ロータス幻の傑作「エトナ」が今夏モントレーにて出品される!

1984年、イギリスのバーミンガム・モーターショーで世界を驚愕させたコンセプトカーがロータス・エトナだった。そんな幻の車が今年8月13日、アメリカ・モントレーで開催されるブロード・アロー・オークションズに出品される。

【画像】独創的なコクピットのデザインにも注目!ロータスの幻のコンセプトカー、エトナのインテリアやエクステリアの詳細(写真32点)

1979年のイラン・イラク戦争に端を発した燃料価格の高騰が高級車需要を直撃し、ロータスの販売は低迷を続けていた。さらに追い打ちをかけたのが、1982年のコリン・チャップマンの突然の死去で、同社は混乱状態に陥っていた。そんな逆境の中で生まれたのがエトナだ。

このプロジェクトの核心となったのは、トニー・ラッドが1978年にチャップマンから託された任務にあった。ロータスファミリー全体で使用されていた傾斜4気筒エンジンと可能な限り共通部品を持ちながら、最高出力320馬力と最大トルク300lb-ftを発生する新しいV8エンジンの開発である。これが後に伝説となるType 909エンジンの始まりだった。

一方、他のエンジニアたちは、F1マシンで使用していたアクティブサスペンションシステムを市販車に応用する研究を進めていた。ロータスはエスプリのシャシーに新開発のエンジンとトランスミッションを搭載し、パッケージング検討のためイタルデザインのジョルジェット・ジウジアーロのもとへ送った。ジウジアーロは既にエスプリを手がけており、その経験を活かしてエトナのデザインを生み出したのである。

バーミンガムでエトナが公開された際、ロータスは大胆な約束をした。アクティブサスペンション、トラクションコントロール、ABS、ノイズキャンセリング技術(!)を搭載すると宣言したのである。そして最高出力335馬力と最大トルク295lb-ftを誇る、ラッドの4.0リッターType 909エンジンが搭載される予定だった。結局、このエンジンはわずか2基しか製造されず、1基はロータスが展示用として保管していた。

エトナのウェッジシェイプボディは、未来的でありながらもエスプリの血統を感じさせる絶妙なバランスを保っていた。ドライバー中心に設計されたコクピットは当時、流行りの”人間工学”に基づいたデザインだった。0-60mph加速4.3秒、最高速度約180mphと掲げられた目標は、当時としては驚異的な数値だった。

しかし、エトナの運命は過酷だった。

1986年にゼネラルモーターズがロータスを買収すると、方針は一変。エトナとType 909プロジェクトは凍結され、やがて打ち切りとなった。GMは高価なスーパーカーではなく、手頃な価格のスポーツカー開発に舵を切り、1989年の前輪駆動エランとして結実することになる。新しいロータス製V8エンジンの登場は1996年まで待たなければならず、それもType 909とは全く異なるものだった。

唯一のコンセプトカーはヘセルのロータス工場で長い間保管された後、1998年にシルバーストンでオークションに出品された。この時、ロータス専門ディーラーのポール・マッティが落札し、2001年にコイズ・オークションで再びオークションに出品された。コリン・チャップマンの長年の信奉者でクラブ・ロータス・オランダの会長だったオラフ・グラシウスが落札し、世界で最も重要なロータス・ヒストリックカーコレクションに加わることとなった。

グラシウスがエトナを入手した時は既に朽ち果てた状態で、あくまでも展示用のモックアップだと考えられていた。実際、1984年のバーミンガム・モーターショーでの展示時も、モックアップだった。

しかし、グラシウスが元ロータスのエンジニアで現在はロータス専門レストア専門家であるケン・マイヤーズと息子のニール・マイヤーズにレストアを依頼したところ、驚くべき発見があった。なんとモックアップと思われた車両の中にはトランスミッション、そして伝説のType 909 V8エンジンが搭載されていたのである。グラシウスが車両を確認することなく入札していることにも驚くが…

マイヤーズは1年という短期間で、エトナを完全な走行可能状態まで復活させた。新しいパースペックス製キャノピーとエスプリのサスペンションを装着し、2006年のドニントンパークで開催されたロータスフェスティバルでは、大勢のロータスファンが見守るなかエトナを走らせた。40年以上の時を経て初めて響いたType 909のエンジンサウンドは、関係者にとって忘れられない瞬間となったに違いない。

2008年のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードでの展示を経て、2012年にグラシウスがコレクション全体を売却。その後10年間は南カリフォルニアの著名なコレクションで大切に保管されてきた。

落札予想価格は25万~40万ドル(約3,600万~5,800万円)。

ロータスの危機的状況から生まれ、結果として唯一無二の存在となったエトナは単なるコンセプトカーではない。コリン・チャップマン最後の夢、トニー・ラッドの技術的野心、そしてジウジアーロの芸術的才能が結実した、夢物語の1ページである。

文:古賀貴司(自動車王国) 写真:ブロード・アロー・オークションズ

Words: Takashi KOGA (carkingdom) Photography: Broad Arrow Auctions