日本における男性の育児休業は近年推奨はされているものの、実際に取得する人の数は低迷しています。
今回は男性の育児休業取得に関する現状や、取得可能期間、取得を促すために令和4年4月に改正された改正育児・介護休業法の内容、育児休業取得中の給与などについてわかりやすく解説します。
育児休業とは
育児休業とは、子どもが1歳に達するまで休みを取得できる制度です。「保育園に申し込みをしているけれども入所できない」といった一定の要件を満たせば、最長で2歳まで延長できます。
これとは別に、父母ともに育児休業を取得すると子どもが1歳2カ月になるまで延長して休業を取得できる「パパ・ママ育休プラス」という制度もあります。
男性はいつから育児休業を取得できる?
男性は出産予定日から育児休業を取得することができます。実際の出産が出産予定日より遅れた場合は、1歳まで育児休業を取得するとなると、厳密には1年より何日か長く取得できることになります。
企業側はすでに育児休業に入る男性に取って代わる人員や担当業務の分担といった手配を終えているため、たとえ子どもが生まれていなくても予定通り取得できるのです。
我が子と一緒の時間を長く持ちたいという男性にとっては、この1年+アルファの恩恵はありがたいことでしょう。もちろん、配偶者の女性にとっても育児の負担が減るわけですから、夫婦そろってメリットがあると言えそうです。
ただし、会社での予定によっては育児休業開始日を希望どおりに進めることが難しいこともあるため、育休取得予定が前倒しになった場合のスケジュールに備えた管理をしておくことをおすすめします。
男性の平均育休取得率
公益財団法人 日本生産性本部「2017年度 新入社員 秋の意識調査」によると、2017年の男性新入社員のうち、79.5%が育児休業を取得したいと回答したそうです。「男性でも育児休業を取得できる」という意識が社会に浸透・認知されていることがうかがえます。
男性新入社員の8割程度が育児休業を希望しているというデータがある一方で、厚生労働省「男性の育児休業の取得状況と取得促進のための取組について」によると、平成30年における育児休業の取得率は女性が82.2%であるのに対し、男性はわずか6.16%にとどまっています。
10年前の平成20年(1.23%)に比べると5ポイントほど増加していますが、それでも女性の約13分の1です。男性の育児休業取得における理想と現実の乖離がみられます。
男性の平均育休取得期間
また、厚生労働省の別の調査によると、平成30年10月1日から令和元年9月30日までの1年間に配偶者が出産した男性のうち、令和2年10月1日までに育児休業を取得した人の割合は12.65%だったそうです。そのうち、28.33%の男性の育休期間は5日未満でした。
つまり、育休を取得する男性はおよそ8人に1人であり、取得した男性の4人に1人が育休期間が5日未満にとどまっているということです。「男性の育休取得」という文化が浸透していないことがうかがえる数字と言えるのではないでしょうか。
改正育児・介護休業法(2022年4月)の内容
このような現状を鑑み、厚生労働省は育児・介護休業法を2022年4月に改正。労働力の維持という観点から出産後も退職することなく働き続ける女性を増やすため、男性の育休取得を促す内容などを盛り込みました。
具体的な内容は
- 「出生時育児休業(産後パパ育休)」制度の新設(労働者向け)
- 育児休業の分割取得(労働者向け)
- 育児休業を取得しやすい雇用環境整備の義務化(雇用主向け)
- 育児休業取得率の公表を義務化(雇用主向け)
などがあげられます。それぞれ詳しくみていきましょう。
「出生時育児休業(産後パパ育休)」制度の新設
「出生時育児休業(産後パパ育休)」とは、子どもが生まれた直後の一定の期間内に取得可能な育休であり、働く男性一人ひとりの状況にあわせ柔軟に取得できるというメリットがあります。
男性向けの出生時育児休業(産後パパ育休)の取得可能期間
出生時育児休業(産後パパ育休)は子どもが生まれてから8週間以内に合計4週間分取得できます。
男性向けの出生時育児休業(産後パパ育休)は分割取得可能
その4週間も連続している必要はなく、2回まで分割可能です。つまり、出生翌日から2週間育休を取った後に1週間復職し、その後また2週間育休を取る――といった使い方も可能です。
男性向けの出生時育児休業(産後パパ育休)はいつから施行される?
