「あわやホームラン」という表現を耳にしたことはあるでしょうか。特に違和感なく流してしまいそうなこの表現ですが、立場によっては誤用になるケースもあり、使用する際は注意したい言葉です。
本稿では、「あわや」の正しい意味と誤用例を紹介し、どういう場合に使えばいいのかを解説します。また、「あわや」の類語表現もいくつかまとめました。「あわや」の正しい意味を知り、適切に使いこなせるようになりましょう。
「あわや」の意味と誤用例
「あわや」の意味は2通りあります。1つめは、何かが起こりそうなときに発する「感嘆詞」としての意味。2つめは、何か危機が起ころうとする様子を表す「危なく」「もう少しで」という意味です。
現在では、主に2つめの「危なく」「もう少しで」という意味で使用されます。しかし、「あわや」を使うには相応しくない場面で誤用されている例も散見されます。どういう場合に「あわや」を使うと誤用となるのでしょうか。
「あわや宝くじで1等に当選するところだった」は誤用
1つめの誤用例は、「何か良いことが起こりかけた」ときに誤用する例です。宝くじの当選は一般的に良いことですので「あわや宝くじで1等に当選するところだった」と表現するのは誤りとなります。
「あわやホームラン」は立場によっては誤用
「あわやホームラン」はどうでしょうか。これは、ホームランが「良いこと」である打者側のチームが使うと誤用です。逆に、投手側のチームが使うなら「危うく」という意味になるので正解となります。「クロスプレー! あわや1点追加か?」という表現も、攻撃側が使うとNG、守備側が使うとOKです。
野球中継など、中立的な立場で実況中継をする際は、どちらかに偏った表現となってしまう「あわや」は適切な表現とはいえません。中立的な表現としては「もう少しでホームランになるところでした」「クロスプレー! 1点追加か?」などと言葉を換えるか、「あわや」を使わない表現にする必要があります。
このように立場によって「あわや」の使用が誤りになることもあるので、「あわや」を使う際は「危うく」という意味になっているかどうかを確認しましょう。
「あわや」の使い方と例文
「あわや」の基本的な2つの意味、「感嘆詞」としの意味と、何か危機が起ころうとする様子を表す「危うく」という意味に沿った例文を紹介します。
驚きの声を上げたときの例文
「あわや」を感嘆詞として使う場合の例文は以下の通りです。
・読本・椿説弓張月(1807‐11)拾遺「為朝吐嗟(アワヤ)とうち驚く、顔色(けしき)を暁得(さと)られじと」
・大鏡(12C前)五「御口はこころよくゑませ給ひて、あはや、宣旨くだりぬとこそ申させ給ひけれ」
いずれも、古典の例文です。現在では、「あわや」を感嘆詞として使用することはほとんどなく、危うく難を逃れたときに使用すると覚えておけば大丈夫です。
危うく難を逃れたときの例文
「あわや」を危うく難を逃れたときの様子に使っている例文は以下の通りです。
・あわや不合格かと思ったが何とか合格した。
・あわや大惨事となるところだったが、何とか持ちこたえた。
・あわや交通事故に遭うところだったが間一髪のところで避けられた。
「不合格」「大惨事」「交通事故」いずれも、危険・リスクなので「あわや」を使うのに相応しい場面といえます。
「あわや」の類語表現と例文
「あわや」には、多くの類語表現があります。それぞれの表現について、例文を示しながら解説します。
危機一髪・間一髪
「危機一髪」は、髪の毛1本程度の些細な違いで危険に陥るかどうかという、ギリギリの瀬戸際を表現する四字熟語です。「髪の毛1本ほどの」という意味があるので、「一髪」を「一発」と間違えないようにしましょう。
「間一髪」も、事態が髪の毛1本ほどのすき間に差し迫っている様子を示し、「あわや」「危機一髪」と言い換え可能です。危機一髪・間一髪を使った例文をいくつか示します。
・危機一髪(間一髪)で難を逃れた。
・危機一髪(間一髪)不合格のところ、何とか合格した。
・危機一髪(間一髪)で大惨事となるところだった。
危機一髪と間一髪どちらも、あわやと同様「危うく」の意味なので、「宝くじ当選」や「合格」など、良い出来事には使いません。
紙一重(かみひとえ)
「紙一重」は、紙1枚ほどしかない極めてわずかな違いという意味の言葉です。紙一重の場合、危機一髪や間一髪のように「危うく」という意味は薄くなり、単純な「違い」という意味になります。ただ、以下のように「あわや」や「危機一髪」などとの置き換えは可能です。
・紙一重で難を逃れた。
・紙一重で大惨事となるところだった。
紙一重は、以下のようにも使えます。
・紙一重の差で、私は1位、彼は2位となった。
・おしゃれも紙一重で、やり過ぎれば一気に格好悪くなる。
これらの例文は、「実力差」「おしゃれ」と、危機とは関係ない事柄を取り上げており「あわや」や「危機一髪」との置き換えはできません。
ギリギリの
「ギリギリの」は、限界すれすれであることを表す言葉です。漢字で書くと「限り限り」となります。限度いっぱいということを強調したい場合に使います。「あわや」「危機一髪」などとの置き換えは、危機や難を逃れた状況でなら置き換え可能です。
・ギリギリのところで踏みとどまった。
・締め切りにギリギリ間に合った。
「ギリギリのところで踏みとどまった」「締め切りにギリギリ間に合った」はどちらも難を逃れているため「あわや」「危機一髪」へ言い換えることもできます。
・経済的にギリギリの状態で、これ以上生活を続けていけるだろうか。
・あなたの行動はギリギリ許容できる線だが、これ以上は「ない」と思ってください。
上記の場合は「限界線」ということが強調されており、「あわや」や「危機一髪」との置き換えは難しい例です。
際どいところで
「際どいところで」の意味は、「もう少しで大事(おおごと)・大問題に至りそうな様子」です。「あわや」や「危機一髪」と同じく、何らかの危機があってそこに至らずに済んだという文脈で使われます。「際どいところで」の例文は以下の通りです。
・際どいところで難を逃れた。
・もう少しで病気になるところだったが、際どいところで踏みとどまった。
いずれも、何らかの問題があり、その問題に至らずに済んだという意味が含まれます。
一歩間違えれば
「一歩間違えれば」には、「際どいところで」と同じく「もう少しで大事に至りそうな様子」という意味と、「もしそうなったら大変」という状況を示す意味の2通りがあります。
・一歩間違えれば大惨事だった。
・一歩間違えれば病気が悪化して死んでいたかもしれない。
「一歩間違えれば大惨事だった」は「あわや」や「危機一髪」とも置き換え可能な使い方です。過去を振り返って仮定している2文目は「もしそうなったら大変」という状況を示す表現なので、「あわや」などとの置き換えはしにくい例です。
「あわや」は幸運な出来事には使わないと覚えよう
「あわや」の正しい意味は、「危険が降りかかる寸前の様子」です。危険を回避する際に使うのは正しいですが、幸運な出来事を逃したという場合には使いません。中立的な立場で表現する場合は、「あわや」を使わず「もう少しで」などと言い換えましょう。
「あわや」を正しい意味で使い、時と場合に応じて適切な表現に置き換えることで、より分かりやすい表現になります。正しい使い方を覚えて、円滑なコミュニケーションを行いましょう。