YouTube・サブスク動画配信サービスの台頭、視聴率指標の多様化、見逃し配信の定着、同時配信の開始、コロナ禍での制作体制――テレビを取り巻く環境が大きく変化する中、最前線にいる業界の“中の人”が語り合う連載【令和テレビ談義】

第3弾は、数多くのクイズ番組を手がけ、『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)でも話題となったクイズ作家の矢野了平氏と日高大介氏が登場。『今夜はナゾトレ』を手がけるモデレーターのフジテレビ・木月洋介氏を含めた3人で、「クイズ番組」についてとことん語り合うテレビ談義を、5回シリーズでお届けする。

第4回は、番組における“背骨”の重要性が話題に。矢野氏が担当する『オールスター感謝祭』(TBS、きょう9日18:30~)では、その視点に立って原点回帰が行われているという――。

  • 『オールスター感謝祭』MCの今田耕司(左)と島崎和歌子

    『オールスター感謝祭』MCの今田耕司(左)と島崎和歌子

■生放送は「このクイズ出したかったのに!」の連続

――前回お話があった日テレの4時間スペシャルのほかに、フジテレビだと『なるほど!ザ・春/秋の祭典スペシャル』、TBSだと『オールスター感謝祭』と、全盛期の“番組祭り”はクイズ番組がベースになっていましたよね。

木月:やっぱり、いろんな出演者の皆さんが参加しやすいというのがありますよね。

矢野:まず、ベースにクイズがあると、チーム戦=番組対抗という構図が作りやすいですよね。あと、出題するクイズも、イントロクイズとか、知識を問わない『マジカル頭脳パワー!!』(日本テレビ)みたいのだと、バカがバレない(笑)

木月:『オールスター感謝祭』ってクイズ以外にマラソン中継が名物ですけど、一時期だんだんクイズを減らしてイベント企画を増やそうってなってましたよね。

矢野:はい、僕はその過程を見てきましたけど、マラソンとかアーチェリーみたいなイベント企画は毎分視聴率がグッと上がるんですよ。そうすると、裏ではクイズが用意されてるんですけど、イベントの尺が長くなったりして、クイズが1ピリオドカットになるという生放送の決断がある。でも、ここ2~3年の方向性としては、イベント企画を大事にしつつ、ちゃんとクイズをやるということになっていますね。

木月:そもそもクイズは番組の“背骨”の部分ですからね。なくしちゃうと番組全体がブレてしまう部分。

日高:矢野は、今の『感謝祭』のクイズとイベントのバランスは、ちょうど良いところを割と保ってきてるなという感じなの?

矢野:3年前くらいが一番クイズの少なかった時代だと思うんですけど、そこからクイズをちゃんとやりましょうとなってきて、今はバランスが良い感じになったという感じですね。それと、この2~3年は昔よくやっていた「ひっかけ問題」をやめようという話になってたんです。それは、前回も話題になったクイズに求める公平さの部分ですよね。でも、今またそれを戻そうという動きになってます。それはやっぱり、『感謝祭』の遊び心というか、そこも“背骨”の1つだと思うので、今は多くの番組が公平感を重視しているからこそ、遊べるのが『感謝祭』しかないんじゃないかと。だから昔みたいなお遊びの問題を、この秋の『感謝祭』は増やそうと思ってます。

日高:そもそも5時間半の番組ですから、クイズをずっとやっててみんな楽しいのかっていうのが根本にありますもんね。テレビ番組として、よくマラソンということだけで、あれだけ長期間ドラマを続けているなと思いますよ。森脇健児さんのような大スターが生まれると、年に2回だからドキュメンタリー的な要素になるし。そうしたイベントとクイズのメリハリとか緩急で、すごく見やすい番組なんだろうなと思います。

木月:「まばたき我慢対決」がすごく話題になったり、ああいうヒットが定期的にあると、番組もリフレッシュされていくんでしょうね。

日高:チャンネルを回して思わず止まってしまうという企画はすごいですよね。でも、矢野的には「このクイズ出したかったのに!」の連続だったりするんでしょ?

矢野:もちろんもちろん。

木月:でも矢野さんはいっぱい番組やってるから、そのクイズを他の番組に持っていけるんじゃないですか?(笑)

矢野:いや、『感謝祭』の問題は持っていけませんよ(笑)。旬の問題が多いですし、やっぱり『感謝祭』のための問題ですから。

■別の番組でクイズが同時発射になることも

木月:矢野さんはほぼ全部のクイズ番組をやって、クイズの制空権を支配してますからね。

日高:陸・海・空やってますから(笑)

木月:「新クイズでこれやりたい」って言うと、「もうそれは他でやってますから」ってちゃんと仕切ってくれる。それでちゃんとクイズ界が保たれていくから素晴らしいんです。でも、矢野さんの支配下にないところがたまにあって、そこが被ったりすることもありますけど(笑)

矢野:全く同じのをやっちゃうと共倒れというか、両方損しちゃいますからね(笑)

日高:でも、全く関わってない番組とかと同じようなクイズが同時発射になってしまうこともありますからね。一方で、「そろそろあの番組は、流れ的にあれをやりそうだな」みたいな予感もあるから、分かったりするんですけど。それにしても、番組ってやっぱり生き物ですよね。その番組自身の事情だけじゃなくて、他の番組の流れがあるからこうやろうみたいなこともありますから。