2016年3月、第39回日本アカデミー賞の新人俳優賞でプレゼンターを務めた岡田准一は、受賞した若手俳優たちに向けてこんなメッセージを送った。

「これからこの方々が日本映画界を支えていくことになると思います。素晴らしい方々に出会って、いい年の取り方をしてほしい」

その中の一人、当時23歳の山田涼介は目を輝かせながら、事務所の先輩でもある岡田に向けて「目指します!」と精一杯の思いをぶつける。その誓いから約5年半。2人が初共演を果たした映画『燃えよ剣』が、10月15日にいよいよ公開を迎えた。

同作で新選組の“鬼の副長”こと土方歳三を演じた岡田。一方、そんな土方を慕う沖田総司役に起用された山田は“最強の剣士”を全うすべく、岡田に殺陣の稽古を願い出る。「目指します!」という後輩の熱い思いを受けとめたあの日から時を経て、岡田は山田とどのように向き合ったのか。そこには新選組の鉄の掟のごとく、“変人”としての矜持が宿っていた。

  • 映画『燃えよ剣』で土方歳三を演じた岡田准一 (C)2021 「燃えよ剣」製作委員会

    映画『燃えよ剣』で土方歳三を演じた岡田准一 (C)2021 「燃えよ剣」製作委員会

■映画『燃えよ剣』は「奇跡のような作品」

――土方歳三は、「いつか自分が演じるかなと思っていた唯一の人物」だったそうですね。

現場の雑談で決まったんです。プロデューサーの方と監督の3人で話しているときに、監督から「次、どんな役をやりたい?」と聞かれて、「『燃えよ剣』の土方歳三もいいのでは」みたいな話になって。そこから実現した企画です。そういう雑談でうまく成立することは少ないのですが、タイミングと監督の熱意が重なりました。だから、役柄に呼ばれたのかなとも思います。そして、本格時代劇をエンタメに昇華する、すごくチャレンジングな企画。僕にとっては奇跡のような作品です。

「やってみたいな」という役はいくつかあるのですが、「やるかもな」と予感していたのは土方歳三が唯一でした。何かきっかけがあったというわけでもないんです。ただ、歴史の番組をやらせていただいて、そこで取り上げたときに思いました。縁があったというわけでもないので、不思議な感覚を持っていました。外見が特に似ているわけでもない。でも、背格好は一緒ぐらいなんです。そういう共通点があったからなんでしょうか……ちょっとこの感覚は説明しようがありません。他の役と同じように「演じてみたい」と思いながら、もしかしたらそれ以上に魅力を感じていたのかもしれないです。

もともと歴史は好きなので、予備知識もありました。彼は「男の一生は美しさを作るためのものだ」という言葉を残していて、原作ではそれを体現しているような人物として描かれています。映画は、土方の一生を見せながら当時の時代背景を僕のナレーションを通じて伝える手法なので、「男の一生は美しさを作るためのものだ」という美意識をたくさん込めたいと思って作りましたし、役柄に呼ばれているような感覚もありました。

――殺陣の構築と指導も兼任されましたが、どのように進めていったのでしょうか?

僕の中で、アクションとリアリティは別物なんです。監督から「振り付けも頼む」と言われたときに、アクションとエンタメと、本物とリアリティのパーセンテージを聞きました。以前担当した、『散り椿』という映画では、本物の要素をわりと高めに設定していて。監督から、「エンタメ要素を強めに作ってほしい」「カットで止めずに一連の流れで空気を撮りたい」と言われたので、まずはそこを意識しました。

過去の行動や培ってきたものが言葉や性格に関係するのと同じように、動きにも現れると僕は信じているので、それぞれのキャラクターを頭に入れて。あとは強さのランキングを自分なりに考えました。土方は9番目か10番目ぐらいかな、とか。芹沢の方が力は上で、地面ごと斬ってしまうような豪快さがある。近藤さんは鈴木(亮平)さんがやることも踏まえて、一発の重さが出るような動きに。そうやって、それぞれのキャラに合わせて作っていきました。天然理心流を完全に再現するのは、実はすごく難しく、もちろん要素としては取り入れていますが、自分がやっている総合格闘技やカリ、ジークンドー、柔術などの動きも織り交ぜて。キャラクターとしての体の動きを念頭に考え、決め込んで縛りを作らないようにしています。

