として、「ミニSクラス」と呼べるほど優雅なスタイルだ。ボルボのデザイン担当であるトーマス・インゲンラートは、メルセデスのS、E、C各モデルの相似的なデザインを「退屈なサイズ違いの3足の黒い革靴」に例えたが、それをここまで徹底しつつ、しかもカッコいいクルマに仕上げているとなると、何もいえなくなってしまうほどの説得力がある。

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    ところどころで「Sクラス」を彷彿させる新型「Cクラス」だが、結局のところカッコいいクルマに仕上がっているので文句はない

インテリアもSクラスの要素がたっぷり。ドライバーの眼前に浮かび上がるような12.3インチの大型コックピットディスプレイと、センターの縦型11.9インチメディアディスプレイを配したデザインがそっくりだ。Cクラスはドライバーズカーなので、ダッシュボードは6度の角度で運転席側に傾けてある。アンビエントライトも64色から選択可能で、こちらは選ぶのに苦労するほどだ。

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  • こちらも「Sクラス」の要素がたっぷりのインテリア

たったの1.5Lでもパワーに不足なし!

C200のパワートレインは、単体で最高出力204PS(150kW)/5,800~6,100rpm、最大トルク300Nm/1,800~4,000rpmを発生する1.5リッター直列4気筒ターボエンジン「M254」に、最大で20PS(15kW)/208Nmをブーストする「ISG」(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)を組み合わせた48Vのマイルドハイブリッド(MHV)システムだ。ちなみに、従来の「M264」型1.5リッターは184PS/280Nmだった。

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    1.5L4気筒ターボとISGを組み合わせた新型「C200 アヴァンギャルド」のMHEVシステム

従来型の「BSG」(最大10kW)がエンジンとトランスミッションの間に配置されたベルト駆動方式だったのに対し、ISGはトランンスミッション内部にモーターを配置した駆動軸直結型のため、作動の効率が大きくアップしている。結果的に、データでは0-100km/h加速が先代の8.1秒から7.1秒に短縮され、燃費(WLTCモード)は12.9km/Lから14.5km/Lに伸びている。

走り出すと、パワーアップの効果はすぐにわかる。箱根のきつい登り坂でも1.5リッターとは思えないほどアクセルの反応がよく、48VのMHEVシステムがサポートする9速ATはシフトショックなしにグングンと加速する。そして何より、エンジンサウンドがいい。決して大きな音量ではないけれども、高回転域のビートは「最高!」といってもいいほどだ。

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    素敵なエンジンサウンドを奏でる新型「Cクラス」

太めのグリップを持つAMGライン専用ステアリングから伝わってくる路面とのコンタクト感は秀逸。さらに、AMGライン装着時にオプションで選べる「リア・アクスルステアリング」(後輪操舵システム)が抜群の効果を発揮する。60km/h以下では前輪と後輪が逆位相に、それ以上だと同位相に最大2.5度まで向きを変え、さらに約10%クイックに設定したステアリングレシオまで組み込んだこのシステムにより、箱根峠付近の小さなコーナーでは長い鼻先がくるりと向きを変える。その先のターンパイクには数多くの中速コーナーが待ち受けていたが、エイペックスを過ぎたあたりからジワジワーっといった感じでお尻から向きを変えるFRモデルらしい走りがより濃く味わえた。

つまり、ファミリーカーとして使用する普段の街中では、5.0mまで短縮された最小回転半径が狭い場所での切り返しなどに効果的だし、休日の早朝にひとりで向かうワインディングでは、とても強力な味方になってスポーツカーのような走りを実現してくれるのだ。新型Cクラスをお求めになるなら、ぜひこのシステムは装着した方が楽しいと思う。

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    リア・アクスルステアリングをいかして中速コーナーを抜ける新型「Cクラス」

唯一のネガティブな部分を挙げるとしたら、18インチのAMG専用ホイールに装着されたタイヤとサスペンションのマッチングによる乗り味の硬さくらいか。試乗車にはグッドイヤー製とピレリ製の2種類のタイヤが装着されていたが、筆者の乗った個体の「225/45R18」(前輪)と「245/40R18」(後輪)のピレリ「P7」は、良路ではすばらしく静かで乗り心地がよかったのだが、少し路面が荒れた場所では、途端に大きな音と振動を伝えてきた。さすがにこういう場所で乗れば、Sクラスの乗り心地には敵わないのだろうか。もっとも、標準モデルではもう少しいいのかもしれないのだが……。

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  • メルセデス・ベンツの新型「Cクラス」
  • ドライブモードは5つ。写真は「スポーツ+」モード

山を下った湘南バイパスでは「ADAS」(安全運転支援システム)を試してみた。“鉄板”ともいえるメルセデスのインテリジェントドライブは、最新世代のレーダーセーフティパッケージとなったことで、さらに安心感が増していた。クルマに運転を任せて追従運転を行っているときはステアリングに手を添えているだけでOK。ステアリングリムのセンサーが、従来のトルク検知型から静電容量センサーを備えたパッド式に変更されたおかげだ。

各ボタンを配したツインスポークのAMGステアリングは、スポーティーかつ機能的なデザインだ。目的地を設定すれば、AR(拡張現実)ナビゲーションが自動で立ち上がるのもなかなかすごい。フロントウインドウのカメラが捕らえた前方の映像に、矢印などを重ねて曲がるべき方向や走るべきレーンを示してくれる。ヘッドアップディプレイの文字は大きく、情報も詳細だ。

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    Dセグメント初のARナビゲーションを自動表示

「やっぱりCクラスはすばらしいな」と思いつつ試乗を終えたところで、もうひとつだけネガな部分が見つかった。試乗車の車両価格は654万円で、ベーシックパッケージやAMGライン、メタリックペイント、リア・アクスルステアリング、さらに保証プラスとメンテナンスプラスを合計すると、その日乗ったクルマはなんと751.7万円也。メルセデスのFRエントリーモデルは、今やこんな価格になっているのだ。

  • メルセデス・ベンツの新型「Cクラス」

    「Cクラス」のトランクは若干、背が低め。ボタンでリアシートを倒せば長尺物も積載可能に

納車については、セダンのC200とC200dは秋頃から、4MATICとステーションワゴンは2022年第1四半期、C350eは同中頃とアナウンスされているが、半導体不足などのあおりを受けて、若干遅れそう。出来のいいクルマにオーダーを入れて待つのは、それはそれで楽しい時間ではあるのだが……。