テレワークが働き方の選択肢として当たり前になりつつあります。働く世代の間でもワクチン接種が始まったことで、「出社するグループ」と「テレワークするグループ」に分かれるのではなく、出社とテレワークによるハイブリッドな働き方を導入する企業も増えてきているのではないでしょうか?また、介護や育児を担っている世代は新型コロナウイルス感染症が終息してもテレワークを続けるなど、働き方はより柔軟で多様になっていくでしょう。新型コロナウイルスの登場を契機に、企業ではさまざまな意見やニーズが生まれたことは間違いありません。

一方、ワクチン接種の開始により、企業で働く人々は、「ワクチン接種後は以前の働き方に戻るのか」「オフィスでは引き続き感染対策が求められるのか」など、再び不安や懸念を抱いているでしょう。こうした疑問に対して、タイムリーに議論されていることを伝えて透明性を保つことで、従業員が心理的に安心して働ける環境を提供することが企業の責任です。

これまで、働き方を考えることは人事部の領域でした。しかし、コロナ後は働き方が従業員の最大の関心事となるため、全社で話し合っていく必要があります。その軸になっていくのが企業文化です。企業文化の形成においては、このように「新しい日常」に切り替わる際、従業員が平等かつ敬意を持って扱われているかが大いに重要になってきます。

戦略的な役割を果たす企業文化とは?

企業文化は、企業のビジョンやコアバリュー、経営理念から始まります。これらの価値観は、経営陣で決められ、ロールモデル化された後、個々のオフィスや部署に展開されてきました。グローバル企業では、世界中にいる同僚と共有することで団結を促し、文化の違いを解消する方法でもありました。

しかし、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、私たちはビジネスのやり方の多くを見直さざるを得なくなりました。ヨーロッパ・中東・アフリカ地域全体のオフィスワーカー4,250人を対象としたCitrixの調査では、パンデミックの間の企業文化について、回答者の24%が「改善された」、29%が「悪化した」と回答しています。

企業は自宅とオフィスの間で平等に文化を共有し、全員が公平に扱われるような方法を見つけなければなりません。また、ワクチン接種プログラムの進化が地域によって異なるため、企業文化をどのように構築するかについて、これまでとは異なる考え方が必要です。

今は、地域レベルでの戦略が必要なのかもしれません。トップダウンで目標やKPIを設定し、それを地域ごとに管理するのと同じように、企業文化についても、地域ごとに感染症の状況を反映したものにしていく必要があるでしょう。

ハイブリッド・ワークをサポートする企業文化の構築

Citrixの調査によると、ヨーロッパのオフィスワーカーの52%が、テレワークやオフィスでの勤務を毎日選択できるハイブリッドワークモデルを希望しています。私たちはこの1年間で、個人が生産性を高めるために「出勤」する必要がないことを証明してきました。自宅待機の制限が緩和され、オフィスに安全に通勤できるようになった時、従業員がオフィスに戻るかどうかを自由に選択できるかが、企業力の向上につながっていきます。

企業文化は、テレワーカーとオフィスに出勤する社員の双方が満足に働けるよう、ハイブリッドな仕事のモデルを受け入れる必要があります。中には、ウイルスへの不安、家庭内での感染の心配、テレワーク解禁をきっかけに地方移住した人、さまざまな理由でオフィスへ戻ることを希望しない人がいるでしょう。

企業はリモートで働く人々が、オフィスに戻る人々と同じように扱われるような文化を作らなければなりません。オフィスに出勤している人々のほうが、テレワークでしばらく直接会っていない人よりも、より多くの責任、より多くの機会、より多くの成長分野を与えられてしまうことは避けなければいけません。私たちはこの「ロケーションバイアス(働く場所による差別)」に気付き、それが起こらないようにする必要があります。従業員が、機会を逃さないために、オフィスに行かなければならないと感じない企業文化が必要です。

アンコンシャス・バイアスへの挑戦(無意識の偏見)

Citrixもそうですが、多くのグローバル企業の管理職は、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)に関するトレーニングを定期的に受けており、自分に内在する偏見や判断を疑い、多様性を受け入れることを学んでいます。コロナ後の世界では、自宅で仕事をすることを選択した人に対し無意識の偏見を持たないために、ハイブリッドやリモートワークもこのトレーニングに含める必要があります。

オフィスベースの文化が強い組織では、現場で働く人と自宅で働く人の間で亀裂や派閥が生まれる可能性があります。このような態度には異議を唱える必要性があります。

例えば、在宅勤務中の人は、通勤時間やオフィスでの雑談時間などなしに、より長時間の業務に向き合い、生産性を高めています。しかし、オフィスに戻る時、一時的に生産性が低下する可能性があります。これを、企業や同僚はこの生産性の低下を追求してはいけません。

社員の心と体の健康をサポート

従業員の福利厚生はこの1年で大きな注目を集めました。多くの企業が、在宅勤務をサポートする福利厚生を準備し、以前よりも充実した福利厚生のプログラムを整えました。Citrixでも、福利厚生への取り組みを強化しました。改善された従業員支援プログラムの導入、メンタルヘルス対策のトレーニング、健康維持のためのツール(マインドフルネス・トレーニングなど)の提供、そして未曾有の時代に献身的に働いてくれた従業員への感謝の気持ちを込め、全従業員に1日の有給休暇を追加しました。

規制が緩和され、従業員に自由が戻ってくれば、メンタルヘルスの面でもかなり良い状態になると思われます。しかし、ハイブリッド環境を推進させる公正な文化を浸透させることが求められます。それができなければ、個人が孤立したり、自由が制限されたり、オフィスに戻るように圧力をかけられたりと、さらに悪い状態になってしまうかもしれません。

現在、従業員のストレスレベルが高いのは当然のことです。パンデミックの影響もありますが、オフィスがいつどのように再開されるのかという不確実性も大きく影響しています。

マスクの着用が義務付けられるのか、ワクチンの接種が必要になるのか、シフト制になるのか。答えのない疑問がたくさんあります。状況がどうなるかは誰にも正確にはわかりません。だからこそ、企業はハイブリットワークに備えた企業文化の浸透を優先事項とし、そのことを透明性の下で伝えていくことが大切です。そうすれば、いざという時に、戦略に基づき、従業員がどこで働こうとも、同じ機会とサポートを提供することが可能になります。

補足:企業文化は、企業の行動やパフォーマンスに重要な影響を及ぼしうる要素の一つです。企業文化にはさまざまな定義がありますが、一般的な定義として「組織中で幅広く共有され強く保有されている価値観(Values)や行動規範(Norms)」(O’Reilly and Chatman, 1996)があります。ここでは「価値観=組織構成員が満たそうとする理想」、「行動規範=このような価値観を反映した日々のプラクティス」と定義されています。このような企業文化は、コーポレートガバナンスなどのフォーマルな制度とともに企業行動に影響します。

著者プロフィール

國分俊宏 (こくぶん としひろ)

シトリックス・システムズ・ジャパン 株式会社 セールス・エンジニアリング統括本部 エンタープライズSE本部 本部長

グループウェアからデジタルワークスペースまで、一貫して働く「人」を支えるソリューションの導入をプリセースルとして支援している。現在は、ハイタッチビジネスのSE部 部長として、パフォーマンスを最大化できる働き方、ワークライフバランスを支援する最新技術を日本市場に浸透すべく奮闘中。