それから、衣装にも意味があります。特に着物は当時の人の動きに合っていて、武術につながる体の使い方としても着物がいちばん適している。袴をはくのは、足さばきを隠せるという理由だけではないんです。僕は現場に行くだけで修行になると思っていて、だからこそきちんと着るということをこだわっています。こだわればこだわるほど、現場では変人扱いされるわけですが(笑)。武術にこだわったり、その当時の意味のようなことを探し続けて。刀ひとつとってもどうしても形式的になってしまったり……。下の世代に伝えていくためにも、そうやって自ら“変人”になっちゃいますよね。

■近くで否定してくれる人の存在

――下の世代といえば、沖田総司役の山田涼介さんとは初共演でしたね。振り返ってみていかがですか?

バラエティなどでは一緒になったこともありましたが、お芝居は初めてでした。役者としては……僕から彼に対して何かを言うことはないです(笑)。いろいろな現場がある中で、今回はわりと特殊で。映画人が好むというか、「映画を撮ってる」ということを体感できる現場だったので、彼にとっては刺激的だったのではないでしょうか。彼は原田組のような、ヒリヒリする現場の経験も当時はなかったと思います。原田組は、現場に来ていただくと分かると思うんですけど、空気に色がついたような緊張感があります。そこに飲み込まれるのか、飲み込まれないかが重要で。そこで飲み込まれない人を増やすのが自分の役割だと思っていましたけど、彼は全く飲み込まれなかったですし、それだけでもすごいことですよね。

――先ほど、「新選組の強さのランキングを自分なりに考えた」とおっしゃっていましたが、山田さんにも伝えていたんですか?

新選組隊士の中で一番強いのは沖田総司。そのことは山田くんに伝えました。そういえば、彼から「時代劇初めてなので教えてください」と言われたので、プライベートレッスンをしました。「教えてほしい」と自ら望むのは、すごいですよね。数々の主演をこなした経験があるのに、「教えてほしい」と素直に言えるのはさすがだなと。沖田もそうですが、動きを見ていると彼自身も天才ですね。武術を極めた方がいい(笑)。向いていると思います。僕が教えた方々の中でも、彼はかなりセンスがいいです。

――2016年の第39回日本アカデミー賞の新人俳優賞授賞式で、岡田さんはプレゼンターを務めました。山田さんを始めとした若手の受賞者に対して、「これからこの方々が日本映画界を支えていくことになると思います。素晴らしい方々に出会って、いい年の取り方をしてほしい」というメッセージが印象的でした。山田さんは“いい年のとり方”をされてますか?

どうですかね。今をときめく山田くんに僕から言うことはないです(笑)。でも、否定してくれる人が近くにいればいいなと思います。僕は若い頃にそういう人がいました。自分ではカッコつけているつもりはないのに、「また、そういう芝居してるじゃん」って。プロデューサーの方なんですけど。「もう、飽きた」とか言われるんですよ(笑)。眉毛を整えたりしたら、「もう、そういうのいらないから」って(笑)。

「ジャニーズとしての見栄えとか美しさも大切ですが、そういうところではないところでの自分も探した方がいい」と言われて、僕はそういう人たちと出会ってきました。彼は求められたものをこなさなければならない位置にいるので、きっと全てを自由にはできないはず。でも、「またそういうことをやって」と言ってくれる人が近くにいればいいなと思います。

■岡田准一
1980年11月18日生まれ。大阪府出身。95年、V6のメンバーとしてCDデビュー。02年、ドラマ『木更津キャッツアイ』(TBS)が人気を集め、『木更津キャッツアイ 日本シリーズ』で映画初主演を務める。13年は『永遠の0』主演で映画も興行収入87億円の大ヒットを記録。14年には、NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』にて主演・黒田官兵衛を演じた。日本アカデミー賞では、15年に最優秀主演男優賞(『永遠の0』)と最優秀助演男優賞(『蜩ノ記』)をW受賞し、以降も優秀主演男優賞を3度(『海賊とよばれた男』『関ヶ原』『散り椿』)受賞している。