新型コロナウイルスの感染拡大により、リモートワークが浸透した。こうした流れに応じて、オンラインで副業を始める人が増えている。本業を持ちながらも、複数の会社でパラレルキャリアを歩む人たちは、今まさに生き生きと新たな働き方を始めている。

本稿では、地方企業に特化した副業・兼業人材紹介を手がけるJOINSの代表取締役 猪尾愛隆氏より、オンライン副業の働き方について解説してもらう。

  • 副業をオンラインで実施する人が増えている?

コロナ禍で「オンライン副業」のニーズは増加

コロナ禍で、オンライン副業を始める人が増えている。オンライン副業とは、副業を解禁している企業に勤める会社員が、他の企業と業務委託契約を直接結び、リモートワークで業務を進める新しい働き方だ。

リモートワークが浸透したことで、通勤や会食の時間が減り、新たにオンライン副業を始めたという人も多い。筆者が代表を務める、地方の中小企業と都市部の副業人材をつなぐマッチングサービス「JOINS(ジョインズ)」への累計登録者数は8,387人と、前年同月比で約4倍に急増している。

  • 副業会員数の伸び率グラフ(1年で約4倍、コロナで在宅勤務者の登録が加速) 提供:JOINS

副業の業務内容で需要が高いのは「ECサイト改善」で「SNS集客」「デジタルツール導入による業務効率化」が続く。こうしたニーズが高まっている背景には、コロナ禍で実店舗での売り上げが低下したため、販売やコミュニケーションのチャネルを、対面からオンラインやECに切り替えていることがある。

またテレワークを社内で広げるためツール導入など、業務へのデジタル化に向けて、副業人材の力を借りたいという企業側の思いが汲み取れる。

特に地方の中小企業では、デジタル関連の業務に課題を感じている経営者が少なくない。こうした課題を解決するために、デジタルスキルが高い副業人材が必要とされている。

当社の場合は副業人材に支払う報酬は1社あたり平均月10万円程度であることが多い。複数の企業で副業した場合は、月に数十万円を稼ぐことも可能だ。

  • リモート副業の案件紹介ページ 提供:JOINS

WEBページ作成からコーチングまで「ハイブリッドサラリーマン」の1週間

都内の外資系コンサルティングファームに勤める30代の鈴木裕二さん(仮名)は、2018年から副業を始めた。現在は地方の中小企業を中心に3~4社で副業をしており、副業だけで月平均40万円の報酬を得ている。

本業は国内外のクライアントへのコンサルタント業務だが、副業で担う業務は、DX(デジタルトランスフォーメーション)の導入や就職活動の支援、コーチング、エンジニアとしてWEBページの作成など、多岐にわたる。自身を「ハイブリッドサラリーマン」と呼ぶ。

鈴木さんが副業を始めた理由は、交通事故にあい、生死の境をさまようような大けがを負ったこと。初めて死と隣り合わせになり、それまでは自分が成長することばかりを考えてきたが、「自分の力を社会に還元したい」というマインドに変わったという。

  • 鈴木さんの1週間のスケジュール 提供:JOINS

そんな鈴木さんに1週間の過ごし方を聞いてみると、複数の企業で副業をする上で、幾つかのポイントが見えてきた。

今回、寄稿にあたって本人から1週間のスケジュールを提供してもらった。現在、副業している、もしくは副業に興味があるという人はぜひ参考にしてほしい。

「最も重要だと考えているのは、それぞれのクライアントに対して、期待値を調整しておくことです」と説明する鈴木さんは、本業の同僚や副業先の担当者に対して、今携わっている仕事をすべて伝えることにしているそうだ。

本業があることや、複数の企業で副業していることは隠さない。そうすることで、自分に対するクライアントからの期待値と、実際に提供できる仕事のパフォーマンスに「ズレ」がなくなるのだと言う。また、事前にそれぞれの優先度を自らきちんと設定しているとも話す。

さらに大切にしているのは、週に1度は「何もしない時間」を確保しておくことだ。睡眠時間はできるだけ7時間はとるように心がけ、土日も基本的には休む。

多忙なはずなのになぜ、このようなことが可能なのか鈴木さんに尋ねると、「日中は無駄がないように動くことを心がけています。例えば、ミーティングをする際には、必ず10分前に終わるようにしています。つい会議って、時間ギリギリまでかかってしまい、10~15分延びたりするので、そうなるとスケジュールが回らなくなってしまいますから」と答えてくれた。

こうした独自ルールは、副業先の企業にも好評で、中には実際に取り入れて実践している企業もあるという。クライアントにとっても、業務以外で副業人材がもたらした効果が出ているといえる。

「副業」をすることで広い視野が持てる

  • 実際にZoomを使ってリモート副業している人材 提供:JOINS

ただ、課題がないわけではない。コロナ禍で本業も在宅勤務となって通勤時間がなくなった分、副業できる時間は増えたものの、すべてがリモートで行われるがゆえに、本業と副業、そして仕事とプライベートとの境界線がそれぞれあいまいになってしまい、労務時間の管理が非常に難しいという側面もある。

鈴木さんに両立の難しさについて聞いてみると、「仕事が好きで副業もやっているくらいなので、つい働きすぎてしまうことはよくあります。だからこそ、月に1回、2時間は全てのデバイスの電源を切ってA4の紙1枚とペンだけ持って、この1ケ月のことを振り返るようにしています。いわゆる『デジタルデトックス』をすることで、自分の状態がより分かるので、調整ができているのでしょう」と話してくれた。

副業することのメリットについて、「会社員だけではなく、広い視点が持てること」だと鈴木さんは指摘する。

副業先では、経営者と直接やりとりをすることも多く、経営者の視点に初めて触れたそうだ。経営者がどんなことに悩んでいるのか、人材の確保の仕方など、会社員という立場では気付けなかったことも多いという。

そして最後に、「実は、『副業』という言葉はクライアントに対しては絶対に使わないんです」と話してくれた。頭の中で「これが本業」、「これが副業」と決めることはしていないと、鈴木さんは明かす。

「すべての仕事に対してフルコミットしているつもりで、私にはすべて同列だと考えています。『副』とか『サブ』という言い方は、相手に対して非常に失礼だと思うんです」。そう語る表情が、印象的だった。

誰もが鈴木さんのように月に何十万円も副業で稼げるわけではないだろう。ただ、鈴木さんの副業への姿勢は、パラレルキャリアを歩む人たちにとっての道標となるのではないだろうか。

著者プロフィール:猪尾愛隆(いのお・よしたか)

JOINS代表取締役
1977年、東京都生まれ。2002年慶應義塾大学大学院修士課程修了。博報堂に入社し、法人営業を3年間経験。2005年クラウドファンディングのスタートアップに入社。事業立ち上げ・運営に12年間従事。2017年6月に退職し、大都市の副業人材と地域中小企業をつなぐ人材シェアリングサービスを提供する「JOINS」を創業。