「破天荒」の意味をご存知でしょうか? 「豪快で大胆」という意味だと思っている方が多いと思いますが、実は本来の意味は異なります。

この記事では、「破天荒」という言葉の本来の意味と語源を紹介します。類語と反対語、英語表現についても解説しますので、この機に正しい意味の「破天荒」を使いこなせるようになりましょう。

  • 破天荒は悪い意味?

    破天荒は本来「それまでになかったこと」という意味

破天荒の意味とは? 「大胆である」という意味は間違い?

ここでは、「破天荒」の本来の意味を解説します。

「破天荒」の本来の意味

破天荒とは、「今までに誰もしなかったこと、できなかったことをする」という意味の言葉。それまでの人ができなかったことを成し遂げるという、ポジティブな意味の表現になります。

「破天荒=大胆で豪快」という意味は間違い?

現在では、「破天荒」を「大胆で豪快な様子」として人の性格や様子を表現する場合に使われることが多くなっています。しかし、これは本来の意味とは異なります。

「大胆」という意味は、「破」「天」「荒」という漢字の見た目から、破れかぶれや荒っぽいイメージと結びついて生じてしまったものだと考えられています。本来の「天荒を破る」という意味からは外れており、誤用であると言えるでしょう。

一方で、平成20年度の「国語に関する世論調査」では、破天荒の意味について、64.2%の人が「豪快で大胆な様子」と間違った回答をしています。「誰も成し得なかったことをすること」という正しい意味を理解していたのは16.9%にとどまっているため、相手によっては「今までに誰もしなかったことをする」という本来の意味が通じず誤解されてしまう可能性もあります。

「今まで人が成し遂げられなかったことを成し遂げられる」という本来の意味を伝えたい場合は、「前人未到」「先駆的」といった言葉に置き換えるのも一つの手です。

破天荒の由来

破天荒の語源は、宋の「北夢瑣言(ほくむさげん)」という説話集にあります

唐の時代、荊州(けいしゅう)という土地からはそれまで1人も科挙(官吏登用試験)に合格者が出なかったため、「天荒」(荒れ果てた不毛の地)と呼ばれていました。しかしやがて、劉蛻(りゅうぜい)という人物が科挙に合格し、天荒を破りました。

この故事から、「今までになかったことをする」という破天荒という言葉が生まれたとされています。

破天荒な性格って?

現在は、破天荒という言葉を「大胆である」「奔放な人である」という意味で使っている人が多いようです。「破天荒芸人」や「破天荒な人物」などという表現は、他の人はやらない大胆な生き様や、型破りで無鉄砲な人となりを意味しています。

しかし、本来の意味を考えると、「破天荒な人」とは「今まで誰も成し遂げなかったことを成し遂げる人」という意味であり、「大胆な性格の人」を指す言葉ではありません。

特に人物を破天荒と評する場合などは、「荒っぽい」などとネガティブに捉えられ、悪口と誤解されてしまいかねません。先述したように、破天荒ではなく「前代未聞」「前人未到」「先駆的」などの類義語を使用するといいでしょう。

破天荒の正しい使い方・例文

破天荒という言葉の正しい使い方を、例文で確認しておきましょう。

  • 偏差値30で学年ビリの成績から難関私立大を目指すなんて、まさに破天荒な試みだ
  • ビジネスで飛躍的な成果を収めたいと思ったら、破天荒な挑戦をすることが大切になるだろう
  • そのランナーは、世界選手権でそれまでのタイムを1秒以上縮め、破天荒な記録を打ち立てた
  • 破天荒は悪い意味?

