漫画雑誌『モーニング』にて連載された同名コミックを、ヒロインをドラマ『義母と娘のブルース』の上白石萌歌、相手役にドラマ『ドラゴン桜』の細田佳央太を迎えて、『横道世之介』の沖田修一監督が映画化した青春ムービー『子供はわかってあげない』が公開となった。

細田演じる書道部男子・もじくんの、探偵業をしている(?)兄の明ちゃんを演じたのは、近年では音楽番組のMCも務めるなど、活躍の場を広げる俳優・千葉雄大。沖田監督とは『モヒカン故郷に帰る』(16年)でも組んだ仲だ。沖田監督、千葉のふたりに、本作を振り返ってもらった。再タッグについて話すうち、かつて沖田監督が酔っぱらって千葉に「オレの作品に出ろ!」と言い放ったというエピソードも登場した。

  • 映画『子供はわかってあげない』の沖田修一監督、千葉雄大

    左から沖田修一監督、千葉雄大 撮影:望月ふみ

■『モヒカン故郷に帰る』以来のタッグ

――沖田監督と千葉さんは『モヒカン故郷に帰る』以来のお仕事ですが、今回、もじくんのお兄ちゃんである明ちゃんをなぜ千葉さんにお願いしたのですか?

沖田:『モヒカン~』に出てもらって、一緒に仕事をしてとても楽しかったこともあり、また一緒に仕事をしたいと思っていたところ、明ちゃんを千葉くんがやったら面白いんじゃないかと浮かびまして。迷いなく声をかけました。外見ですとか、すごく女性に寄せているわけでもないのに、「お兄ちゃんなんだけど見た目は女の人」という結構難しい役なのですが、千葉くんのもともと持っている柔らかさがうまく出たお兄ちゃんになってくれたと思います。

――千葉さんは今回の出演に際して何を思いましたか?

千葉:『モヒカン~』に出させていただく前から沖田監督の作品はすごく好きで拝見していました。それが『モヒカン~』に出させていただいて、また今回、呼んでいただけた。すごく嬉しかったです。明ちゃんのような役は結構デフォルメされることもありますが、脚本を読んで、自然な感じで描かれていていいなと思いましたし、作品の世界観に溶け込めればいいなと思いました。実際に演じるとなると難しかったですが、自分でバランスを考えつつ、やりすぎると監督がおっしゃってくださるので、安心してできましたし、最初のシーンで、監督が「ぽい」とおっしゃってくださったので嬉しかったです。

――また新たな作品でも呼んでください! という感じですか?

千葉:そんなおこがましい。ただ、何かこの役を僕にやってもらいたいと思ってもらえるなら、それはすごく嬉しいです。

沖田:昔、酔っぱらって「オレの作品に出ろ!」みたいなことを言っちゃったことがあるよね。

千葉:『モヒカン~』のときですね。

沖田:いまだかつて、そんなことをしたことはないのですが、舞台挨拶で地方に行ったときに、酔っぱらって「オレの作品に出ろ。オレに任せとけ!」みたいなことを言ったみたいで……。実は全く記憶がなくて。あとで聞いて千葉くんにもう会えないと思うくらい恥ずかしくて、後ろめたい気持ちでいたんです。それで今回久しぶりに会ったときに「あのときのこと、覚えてる?」と聞いたら、「もちろん。それで呼んでいただいたのかと思ってました」って(苦笑)

千葉:結構、忘れないタイプなので(笑)

■兄弟役を演じた細田佳央太のことは、好きになれたことが大きかった

――本作は2019年の撮影ですから、ドラマ『小さな神たちの祭り』とあわせて、千葉さんは細田さんと、同年に2作で兄弟役を演じられたことになりますね。

千葉:そうなんです。こちらの撮影が先で、そのあと夏の終わりくらいに『小さな神たちの祭り』を撮りました。世に出る順番は逆になりましたが。

――細田さんとはどんなコミュニケーションを?

千葉:別に先輩としてふるまうなんてこともできないので、撮影の合間とかに、たとえばプールサイドのシーンなどで、「普段は何してるの?」「暑いねぇ」「こういう風に撮影するんだねぇ」とか、普通に話してました。

沖田:あはは。優しい。

千葉:言い方が難しいですけど、細田くんくらいの年代の子って、ギラギラしてる人も多いと思うのですが、そういうのがあまりなくて、すごく自然な子だなと、「好きだな」と思いました。兄弟役を演じるうえで何かあえてしたというより、好きになれたのが一番大きかったです。

■上白石へのヒントにと、監督自ら泣いている姿を自撮り

――序盤のシーンで、美波が、劇中アニメの『魔法左官少女バッファローKOTEKO』を観て感動して泣いています。そこの演出として、監督自身が映画を観て号泣している姿を自分で撮った動画を、上白石さんに渡したと聞きました。「感動して泣いているというのはこういうことだ」と。

千葉:えー! 観たい。

沖田:まだ残ってますよ(笑)。たまたま『ブリグズビー・ベア』という映画を観ていて、まさか泣くとは思っていなかったんですけど、最後めちゃくちゃ感動しちゃって、久しぶりにボロ泣きしまして。「あ、これ今、撮らなきゃ!」と。

――ええ!