出生時育児休業(産後パパ育休)は2022年10月1日に施行予定です。その際、休業の申し出期限は、通常の育休よりも短い「原則休業の2週間前まで」です。何らかの理由で急遽男性が育休を取得しないといけなくなった場合においても、休業の申請がしやすくなっています。そのほか、特定の条件下において休業中に就業することも可能です。
以下に育児・介護休業法の改正前後の制度の概要をまとめました。
育休制度(現行) | 育休制度(令和4年10月1日以降) | 産後パパ育休(育休とは別に取得可能: 令和4年10月1日以降) | |
---|---|---|---|
取得可能日数 | 原則として子どもが1歳(最長2歳)まで | 原則として子どもが1歳(最長2歳)まで | 子の出生後8週間以内に4週間まで取得可能 |
申し出期限 | 原則として1カ月前まで | 原則として1カ月前まで | 原則として休業の2週間前まで |
分割取得の可否 | 原則として分割不可 | 分割して2回取得可能(取得の際にそれぞれ申し出が必要) | 分割して2回取得可能(最初にまとめて申し出ることが必要) |
休業中就業の可否 | 原則として就業不可 | 原則として就業不可 | 労使協定を締結している場合に限り、労働者が合意した範囲で休業中に就業することが可能 |
1歳以降の延長 | 育休開始日は1歳、1歳半の時点に限定 | 育休開始日を柔軟化 | 対象外 |
1歳以降の再取得 | 再取得不可 | 特別な事情がある場合に限り、再取得可能 | 対象外 |
育児休業を取得しやすい雇用環境整備の義務化とは
社員から育児休業と産後パパ育休の申請が円滑に行われるようにするため、会社側は以下のいずれかの措置を講じることが令和4年4月1日より義務付けられました。
- 育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施
- 育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備(相談窓口設置など)
- 自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供
- 自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
育児休業取得率の公表を義務化とは
従業員が1,000人以上いる企業に対し、育休取得の状況を年1回公表することが令和5年4月1日より義務付けられます。公表内容は「男性の育児休業などの取得率」「男性の育児休業などと育児目的休暇の取得率」のいずれかです。
ネット上に情報を公開し、社員はもちろん社員以外の一般人が確認できる状態が求められます。
「男性の育休義務化」は間違い
2022年4月に改正された育児・介護休業法は、男性に育休を促す産後パパ育休制度の新設と、産後パパ育休制度などを申請しやすくするための雇用環境整備の義務化が盛り込まれました。
これらの内容から「男性の育休」「義務化」というキーワードが独り歩きし、「男性の育休取得が義務付けられた」というふうに認識・理解してしまっている人もいるかもしれません。
ただ、上述のようにこの解釈は間違いです。今回の法改正は、男性労働者に育休取得を義務づけているのではなく、企業側に従業員の育休取得を促すことを義務づけているのです。
男性の育児休業中の給料
育児休業取得中の給料は、企業のルールによって異なります。通常の給料の何割かを支払う企業もあれば、給料が支払われない企業もあるため、自分の勤めている企業の給与体制はあらかじめ調べておきましょう。
しかし、企業から給料が支払われなかったとしても、雇用保険や健康保険から給料の約5~7割にあたる育児休業給付金(育休手当)が支払われるため、過度に心配する必要はないでしょう。また、育児休業期間中は社会保険料が免除されることも大きなメリットと言えます。
申請してから振り込まれる日は企業ごとに異なるため、お金の具体的な振込期日は企業に問い合わせておくと安心です。
育児休業に必要な手続き
育児休業の申請方法は、男性も女性も同じです。育児休業を申請する際に提出を求められる資料は以下のとおりです。