    「大胆な人」という意味で破天荒を使うのは誤り

破天荒の類語

破天荒の類義語をご紹介します。類義語に言い換えることで、正しい意味が伝わりやすくなります。

前代未聞

前代未聞とは、「前代に未だ聞かず」つまり今までに聞いたこともないような出来事を意味する言葉です。今までにないほど珍しいことや、程度のはなはだしいことをさします。ポジティブにもネガティブにも使える表現です。

  • 大雨で裏山が崩れるなんて、前代未聞だ
  • バナナの皮で本当に滑って頭を縫う羽目になるなんて、前代未聞の出来事だ
  • 前代未聞の大型キャンペーンが功を奏し、製品の認知度が一気に上昇した

未曾有

未曾有(みぞう)は、これまでに一度もなかった出来事や極めて珍しい状態を意味しています。「いまだかつて有らず」と読みくだせます。主に「未曾有の~」と名詞につけて使い、災害や事故など否定的な物事に対して使用されることが多い単語です。「古今未曾有(ここんみぞう)」とすれば、より強調した意味を示せます。

語源は仏典にあるパーリ語(サンスクリット語)の「abbhuta」を漢訳したものとされています。経典内では、仏教用語として、仏のいまだかつてない素晴らしい教え、などの意味で使用されていました。

  • 2011年、日本は東日本大震災という未曾有の災害に襲われた
  • 感染症が流行ってマスクが足りなくなるなんて、古今未曾有の事態である

空前絶後

空前絶後(くうぜんぜつご)も非常に珍しい様子を表します。「空前」は、それまでの過去に例がないこと、「絶後」はこれから二度とないという意味。両方を合わせて、「今までも、そしてこれからも起きないであろうほど珍しい出来事」という意味になります。

  • ある漫画をきっかけとして、空前絶後のハスキー犬ブームが起こった
  • 古代ギリシャのアリストテレスは、空前絶後の天才哲学者と言えるだろう

前人未到(前人未踏)

「前人未到(前人未踏)」は、今まで誰も到達したことのない地点という意味。

どちらも同じ意味ですが、「前人未到」は「到達する」というところから主に業績など抽象的な内容に、「前人未踏」は「踏む」というところから、主に探険家などが誰も足を踏み入れていない場所に到達する際に使用されます。

もともと「前人未到」と「人跡未踏」という四字熟語があり、語感や意味が似ていたせいで2つが混同された結果「前人未踏」が発生したと考えられています。

  • ついに彼は勝率90%という前人未到の境地に達した
  • 登山家は前人未踏の山頂を目指し、慎重に進んだ

エポックメーキング(epoch making)

「epoch」とは新時代のこと。即ち、エポックメーキングとは、新時代を作るほどの画期的な様子のことです。 また、「エポックメーカー」で、画期的な発明や挑戦をした人、の意になります。

  • 活版印刷の発明は、歴史におけるエポックメーキングな出来事の一つだ
  • 免疫学の歴史において、種痘を発見したジェンナーはエポックメーカーと言えるだろう
  • 破天荒の類語

    破天荒の類語は、「とても珍しい、はなはだしい」という前代未聞、空前絶後など

破天荒の対義語

破天荒の「それまでになかったことを行う」という意味から考えると、「前の人のやり方をそのまま受け継いで行う」という意味の「踏襲」「継承」などが逆の意味の言葉になります。

「豪快で大胆」を意味する誤用表現の対義語ではないので、使用する場合は注意しましょう。

  • 破天荒の対義語

    踏襲、継承が破天荒の対義語となります

破天荒の英語表現

「unprecedented (先例のない)」、「unheard-of (聞いたことがない)」が破天荒の英訳として適当です。

  • She set the unprecedented record of crossing the Pacific Ocean on a sailboat
    (彼女はヨットで太平洋横断という破天荒な記録を打ち立てた)
  • She demonstrated her skills as an unheard-of female prime minister
    (彼女は前代未聞の女性首相として手腕を発揮した)
  • 破天荒を英語でいうなら?

    英語では「破天荒な」は「unprecedented (先例のない)」で表そう

破天荒の本来の意味は「今までに例のなかったことをする」

今では「豪快な様子、大胆な性格」という意味で人や物に使われることが多い破天荒。しかし、本来の意味は「前例のないことを行う」というポジティブイメージの言葉です。

本来の意味を知らずに使っていると、文章の意味を取り違えてしまったり、あなたの意図したとおりの意味で相手に伝わらなかったりするかもしれません。判断が難しいときは、前代未聞などの類語に言い換えてもいいでしょう。

ビジネスの世界でも「破天荒な計画」などと表現されることは多いもの。本来の意味で破天荒と言われるような大活躍をしたいですね。