レーシングカー並みの実力を備えたクルマに公道で乗れる。その行為が楽しいかどうかはさておき、そういう市販車は確かに存在する。ランボルギーニの「ウラカンSTO」(STO=スーパー・トロフェオ・オモロガータ)だ。何がスゴイのか、富士スピードウェイの本コースで走らせてきた。
レースの知見を落とし込んだ市販車
ウラカンSTOは公道で乗れるクルマだが、中身はほぼレーシングカーだ。ランボルギーニのレース部門「スクアドラ・コルセ」がワンメイクレースで使う「ウラカン スーパートロフェオ EVO」と、デイトナ24時間レース3連覇、セブリング12時間レース2連覇の実績を持つ「ウラカン GT3 EVO」という2台の純レーシングモデルからフィードバックした技術を凝縮したモデルとなる。
“ベビーランボ”の愛称がある「ウラカン」は、数あるスーパーカーのなかで最もなじみがあり、かつ好きなクルマだ。自然吸気の5.2リッターV10エンジンをミッドシップにマウントするウラカンは、V12を搭載する「アヴェンタドール」と比べてコンパクトで運転がしやすい。前方視界が良好なので、それほど身構えずにスーパーカー体験ができるのだ。
2014年に発売となったウラカンには、デビュー直後に富士の本コースで試乗したことがある。その翌年の冬には、米コロラド州の雪のサーキットで開催された「ウインター・アカデミア」に参加してドリフト走行などを体験。サンフランシスコでも公道を走った。後輪駆動の「LP580-2」はヘビーウェットの鈴鹿サーキットで乗ったし(怖かった……)、ハイパフォーマンスモデル「EVO」は富士だけでなく、本国イタリアで北アルプスのアイスバーン(!)まで攻めたことがある。
そんなウラカンではあるけれども、今回のモデルはこれまでとはちょっと違って手強そうだ。最初に述べたように、なにせ出自がレーシングモデル。まず、何が違うのか確認しておきたい。
ノーマル「ウラカン」とはここが違う!
フロント部はボンネット、フェンダー、バンパーをひとつのコンポーネントとして一体化した「コファンゴ」と呼ぶ軽量化設計を採用。伝説的なモデル「ミウラ」にヒントを得たこのパーツには、ノーマルモデルにはないエアダクトやルーバー、スプリッターを設け、ダウンフォース、ドラッグ、クーリングの最適化を図っている。
リアには、ドラッグを低減するとともにダウンフォースを高めるための装備であるエアスクープに加え、セントラルシャークフィン、エアスクープ付きエンジンボンネットなどを新設定。大型のダブルプロファイルリアウイングで武装してある。こちらはサーキットの特性に合わせて手動で角度が簡単に調節できる仕掛け(3段階)で、LOWでは324kg、MIDでは363kg、HIGHでは420kgものダウンフォースを獲得できる。結果として、後輪駆動車として最高の空力バランスとコーナリング性能が実現できたそうだ。
エクステリアでは外装パネルの75%以上をカーボンファイバーとした。ウインドスクリーンは従来型より20%軽くて薄い。ホイールはアルミより軽いマグネシウム製を採用している。インテリアではカーボン製のスポーツシートやフロアマット、ドア開閉のための簡易な赤いラッチなどを使用。その結果、ボディ重量は軽量化モデルである現行「ウラカン・ペルフォルマンテ」より43kgも軽い1,339kgとなっている。
ボディサイズは全長4,547mm、全幅1,945mm、全高1,220mmで、ホイールベースは2,620mm。ドライバーの背後に搭載する排気量5,204ccの自然吸気90度V10エンジンは、最高出力640PS/8,000rpm、最大トルク565Nm/6,500rpmを発生する。7速LDFデュアルクラッチトランスミッションで後輪を駆動し、0-100km/h加速3.0秒、0-200km/h加速9.0秒、最高速度310km/hというパフォーマンスを発揮する。
「STOモード」と「Trofeoモード」を体験!
