京成トラベルサービスは京成電鉄の後援で、10月9・17日に「まるごと3400形の旅」を開催した。初代「スカイライナー」車両、旧AE形の走行機器を流用している3400形を使用したツアーで、過去に開催された3400形のツアーが好評だったことを受け、さらに充実した内容となった。10月9日のツアーでは、報道関係者も同乗できた。

  • 京成電鉄の初代「スカイライナー」車両、旧AE形の走行機器を利用した3400形を楽しむツアーが開催された

■旧AE形の機器を利用した車両で成田スカイアクセス線へ

今回のツアーでは、10時16分に3400形が京成上野駅3番線に入線。柱を隔てて反対側の2番線からは、10時20分に「スカイライナー29号」が発車したため、少しの間だけ現行のAE形と、旧AE形を流用した3400形の並ぶ姿を見られた。「スカイライナー29号」に続き、3400形のツアー列車も10時23分に発車。普段の3400形では聞くことのできない現行「スカイライナー」の自動放送が流れ、その後に今回の行程をアナウンスで説明。京成高砂駅まで京成本線を走行した。

  • 京成上野駅3番線に3400形のツアー列車が入線

  • 少しの間だけ、現行「スカイライナー」と並ぶ場面も

  • 珍しくなった方向幕。「臨時」と表示

3400形は1993(平成5)年に登場した通勤型車両。1991(平成3)年に登場している3700形と車体のデザインが似ていながらも、3400形は旧AE形の台車・走行機器を流用している。3700形のVVVFインバーター制御に対し、3400形は界磁チョッパ制御を採用しており、発車・停車時の音を聞けば両者の違いがわかるだろう。都営浅草線・京急線にも乗り入れるため、羽田空港駅や京急蒲田駅など広範囲で見られる。

今回のツアーは参加者190名を募集したところ、266名から応募があり、倍率は1.4倍だったという。家族で参加する人も見られたが、旧AE形の現役時代を知っていると思われる世代からの参加も多く見受けられた。

列車は京成高砂駅に運転停車した後、成田スカイアクセス線に向けて発車。京成本線では通常の列車の合間を縫っているため、あまり速度が出なかったが、成田スカイアクセス線に入ると一気に速度を上げ、高速運転となる。印旛日本医大駅付近まで、ツアー列車に同乗している運転士による思い出話や成田スカイアクセス線にまつわる小話などのトークを交えながら列車は走行した。

  • アクセス特急の3100形とすれ違いながら成田スカイアクセス線へ

  • 印旛車両基地への引込線と分かれる

  • 印旛日本医大駅を出てさらに成田空港方面へ

印旛日本医大駅でいったん運転停車を行い、すぐに発車。北総線との共用区間が終わり、最高速度で高架線を走行する。本来、印旛日本医大駅の次は成田湯川駅だが、3400形のツアー列車は成田湯川駅を通過。現行の「スカイライナー」車両AE形のような160km/h運転はできないものの、元「スカイライナー」の走りを思い起こさせる場面だった。

成田湯川駅を通過すると、線路は単線になる。この分岐ポイントは「38番分岐器」と呼ばれており、京成上野方面へ向かう「スカイライナー」が160km/hで走行しながら通過できるようになっている。一見すると、そのようなトップスピードで通過できるのか気がかりだが、運転士のトークによると、まったく気づかないほど揺れないとのこと。

成田湯川駅を通過した代わりに、途中の根古屋信号場で運転停車。その間に車内では、車内放送体験権の抽選会と列車種別・行先表示の人気投票が行われた。抽選会では10個の番号がアナウンスで読み上げられ、当選した人は後ほど東成田駅にて3400形の車内放送を体験できる。種別・行先の人気投票では、受付時に配布された投票用紙に記載された列車種別と行先表示の中から、好きなものをひとつずつ選び、投票。集計結果の上位10位までが、東成田駅にて実際の表示で発表される。

  • さらにスピードを上げ、成田湯川駅を通過。その先の分岐ポイントを通過した後、単線に

  • 根古屋信号場で運転停車。左奥にJR線も並行

  • 車窓から飛行機が見えることも

  • 成田空港駅ではアクセス特急用の1番線に到着

根古屋信号場を発車し、11時38分に3400形のツアー列車は成田空港駅に到着。おもにアクセス特急が発着する1番線に入線した。ここで一度改札を出て、13時30分頃まで各自の自由時間となり、この時間内に昼食も取る。成田空港駅から空港第2ビル駅へ移動の上で連絡通路を歩くか、無料のターミナルバスを利用して各自で東成田駅へ向かった。

■東成田駅に3400形入線、放送体験や人気方向幕の発表も

ツアーの舞台は成田空港駅から東成田駅へ。駅構内では京成グループ各社の物販が行われたほか、仮設壁で仕切られたポスターギャラリーでは、旧AE形と旧型車両のヘッドマークや、AE100形などが写る懐かしいポスターの展示が行われた。ポスターギャラリーの壁を挟んで反対側では、成田空港輸送40周年記念ポスターも掲出されていた。

  • 京成グループ各社の物販や、歴代「スカイライナー」ポスター展示を見学できた

  • ポスターギャラリーにて、懐かしいポスターやヘッドマーク・種別表示板が展示された

  • 壁の向こうの薄暗い空間は、かつて成田空港駅だった形跡を今に残している

復路の3400形は東成田駅の旧「スカイライナー」ホームから発車するため、旧コンコースも見学可能に。以前のツアーでも旧コンコースが公開されたが、そのときから様子は変わっておらず、薄暗い構内にかつて成田空港駅だった形跡がいくつも見られた。

