人生を大きく変えたのが「M-1グランプリの優勝」だというが、さらにそれをきっかけにネタも変化していったと口を揃える。

井上は「先ほど石田が『求めなくなった』と言いましたが、ネタに関しては僕も求めなくなったというか。M-1で優勝できたことによって、大会向けのネタをやらなくていいようになったわけです。石田が作った台本を見て『これはウケへんやろうな』と思っても、昔なら『直そうぜ』と言いましたが、今は言いません。石田がやりたいことをやろう、という感覚です」とネタ作りを担う石田に全幅の信頼を寄せる。石田も「確かに自由になりましたね」とうなずき、「今は、自分が面白いと思うことをやればいいと思っています。M-1を優勝するまでは、なかなかそれができなかった。ポイント制の空手をしっかりやる、という感じ。今は自分の殴りたいやり方でいい」と充実の時を迎えている。

お互いに年齢的にも40代に突入した。今後の目標を聞いてみると、井上は「今、目標を見失っている。探している最中です」と打ち明ける。「新しい笑いが生まれる時代に突入した」と思いつつも、葛藤も抱えているという。

「コロナ禍になるまでは、この先もライブにお客さんが来てくれるだろうと思っていましたが、それが全部崩れてしまったような気がしています。テレビ収録でも頑張って、現場で結果を残していれば、ある程度は付いてきてくれる人がいると思っていました。お笑いが好き、人としゃべるのが好きというのは変わりませんが、テレビ収録もお客さんの観覧ができなくなったり、無観客ライブや、一定数しかお客さんを入れられないライブだと、お笑いの正誤判定がしにくいというのも悩みどころです。YouTubeもやっていますが、再生数やコメントを見るだけではわからないことがある。やっぱりお笑いって、目の前のお客さんが笑ってくれるかどうかで、やっていることが正解か不正解かがわかるもの。自分がやっているお笑いが正しいのか、わからなくなるときがあります」

石田は「僕はもう、生のリアクションを信じるだけです」と力を込める。「8月まで古田新太さんたちと一緒に舞台をやっていたんですが(『ミュージカル「衛生」~リズム&バキューム~』)、やっぱりお客さんはエンタメを求めているんだなと実感しました。こういう状況下でも、エンタメを楽しみたい人は確実にいる。それならばそういった人たちを楽しませることをやるしかない。僕がやることは変わらないと思っています」と話していた。

■NON STYLE
石田明と井上裕介の2人によるお笑いコンビ。2000年5月に結成。2005年に上方お笑い大賞第25回最優秀新人賞、2006年NHK新人演芸大賞演芸部門大賞を受賞したほか、数々の賞を受ける。2008年に東京進出し、同年のM-1グランプリで優勝。2010年には、S-1バトルの初代グランドチャンピオンとなる。