9月に入った途端に気温がグッと下がり、急に空は秋模様を呈してきました。

夏の終わりとはいつもどこか切なく、寂しいもの。夕焼けを眺めながら、つい「ああ、今年も夏が過ぎ去っちまうなぁ〜」と、たそがれてしまいそうです。そうそう、ちょうどこんな風景の中で……。

駄菓子屋の向こう側で沈みゆく太陽。風情溢れる晩夏の夕暮れに見えますが……実はこれ、ジオラマなんです。

作者はツイ主の「情景師アラーキー/荒木さとし(@arakichi1969)」さん。著書に『凄い! ジオラマ[改]』(誠文堂新光社)や『作る! 超リアルなジオラマ』(誠文堂新光社)などを持つ、プロのジオラマ作家です。

この凄まじくリアルなジオラマはツイッター上でも大反響を呼び、4.5万件のリツイー、15万件のいいねを獲得(9月3日時点)。感動の声もたくさん寄せられています。

「遠くでヒグラシが鳴き始める『おばちゃぁ〜ん、キンキンに冷えたラムネちょうだぁ〜い♬』と言いたくなる風景」

「ありましたねー! こういう冷蔵庫。栓抜きがぶら下がってるのとか、冷蔵庫に栓抜きがくっついてるのとか。お店のおばちゃんやおっちゃんが優しくて気っ風が良くて。懐かしくて嬉しくなりました」

「ジオラマは、100円機で、80年代初期型ですね。昭和レトロガチャガチャコレクション! 」

「小さい頃、実家の外にアイスのストッカーを置いていたなぁと懐かしく拝見していました」

多くのツイッターユーザーたちをノスタルジックな気分にさせたジオラマ写真。あまりに精巧なつくりには驚きを禁じえませんが、どうやってこんなハイクオリティなジオラマが出来上がるのか、荒木さんご本人にお話をお聞きしました。

ーーとてもリアルですが、参考にされた駄菓子屋さんなどはあるのでしょうか?

今までジオラマに関する本を4冊執筆しておりまして、予てから作りたいと思っていた駄菓子屋を作り、その作り方を解説する本のために制作したのがこの駄菓子屋です。制作するにあたり、いくつか都内の駄菓子屋を取材してヒントにしましたが、自分の中の理想的な駄菓子屋を作ることにしました。建物は大好きな映画『ALWAYS三丁目の夕日』に登場する「鈴木オート」を参考にしてアレンジしています。

ーージオラマをリアルに作るコツなどはありますか?

リアルさは、基本工作の正しさにあると思います。模型ならではの素材の厚みや質感をより正確に縮小し、工作の荒さが出ないようにすることが最初の一歩です。次に質感。それぞれの素材の表面の質感を模型用の塗装で再現しますが、立体のキャンバスに絵を描くようにして、それぞれの質感を塗装で再現します。

ーー制作期間はだいたいどのくらいでしょうか?

難しい質問です。通常の制作は依頼があって制作するものなので非常に短期間で効率よく制作しますが、書籍用のジオラマなので途中で作業を止めながら撮影を進めて、どのように紙面に載せるかを編集しながら制作しました。頻発したのが、制作途中写真が美しくなかったので撮り直すために完成した部品をもう一度最初から作り直して撮影を進めたりしたこと。ゆえに1年ほどかかりました。

ーージオラマ作家になろうと思ったきっかけは何でしょうか?

5年前にジオラマ作家として独立しましたが、それまでは東芝で家電製品のデザイナーをしていました。デザインの仕事はやりがいがありましたが次第にパソコンでデザインするようになり、手を動かしてのもの作りから外れていったことがとてもストレスになり、手を動かす感覚を鍛えるためにも趣味のジオラマ作りを本格的に始めました。それが面白くなり、名前も覚えてもらい、仕事がもらえるようになったことから独立することにしました。

ーー普段からジオラマを作る際に心がけていることを教えていただければと思います。

ジオラマ作りの心がけは、「そこに人の営みが感じられるように作ること」です。汚れやちょっとした傷などは生活していくと必ずつくものです。それぞれにはそうなった理由がありますので、しっかりとその歴史や経過時間を加味することに注意します。そうするとリアルな質感や汚れを演出することができます。

ーー今回のツイートが大きな反響を生んでいるかと思います。率直なご感想などはございますか?

ツイートの反響は素直に嬉しいですが、ここまで反響があるとかえって人ごとのように思えるんだなぁと感じました。浮かれることもなく、みんな楽しんでくれたようで、自分の生み出したものが喜ばれていることは嬉しいことです。


ちなみに、荒木さんのジオラマ作品はこちらの本でもさらに楽しめます。気になった方はぜひチェックしてみては?