(1)母子手帳のコピー
(2)通帳のコピーまたはキャッシュカード(銀行から受け取れる確認印でも可)
(3)受給資格確認票の「申請者氏名」欄の記名
(4)雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書2枚目の右上部「休業を開始した者」欄の記名
初回時の育児休業給付受給資格確認票と、育児休業給付金支給申請書は事業所の所在地を管轄しているハローワークから交付されるため、あらかじめ手順を確認しておくとスムーズです。
男性の育児休業取得のメリット
男性が育児期休暇を取ることのメリットは数多くあります。一つずつみていきましょう。
子育ての負担を軽減できる
物理的に子育てをする人が2人になるため、配偶者の育児負担を減らせます。ワンオペ育児が心身ともに負担になっている女性からすれば、子どものケアをしてくれる大人がもう1人いるだけでだいぶ心の持ちようが変わってくるでしょう。
夫婦関係が良好になりやすい
男性が育児休業を取得することで、夫婦関係が良好になりやすい傾向にあります。女性は出産をきっかけとして、一日の大半を子どもとの時間に充てることになります。
男性が積極的な育児サポートをすれば、子どもがいなかったときとは違う信頼関係が生まれるようになるため、夫婦関係が良好になると言われています。
仕事に経験が生かせる
男性が育児休業を取ることで、普段仕事で忙しかった環境から少し離れた視点で仕事のことを考えられるようになるケースがあります。子育て中に得られた知見が自身の仕事につながる可能性もあるでしょう。
「現在攻略中のクライアントに、今回の経験を踏まえた視点で提案してみよう」「開発中の新商品、働くパパやママの意見をもとに●●といった改良を加えたらもっとよくなるかも……」など、子育ての経験が仕事に対してプラスに働く可能性があります。
男性が育児休業を円滑に取得するためのポイント
育児休業を取得する権利はあっても、実際に取得するとなると周りの目が気になったり、業務が滞ってしまう心配をしてしまったりする可能性はあるはずです。
以下では男性の育児休業を円滑に取得するためのポイントをご紹介しますので、ぜひ役立ててみてください。
(1)職場の同僚や上司と良好な関係を築く
職場の同僚や上司と良好な関係を築くことのメリットは「育児休業を後押ししてくれる」という点にあります。育児休業取得の権利があるのはもちろんですが、取得するのなら理解してくれている人が近くにいると安心できるものですよね。
無理に同僚や上司と良好な関係を築く必要はありませんが、少しでも気持ちよく育児休業を取得するのであれば、身近な人との関係をよくしておくことは大切です。
(2)入念な引き継ぎをきちんと行う
育児休業に入る前にきちんと業務の引き継ぎを行っておけば、自分が休暇中でも会社の業務は滞りなく進めることができます。
業務を中途半端にしておくことや、必要な引き継ぎを行っていなければ、会社に大きな迷惑がかかります。後任者が余裕をもって引継ぎ作業に当たれるよう、育児休業に入る前に余裕をもって準備しておくようにしておきましょう。
(3)会社の理解も重要
育児休業を取得する側のマインドも重要ですが、育児休業に対して「会社の理解があること」も大切なポイントです。育児休業の取得は男女関係なく権利のあるものであり、子を育てるのは母親ひとりでは決して簡単なことではありません。
男性の育児休業取得は会社の理解や後押しが必要になるため、育児休業を希望しやすい環境づくりをする努力を一人ひとりが行うことが大切です。
男性の育児休業が促進できるような仕組み作りが大切
今回は、男性の育児休業についてご紹介しました。日本の現状では、育児休業を取得したいと希望する数に対して、実際に取得する人はかなり少ない傾向にあります。
男性の育児休業は夫婦関係が良好になりやすくなることや、仕事への意欲が上がるなどのメリットも多いと言われています。
育休を取りやすい環境を作っておくことや、会社の理解がより育休が取りやすくなるため、育児休業のことを理解し、育児休業を希望する人が無理なく取得できる環境を作れるような仕組みづくりが大切です。