YouTube・サブスク動画配信サービスの台頭、視聴率指標の多様化、見逃し配信の定着、同時配信の開始、コロナ禍での制作体制――テレビを取り巻く環境が大きく変化する中、最前線にいる業界の“中の人”が語り合う連載【令和テレビ談義】。
第3弾は、数多くのクイズ番組を手がけ、『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)でも話題となったクイズ作家の矢野了平氏と日高大介氏が登場。『今夜はナゾトレ』を手がけるモデレーターのフジテレビ・木月洋介氏を含めた3人で、「クイズ番組」についてとことん語り合うテレビ談義を、5回シリーズでお届けする。
最終回は、様々なクイズ番組を見てきた中で印象に残る「解答者」の話題。そして、クイズ作家としてテレビに期待することとは――。
■スタッフ心理を突く伊集院
――これまでいろんなクイズ番組を見たり携わってきたりした中で、この人はすごいと思った解答者を挙げるとすると、どなたになりますか? 私は『マジカル頭脳パワー!!』(日本テレビ)で、問題VTRが出る前に正解を出した所ジョージさんが、強烈に印象に残っておりまして。
日高:頭文字の書いてあるコインが並んでて、「こいのぼり」って答えたやつですよね。
木月:「どうせ5月のOAだろ?」って、スタッフの思惑まで読んでいたんですよね。
矢野:僕は伊集院光さんですね。『Qさま!!』(テレビ朝日)のプレッシャーSTUDYの初期の頃、「ゴ」から始まる「埖」(ゴミ)という難読漢字の読みを答える問題で、土の上に花のように散るもの…とイメージを膨らませてたどり着いたんですよ。他の解答者が東大・京大卒とかで知識で解いていくんですけど、その中で伊集院さんがひらめきで解いた瞬間は、所さんと同じようにすごいなあと思いましたね。
日高:伊集院さんは、「プレッシャー説明力」という企画で、「還元」という理科用語をチームメイトに時間内で説明して答えるときもすごかったです。我々だったら「酸化の反対」とか言うと思うんですけど、伊集院さんは「バーゲンセール」とか「お世話になって人に返す」と、枠にとらわれない説明の仕方でチームにヒントを伝えてたんですよね。
矢野:伊集院さんって、3択クイズが出題されると、残り2つのウソをスタッフがどう考えたんだろうとか、正解だった後にVTRを作るとしたらこれが見やすいんじゃないかとか、番組スポンサーはあの会社だから…っていうところまで考えるって言ってたんですよ。そういう意味では、知識が豊富なクイズ王でなく、テレビクイズの解答者として本当にプロだなと思いますよね。
日高:あるクイズで、ルールの抜け穴を突いた解答者がいたら、後で人にすごい怒ったことがあるとおっしゃっていました。あくまでテレビ番組なんだからという紳士協定の部分ですよね。伊集院さんはそういうところもすごく意識されていて、そこも含めてプロだなと思いました。
■頑なにクイズ番組の勉強をしない宇治原
日高:伊集院さん以外ですごい人挙げるとすると、ロザンの宇治原(史規)さんですね。長く活躍されてきたからこそ見えてきたことなんですけど、あの方、頑なにクイズ番組の勉強をしないで素で臨むんですよ。それは、タレントが勉強しすぎちゃうと問題の難易度のインフレ化が進んで、視聴者が離れていくことがあるじゃないですか。宇治原さんは、もう10年前にそれを見抜いていて、楽屋周りで「1回漢字の勉強するのやめませんか」って提案されたこともあったんですよ。その代わり、台本はきっちり読み込んでくる。「ルールを本番で聞いてるようなやつは絶対あかんぞ」と若手に教えてらっしゃったことがあるくらいで、とにかく円滑にクイズ番組が回るように努力されているんです。それでも活躍されているんだからすごいし、「クイズ王」とか「京大卒」という肩書を除いても、「宇治原」っていう枠を確立された方なんじゃないかなと思います。イジられても面白いですしね(笑)
矢野:ちゃんとヒール役ができるから、すばらしいよね。