ドラマ『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(TBS系)での喜多見医師に、映画『孤狼の血 LEVEL2』でのヤクザ・上林と、つい先ごろの役柄だけを見ても、まったく異なるキャラクターを生み出し、作品世界へと没入させる俳優・鈴木亮平。
『クライマーズ・ハイ』『日本のいちばん長い日』の原田眞人監督が、『関ケ原』でも組んだ岡田准一を新選組の土方歳三として主演に迎えた時代劇映画『燃えよ剣』では、新選組局長・近藤勇を演じている。
その風貌や醸し出すオーラに、当初から「間違いなくハマる!」と期待された鈴木の近藤役だが、強いだけのリーダーではなく、弱さを内に抱えた人間・近藤勇は、予想以上の求心力で引き付ける。
本作で組織のリーダーを演じ、多くの映画やドラマで主演を張ることも多い鈴木。しかし昔は「人を引っ張っていく」ことを考えたこともなかったとか。そして「僕も『燃えよ剣』の近藤も、ダメな部分もさらけ出すことで相手に信用してもらって、神輿に乗せてもらうタイプ」と言い、「立場が人を作る。人が変わっていくのは、立場を与えられたときかな」と語った。
■積極的に隊士一人ひとりとコミュニケーション
――キャスティングを聞いた時点で、「鈴木さんが近藤勇! ピッタリ!」と思った人は多いと思います。現場では、隊士に愛されるように努めていたと聞きました。
土方さんが実務的なリーダーだとしたら、近藤は感情的なリーダーで、愛されないといけないなと思ったので、現場では積極的に隊士の一人ひとりとコミュニケーションを取るようにしていました。岡田さんはあえてでしょうが、少し距離を取るようにしていたので、自分はまとめる役割だと思いました。
――積極的にコミュニケーションを取っていったというのは、普段からどの作品でもするわけではなく、近藤役だったからですか?
そうですね。普段はそんなに。嫌いではないですが、エネルギーがいりますからね。当時はまだみんなで飲み会ができていた時期だったので、ホテルの部屋に集まって飲んだり、いつもより積極的に声をかけていました。
――鈴木さん自身は、今回の人間・近藤勇のどこに惹かれましたか?
武士のリーダーですから、そのストイックさはきちんと持たないと作品がぬるくなると思ったので、そこは押さえつつ、(原作者の)司馬遼太郎さん(遼のしんにょうは点2つ)の描く弱い近藤をミックスしていったと言いますか。自分なりにいろんな場所に行って、いろんな資料にあたって、自分の思う近藤さんを見つけていきましたが、それと、脚本のなかでの近藤を混ぜていって、今回の『燃えよ剣』での近藤にしていきました。土方さんが、ある種、超人のような完璧な人だとしたら、今回の近藤には弱さがあって人間味がある。僕は好きです。
■近藤の最後のシーンは“炭酸の抜けたジュース”
――土方との最後のシーンに泣きました。あのような繊細なシーンの前には、集中する時間をかなり取るのでしょうか。
いえ、あそこはすごくナチュラルに行くシーンだろうなと思ったので、それはなかったですね。全然気合いの入ったシーンではなく、むしろ気合いが抜けてしまった後、炭酸が抜けたジュースのような近藤なので。刀が使えなくなったときに、炭酸が抜けちゃったんですよね。そう僕は思っています。あの時点で、近藤はちょっと楽になれたんじゃないですかね。
――そうですね。
器じゃなかったんです。こういうと残酷ですけど、新選組を背負うことはできたけれど、政治の世界や、あまりにも移り変わっていく時代のなかで、変化していくほどの器用さがなかった。出が武士じゃないからこそ、武士としてのプライドを捨てられなかった。刀を振れなくなり、武士の象徴を無くしてまで、精神的にずっと突っ走るということは、土方ほどはできなかった。『燃えよ剣』のなかでは、そう描かれていますね。「京にいた俺は、俺じゃねえよ」と。きっと必死に近藤勇という人物であろうと、無理をしていたのでしょう。
――しかし近藤さんでなければ、みなが付いてこなかったのも事実なんですよね。
どの組織も、愛されるリーダーと、実務的にこなすリーダー、両方がいて初めてうまくいくのかなと。