ほぼレーシングカーといえるSTOを富士の本コースで走らせるに際して、筆者は個人で所有するレース用のヘルメット、スーツ、グラブ、シューズを身にまとって臨むことにした。乗ったのは、ホワイトのボディに水色のラインが入った美しいウラカンSTOだった。このほか、会場には水色×オレンジ、グリーン×レッド、エンジ×シルバー、ダークグレー×イエローなど、さまざまなカラーのボディが準備されていた。
低い位置に設定されたドライビングシートは手動で調整する。電動だと重くなるからだ。フルフェイスヘルメットで手元が見えなかったので、4点式シートベルトはスタッフにお願いして装着してもらった。ウインドースクリーンが薄いガラスであるため、左右の端が少し歪んで見える。このあたりからも、レーシングモデルらしい雰囲気がしっかりと伝わってくる。
試乗は先導車(インストラクターがドライブするペルフォルマンテ)の後に2台のSTOが続く形で4周×2回を走り、最後にSTOに乗り換えた先導車に1台のSTOが続く「1on1」を行うという方式だ。
スタート前のインストラクションでは「ESC(横すべり防止装置)は絶対にオフにしないこと」とのお達しが。薄いガラスを使用しているため、車内カメラの装着は不可との断りもあった。
ブレーキを踏みつつ、戦闘機のトリガーにも似た例のスターターボタンでV10エンジンに火を入れ、巨大な右側パドルシフトを手前に引いて1速に入れてスタートを待つ。心臓がちょっとドキドキする。ステアリングにある「ANIMA」(ドライブモードスイッチ)で、まずは「STOモード」を選んでコースイン。すぐにわかったのは、ボディの軽さと硬さだ。
「おっ、これまでのウラカンとは全く違う」と頭の中でつぶやきながら、先導車を追う。このモードでは、車速が上がり始めると勝手にシフトアップしてしまうことを忘れていたので、ちょっと焦る。センターコンソールの「M」ボタンを押し、マニュアルモードになったことを確認すると落ち着きを取り戻し、コース後半部分へ。上りの複合コーナー部分をクリアする際、アンダーを出さずに鼻先が出口に向かっていってくれたときには、「後輪駆動だからという理由だけでなく、RWS(後輪操舵)も効いているのかな」などと思いながら最終コーナーに突入した。
ここからはアクセルを床まで踏み込み、全開加速を試す。レッドゾーンまで回るV10エンジンのサウンドと、空気を切り裂くような巨大な風切り音を楽しみつつ270km/hほどでストレートを通過した。
2回目のスティントでは「Trofeoモード」を試してみた。ピットスタート直後の周回では、リアが「ピッ、ピッ」という感覚で振り出しそうになる(その都度、心臓がノドから飛び出しそうになる)のに、後半になるとコーナーでのGがグッと増し、路面のうねりはもちろんのこと、落ちているタイヤカスを踏んだときの手応えや感覚までステアリングを通して直に伝わってくるようになる。市販モデルでの走行中にこんな変化が味わえたのは初めてだ。
ホームストレートの通過速度は275km/hに達し、3度目の最終回では282km/hが確認できた。確かEVO(四輪駆動モデル)で試したとき、同じ場所で283km/hまで出したことは覚えているのだが、その際の加速感は空気抵抗があまりなく、スーッとスピードが伸びていった印象だった。今回のSTOはEVOと違い、空気が車体を路面に力強く押し付けている感じがあった。フロントのコファンゴや大きなリアウイングが、後輪駆動モデルを安定して走らせるために巨大なダウンフォースを発生させている証拠なのだろう。
一方の減速では、周回の後半に差し掛かってもブレーキシステムが安定した性能を発揮してくれた。F1の技術を踏襲したというブレンボ社のカーボンファイバー製CCM-Rディスクを使用しているというから、納得だ。
合計10周を無事走り終えたジャーナリストたちの顔は皆、満足げだった。3,750万円というプライスタグはなかなかのものだが、公道とサーキットの両方でこの性能を楽しむことができるのだから、何も文句はあるまい。