間もなく発売となるトヨタ自動車「GR 86」とスバル「BRZ」の2世代目モデル。共同開発のスポーツカーで両社はどのように差別化を図ったのか。そして、先代と比べ何が変わったのか。それぞれのデザイナーに話を聞いてみた。まずはGR 86についてだ。

  • トヨタの新型「GR 86」

    トヨタの新型「GR 86」

「変えないで!」という意見が9割

今回の新型で企画およびデザインを主導したのはトヨタだ。そこで、まずはトヨタ GAZOO Racing Company GRデザイングループ長の松本宏一さんに話を聞いた。

GR 86を担当することが決まった時、松本さんは「素直に嬉しかった」という。ただ、86はデビューしてからほぼ10年が経過しており、オーナーたちは「本当に愛車として、大好きなんです。そういった方々に話を聞くと、『ぶっちゃけ、別に変えなくていいよ』という意見が9割くらいを占めました。なので、結構プレッシャーでしたね」と当時を振り返る。

  • トヨタの新型「GR 86」

    「GR 86」のデザインを担当した松本宏一さん

オーナーの意見を踏まえ松本さんは、「軽量コンパクトなFR(後輪駆動車)というクルマ(の在り方)と素直に向き合い、スポーツカーの本質をしっかり追求して作ることで、絶対に86のユーザーにも受け入れてもらえると信じていました。奇をてらってガラッと変えたり、あえて86をオマージュしてみせることはせずに、素直に冷静に、このサイズの、このクラスの、この価格のスポーツカーはこうあるべきだというスタイリングを行いました」という。

その理由を問うてみると、「オマージュしたらしたで『これではモデルチェンジする意味がない』と文句をいわれたでしょうし、ガラッと変えたら変えたで『なぜ変えたんだ』といわれる。どちらにせよネガティブにいわれるのであれば、ゼロからしっかり作りたいというのが一番でした」と当時の決意を語った。

  • トヨタの「86」

    こちらが先代「86」。オーナーから愛されたこの形をどう変えるのかが難問だった

良さは残して増幅させる

新型GR 86をデザインするうえで最初に行ったのは、先代86のデザインを徹底的に研究・分析・勉強することだった。

「そうすると、反面教師ではないですが、自分だったらここはこうする、ここは86の良さだから残しておく、この考え方はいいからもっと増幅させたいといったポイントが見えてきました。その結果として、形は違って見えますが、パッと見た時の雰囲気は86に見えるようになりました」

先代86で松本さんが最も気になったのは「上から見ると、何となく四角いクルマだなと感じてしまうところ」で、「もっと凝縮感や塊感を見せたい。これが一番変えたいと思った」そうだ。86らしさとして残すべきと思ったのは「サイドウィンドウのグラフィックです。これが86らしさを表現しています。新旧を離れて見比べてみると分かるのですが、基本は同じような形にしています」とのことだった。

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    サイドウィンドウのグラフィックは「86」らしさが感じられる部分だ

86の良さとして増幅させたのは、サイドシル部分に入っている大きなサイドスポイラーだ。実は先代86にも「うっすらと入っています」と松本さん。「これはキャビンをコンパクトに見せるキャラクターラインとして、とても有効です。広いところで走っているクルマを見ると、意外と小さくて細いキャラクターラインは見えなくなってしまんですが、このくらいしっかりしたものを入れると特徴的に見えますので、そういうところは86が持っている良さをさらに増幅させるよう意識しました」と教えてくれた。

  • トヨタの新型「GR 86」

    サイドシルのスポイラーは新型で強調した部分

GR 86のデザインコンセプトは「凝縮」「機能美」「FRプロポーション」の3つ。「凝縮はイメージだけではなく、(外から見たキャビンスペースなどを)絞り込み、塊を削っていくことで、重心の位置をセンターに凝縮させました。これは(FRの)意のままの走りを実現させたいという機能、つまり、走りにもデザインにも貢献したいということです」と話す。

機能美の例としては左右のエアアウトレットを挙げる。「しっかりと穴が開いているので、操安性にすごく効いています。この機能をしっかり造形としても表現しています。これがあったからこそ、サイドシルスポイラーへの流れも作れるようになったわけです」とのことだ。

  • トヨタの新型「GR 86」

    エアアウトレットからサイドシルスポイラ―に向かう空気の流れが操安性向上に効いている

GR独自のフロント周り

ここからはディテールについて語ってもらおう。

まずフロントデザインは、「GRの統一デザインテーマである『ファンクショナルマトリックスグリル』をGR 86でも採用しました。この考え方は、機能をしっかりと形で表すことで、ラジエーターの冷却性能を最大限いかすためのデザインです」とのこと。バンパー左右にあるインレットについても、「きちんと空気を入れて、ホイールハウスの内側から空気を出すことで、操安性などを向上させています」とし、機能をもとにデザインしたことを強調した。

  • トヨタの新型「GR 86」

    新型「GR 86」のフロントマスク

インレット側面には空力シボを施した。効果については、「側面の空気の流れをコントロールしています。GR 86は水平、BRZは約20度傾いていますので、走りの違いが表現されているところでもあります」とする。

フロントグリルにはもうひとつの特徴がある。新たに採用したGR専用のGメッシュだ。「六角形をモチーフとし、一部に “あや”を付けることによりアルファベットの“G”を表現しました。今後はほかのGRスポーツなどにも採用していく予定です」と松本さんは話す。

ヘッドライトはインサイド側にLEDのターンランプ、外にロー・ハイのヘッドライトを採用。そのランプには「パラボラ形状のデザインを施し、精悍さを表現」したそうだ。その下のクリアランスランプは、「GR ヤリス」や「GR スープラ」とイメージを統一した。

  • トヨタの新型「GR 86」

    グリルにはGR専用の「Gメッシュ」を採用。ライトにはパラボラ形状のデザインを施した

最後にBRZとの差別化について聞くと、もともとの企画では「価格を抑えるため、バンパーなどは共通にしようという考えでした。そこで僕は、純粋にGR 86を考えて作っていきました。それをスバルが見ていて、『さすがにこのGR 86をBRZとはいい難い』という話になり、そこからスバルが手を入れていったんです。BRZの変更部位については全く関わっていません。どのように差別化するかに関しては、彼らが考えてやっていったんです」とコメントした。

次回はBRZのデザインについてスバルのデザイナーに語ってもらおう。