3400形のツアー列車は13時38分、東成田駅の旧「スカイライナー」ホームに入線。先ほどの抽選会で車内放送体験に当選した10名は1号車に集まり、順番に車掌のアナウンスを体験した。京成上野行の快速特急という設定で、体験者は原稿を読みながらマイクに声を通し、ていねいなアナウンスが車内に行き届いた。当選した人の中にこどもたちの姿もあり、はっきり声を出す様子もあった。

  • 東成田駅旧スカイライナーホームに、旧AE形の機器を使った車両が停車中

種別・行先の人気投票の結果も、実際の方向幕を表示しながら発表された。10位から順に、「快速特急 三崎口」「通勤特急 新逗子」「快速特急 成田空港」「エアポート快特 金町」「エアポート快特 東成田」「エアポート快特 成田空港」「エアポート快特 新逗子」「急行 東成田」「エアポート快特 三崎口」と表示された。

栄えある第1位は「特急 三崎口」だった。全体的に京急線の行先が人気だったようだが、かつて京成線内にも存在した急行や、3400形では普段見られない金町行の表示がランクインしたことも印象的だった。ホーム前方は、これらの種別・行先を表示した3400形を撮影する参加者でにぎわっていた。3400形が旧AE形の走行機器を継いでいることも踏まえると、東成田駅の旧「スカイライナー」ホームに3400形が停車することは感慨深い。

  • 抽選で選ばれた10名がマイクを握り、車内放送を体験

  • 10月9日の参加者に最も人気の種別・行先表示は「特急 三崎口」だった

  • 令和の現代に東成田駅(旧成田空港駅)にいることを思うと、さらに感慨深い

■復元された懐かしい自動放送を聴きながら京成本線を走行

思い思いに見学・撮影を楽しんだ後、15時6分に3400形のツアー列車は東成田駅の旧「スカイライナー」ホームを発車。車体は異なるが、音に着目すれば、まさに旧AE形がかつての成田空港駅を出発するようなものだった。トンネルを抜け、成田空港方面からの線路と合流すると、今回のために復元された旧AE形時代の自動放送音源が再生された。

「大変お待たせいたしました。ご乗車ありがとうございます。上野行『スカイライナー』でございます。上野までの所要時間は60分で、途中止まらずにまいります」というアナウンスだったが、現行の放送と異なる言い回しや、少々音割れ気味の音に時代の違いを感じる。京成津田沼駅通過時にも、同駅通過中を知らせる復元音源が再生された。

復路ではその他、昭和40~50年代後半の通勤電車に使用されていた自動放送や、昭和39年のCMソング「ぐんぐん京成」の復元音源を聴きながら京成上野駅へ向かう。「♪ぐんぐん京成~ ♪ずんずん京成~」の歌詞やメロディからは、旧AE形が現役だった頃が思い浮かぶ。通勤電車の自動放送では、アナウンスの後ろでBGMが流れ、停車駅案内の後に沿線の店舗の広告が流れていたことも特徴的。現在は運行されていない急行の種別や、谷津遊園(現・谷津)駅、センター競馬場前(現・船橋競馬場)駅など、当時の駅名も読まれた。

今回、報道関係者らは往復とも1号車に乗車したが、1号車の優先席のみ、参加者の座席として割り振られていた。見たところ家族での参加だったようだが、車窓の風景や車内放送など、十分に楽しんでいた様子だった。

  • 京成津田沼駅付近で旧「スカイライナー」の自動放送が流れた

  • 昭和期の自動放送を聴きながら京成本線を走行

  • 日暮里駅付近で最後の自動放送。JR線は「国鉄線」と放送された

ただ、AE形を含む旧型車両の音源はどれも古いもののため、当日のスタッフも再生に苦労していた様子。京成電鉄での旧式の自動放送は、昭和40代後半から昭和60年代にかけて行われていた。エンドレスのカセットテープだったため、継ぎ目に糊のついた金属箔を使用していたが、経年劣化により継ぎ目が切れて再生できなくなってしまう。復元にあたり、京成電鉄ではそれに代わるものを試行錯誤していたとのこと。

テープに動力を伝えるゴムローラーも変形や磁気の粉で滑り、再生しにくくなるので、その部分を削り、安定した回転に戻す作業も行われた。今回、音源を復元するにあたり、京成電鉄の社内にテープが保管されていなかったため、当時に京成電鉄やテープ業者で働いていた人などの協力を得て、復元に成功した。

日暮里駅付近で最後の旧AE形自動放送が再生され、3400形のツアー列車は16時16分に京成上野駅3番線に到着。旧AE形は昭和の車両であるため、京成上野駅からの乗換案内で「JR線」は「国鉄線」と案内された。筆者にもわかっていたことだが、当時の放送を実際に聞いたことで、時代の違いをより痛感した。改札外でツアーは解散となり、参加者にはアンケートと引換えに3400形のコインケースがプレゼントされた。

京成電鉄では10月30日から、運休中だった「スカイライナー」の運行を再開する。再開後は「スカイライナー」の終日20分間隔での運行が復活するため、今回のように成田スカイアクセス線を活用したツアー企画はしばらくできなくなると予想される。「スカイライナー」全便運行再開を前に、旧AE形の走行機器を流用した3400形で成田スカイアクセス線を体感できたことは、ツアー参加者にとって貴重な思い出になったのではないだろうか。