沖田:すごく感動してるんですけど、感動している自分と意識が分断している自分もいて、片手でスマホを持ってRECを押してました。上白石さんへのヒントとして「何かを観て泣いている姿のリアルが撮れる!」と思って撮影したんです。それで上白石さんに最初に会ったときに、「これ」と見せたら、爆笑してました。

千葉:あはは! すごいけど面白いです。

――千葉さんが演じた明ちゃんも涙もろい役ですが、千葉さんが、自分でも引くくらいに泣いた映画などはありますか?

千葉:僕、『レ・ミゼラブル』が大好きなんです。映画も好きですが、舞台が特に好きで、毎回泣きます。今年も行ってマスクびちょびちょにしながら号泣しました。何年も観ていると感動するところが変わってきて、ファンテーヌに思いを馳せて泣いているときもあったんですが、今回はジャベールになって泣きました。

■千葉が「ゆう」から「オレ」に変わった瞬間

――千葉さんに質問です。本編でもじくんが「僕からオレに変わる瞬間」があります。千葉さんが僕からオレに変わった瞬間、大人になったと感じたときを覚えていますか?

千葉:僕、子どものころ自分のことを「ゆう」って呼んでたんです。あるとき、友達と公園で遊んでいたら、弟が「お兄ちゃん、ママが呼んでるよ」と呼びに来たんです。そのとき「え、お前のとこ、ママって呼んでるの?」と言われまして、「なんで言うんだよ!」と弟と大喧嘩になりました。そこからお母さんと呼ぶようになったし、「ゆう」からオレになりました。

――それってまだ小さい頃のときのお話ですよね?

千葉:小学校高学年のときですかね。他者を気にし始めてたんですかねぇ。あ、でもそういうことじゃないですよね。実際にオレと言い始めた瞬間じゃなくて、大人になったと感じたという、マインド的な問題ですよね(苦笑)。ひとりの人間として変わってきたのは……、一人暮らしを始めてからですかね。

沖田:まとまりかけてたから、最初のでいいよ(笑)

■1年の延期を経ての公開に

――美波やもじくんの成長が爽やかな作品ですが、出来上がった作品を観て、千葉さんが惹かれたところは?

千葉:自分のところはどうしても、落ち着いて観られませんね。

――完成から時間が経ってもですか?

千葉:今回また観たんですが、「うちの兄ちゃん、探偵だよ」ともじくんが言った瞬間から、「あ、このあとから出てくる」と思ってお腹が痛くなりました(苦笑)。でも作品としては最初に観たときから本当に好きだと思えたので、自分でもびっくりするくらい「この作品、絶対観て!」と言いふらしてます。

沖田:言って、言って!(笑)

千葉:萌歌ちゃんと細田くんはもともとご活躍されていますが、自分もイチ観客として観たときに、この作品でさらにファンになって、応援したくなりました。そのこともすごく良かったです。

――新型コロナウイルスの影響から、1年の延期を経ての公開になりました。監督、最後にひと言お願いします。

沖田:すごく楽しい作品ができたなと思って、早く観てもらいたかったのですが、延期になって正直ちょっと悔しい思いもありました。でも一番いい時期に公開してくれると信じていました。夏に観るべき映画だと思うので、これで良かったと思っています。きっと誰かが好きになってくれるんじゃないかと、期待しながらドキドキしています。よろしくお願いします。

沖田修一
1977年、愛知県生まれ、埼玉県出身。2001年、日本大学芸術学部映画学科卒業。翌年、短編『鍋と友達』が第7回水戸短編映像祭にてグランプリを受賞し、2006年、初の長編映画『このすばらしきせかい』を手掛ける。商業映画デビューとなった『南極料理人』(09年)が大ヒットし、同時に高い評価も受ける。『キツツキと雨』(12年)、『横道世之介』(13年)をはじめ、国内のみならず、海外でも評価されている日本映画をけん引する監督のひとり。その他監督作に『滝を見にいく』(14年)、『モヒカン故郷に帰る』(16年)、『モリのいる場所』(18年)、『おらおらでひとりいぐも』(20年)。

千葉雄大
1989年3月9日生まれ。宮城県出身。2010年『天装戦隊ゴセイジャー』のアラタ / ゴセイレッド役にて俳優デビューを果たす。主な出演作に『モヒカン故郷に帰る』『殿、利息でござる!』(16年)、『帝一の國』(17年)、『スマホを落としただけなのに』シリーズ(18年、20年)など。『ピーターラビット』シリーズ(18年、21年)では日本語吹き替え版のボイスキャストを担当。また高い人気を獲得した『いいね! 光源氏くん』(20年)や舞台『ポーの一族』(21年)など、幅広いジャンルと役柄を演じられる実力派としてドラマ、映画、舞台で活躍。近年はバラエティ番組や音楽番組のMCでも存在感を示している。