小春日和と聞き、ぽかぽかと暖かく穏やかに晴れた日を想像する人も多いでしょう。聞き慣れた小春日和という言葉ですが、実は使う季節を誤解して覚えている人が多い言葉でもあります。
この記事では小春日和とはいったいいつの季節の1日を指すのか、また小春を使う別の表現や英語表現などをご紹介。語彙力が上がれば、日常がもっと豊かになりますよ。
小春日和とはいつ?
小春日和は、晩秋から初冬にかけての時期に穏やかに晴れる日を言います。厳しい冬を前に、まるで春のような天気に恵まれた日のことです。
「小春」という言葉に引っ張られて「小春日和は春のころ」と覚えている人が、文化庁の調べで多くいることが分かっています。
しかし本来は晩秋から初冬にかけて。「春ではないのに春の頃のようだ」と表現したい時に使います。勘違いに注意しましょう。
11月から12月上旬ごろのよく晴れた暖かい日
小春日和の意味は、前述のように「晩秋から初冬の頃の、穏やかに晴れた暖かな日」を指します。詳しく見ていきましょう。
小春日和を「小春」と「日和」に分けて考えてみます。
小春とは陰暦10月の別称です。この頃は本格的な冬に入る前の、春のように温暖な日が続く時期だとされています。なお陰暦の10月は、現在の暦でいうと11月から12月上旬ごろに当たります。
例えば吉田兼好の『徒然草』では以下のように表現されています。
「十月は小春の天気、草も青くなり、梅もつぼみぬ」
(現代語意訳)10月は冬だというのに春を思わせる小春日和で、草が青くなり梅にもつぼみがつく
一方、日和は天気や空模様を表す言葉。この2つがくっ付いてできているのが小春日和です。11月から12月という本格的な冬に入りつつある時期にふと訪れる春のような穏やかな日が、小春日和の本来の意味です。
二十四節気の「小雪」のころ
日本には二十四節気といって、1年を24等分してそれぞれの時期に名称を付けたものがあります。
その二十四節気で小春日和は「小雪(しょうせつ)」のころ。小雪は11月22日ごろとされており、冬が始まる立冬から数えて15日目のころに当たります。1年の収穫を祝い翌年の豊穣を願う新嘗祭(にいなめさい)が行われるのもこの時期です。
また、二十四節気の1つの節気をさらに3つに分けた七十二候というものもあります。小雪に当てはまる以下の3つからも、小春日和が現れる小雪のころの様子を伺い知ることができます。
- 初候「虹蔵不見(にじかくれてみえず)」曇りの日が増えて日差しが弱くなり虹を見かけなくなる
- 次候「朔風払葉(きたかぜこのはをはらう)」朔風(北風)が吹き木の葉が舞い落ちる
- 末候「橘始黄(たちばなはじめてきばむ)」橘の実が黄色に色づく
小雪のころは木の葉が舞い落ち、少しどんよりとした寂しげな印象。そんな中ぽかぽかとした陽気の小春日和が現れたら、心もゆったりとくつろぎますね。
小春日和を1月や2月に使うのは間違い?
小春日和は本来11月~12月上旬頃に使う言葉。しかし実際には、寒さが厳しい真冬の1月や2月に使われることも多くあります。小春日和の「春ではないのにまるで春のような陽気」という意味からすると、真冬に使うのが間違いとは言い切れないでしょう。
小春日和の使い方
次に小春日和という言葉の使い方について、例文とともに紹介します。
小春日和の例文
小春日和という言葉は、文学作品にも多く登場します。
冬はすぐ其処まで来ているのだけれど、まだそれを気づかせないような温かな小春日和が何日か続いていた。(堀辰雄「菜穂子」)
秋から冬に成る頃の小春日和は、この地方での最も忘れ難い、最も心地の好い時の一つである。(島崎藤村「千曲川のスケッチ」)
上記の例からも、小春日和は冬を間近に控えた時期にぽっと現れる、心地の良い暖かな陽気の日を指すとわかります。
日常生活で使うとしたら、以下のような例があります。
・小春日和に紅葉を見に出かけた
・昨日は霜が降りていたが、今日は小春日和だ
・気持ちの良い小春日和に、散歩に出かけた
まだ秋の気配も残る11月から12月にかけての頃は、紅葉狩りといった行楽にぴったりです。
小春日和の類語
ここでは、小春日和の類語とも言える「小春」を含んだ天候を表す言葉を紹介していきます。
小春空
「小春空(こはるぞら)」は小春のころの穏やかに晴れた空模様のことを指します。
小春凪
「小春凪(こはるなぎ)」は小春のころの穏やかな海の凪のことです。凪とは風が止んで海面が波立たず静かなさまを言います。
小春日
「小春日(こはるび)」は小春のころの穏やかな日差しがある日のことを指します。
小春風
「小春風(こはるかぜ)」は小春のころに吹く穏やかな南風のことです。春に吹く春風と似ているので注意しましょう。
小春日和の英語表現
小春日和は英語で「balmy autumn day(穏やかな秋の日)」などと訳されます。「Indian summer(インディアンサマー)」という表現も一般的です。日本語では「春」と表現するのに対し英語では「夏」と表現する点が大きな違いです。
インディアンサマーは「Period of dry, unseasonably warm weather in late October or November in the central and eastern United States.(米国中東部の10月下旬から11月にかけての乾燥した、季節外れの暖かい気候の期間)」(ブリタニカ百科事典)とされています。小春日和の言葉を使う時期とほぼ重なっています。
具体的な語源は不明で諸説あるものの、一説にはアメリカの先住民であるネイティブ・アメリカンが、冬支度のため収穫物を貯蔵するのに、小春日和をうまく活用しながら作業していたのではないかとされています。
小春日和の季節を過ぎると「冬日和」「春日和」
小春日和は現在の暦でいう11月から12月上旬ごろの穏やかに晴れた日を言いますが、12月上旬を過ぎると「冬日和」、また春になったら「春日和」というようになります。
12月上旬以降のよく晴れた暖かな日は「冬日和」
「冬日和」は小春日和と同じく、よく晴れた暖かな日を指しますが、時期が異なります。小春日和が11月から12月上旬ごろに使う言葉なのに対し、冬日和は12月上旬以降、つまり、本格的な冬に入ってから使う言葉です。
春の季節になったら「春日和」
小春日和から「小」がとれた「春日和」ですが、こちらは、季節が春になってから使います。春日和は、小春日和や冬日和のように、よく晴れた穏やかな日を意味することは同じです。
小春日和は春ではなく「冬」! 正しい時期に使おう
小春日和が、春の1日を指す言葉ではないことをお分かりいただけましたでしょうか。具体的には11月~12月上旬にかけて現れる、ぽかぽかと穏やかで晴れた日を指します。ただし実際には、1月や2月など真冬の1日を表す場合も多くあります。
小春日和を含む天候や空模様を表す言葉には、日本語らしい美しさが秘められたものがたくさん。この機会に覚えておけば、日常がきっと豊かになるはずです。