鎖骨を超える長さの乱れた長い髪、口元に広がる髭、よれたシャツにサンダル。“怪しい人物”そんな認識をされそうなビジュアルも、俳優・斎藤工の端正な顔立ち、オーラと絡み合うことで「人々を狂信させ、崇められる存在」という役どころへの説得力につながってしまう。

  • 俳優の斎藤工 撮影:宮田浩史

    俳優の斎藤工 撮影:宮田浩史

『あなたの番です』(19年 日本テレビ系)や『共演NG』(20年 テレビ東京系)のヒットが記憶に新しい秋元康氏が企画・原作・脚本を手掛けるテレビ朝日系ドラマ『漂着者』(毎週金曜23:15~※一部地域を除く。全話TELASAで配信中)。物語は、とある海岸に斎藤演じる謎の男・ヘミングウェイが漂着するところから始まる。「#イケメン全裸漂着者」として話題となった記憶喪失者のヘミングウェイは女児連続殺人事件を解決に導く“予言”のような力を発揮し、教祖のように世間を狂乱させていくが――。このたび斎藤に役作りへのこだわりや、秋元氏の脚本から読み解いたエンターテインメントへの思い、共演者の白石麻衣の印象、来月40代を迎えるにあたっての心の内を聞いた。

――斎藤さん演じる「ヘミングウェイ」は、不思議な能力を持つ記憶喪失者という役どころです。役作りについて教えてください。

自分自身の名前や情報さえ邪魔になってしまうようなキャラクターだと思います。このドラマのお話を頂いたときから「斎藤工が演じるヘミングウェイ」ではなく、たまたま見た方に「本当にそういう人」だと感じてもらえる役作りを目指したいなと考えていました。

――ビジュアルにもそのこだわりが感じられます。

“オーガニックを突き詰めた人間の極地”を表現するため、衣装部さん、メイク部さんにご尽力いただきました。「本当に漂着したら」というリアリティを求めて、海に漂ってみたり、漂着時は爪を長くしてみたり。秋元さんが「自分に備わっている、見えない何か」を見抜いてくれたと信じて、キャスティングしていただいた意味を込められたらいいなと思います。

――『共演NG』に続いての出演になりますが、秋元さんの作品にどんな印象を持っていますか。

2作とも、僕が演じるのは秋元康の“概念”を擬人化したようなキャラクター。『共演NG』では日本で馴染みのないショーランナーという職業を演じましたが、「ドラマをヒットさせる仕掛け人」という役割は正に秋元さんご自身だったと思います。エンターテインメントへの価値観が変わって、MADE IN JAPANで作られる作品の強度が試されているという今の時代への考えが、作品の中で「サブスクリプション全盛期で、世界中のハイクオリティな作品を僕ら日本人も日常的に目にしている」といった台詞に落とし込まれていて、僕自身その通りだなと共感する部分がありました。

そんな思いを言葉にして届けた手前「ならばどんな一歩を踏み出すべきか」を、有言実行しないといけない。使い古された「誰も見たことがない」という言葉を凌駕する前衛的な作品作りに向けて、いい意味で甘えられない状況が出来上がっているな、と。

――監督やプロデューサーとしても活躍されている斎藤さんから見た秋元さんの魅力は。

ちゃんとお会いしたことがないので、実在する方かは分からないんですけど(笑)。時代を築いて来た方の現在地って、過去の蓄積の上にいるか、巨大な山をさらに登り続けているかというタイプに分かれると思っていて、秋元さんは明らかに後者。これまで築き上げてきた計り知れないものを振り返らない強さを持っていて、“秋元康”をブランドとして見ていない初見の人に対して新たな何かを打ち出していけるということが、プロデューサーとしての素晴らしさだと感じています。

僕も含め、クリエイティブに関わる人間は自己顕示欲のようなものを少なからず持っていて、本能的に「自分が何か得られる」ところに目標を定めてしまいがち。でも秋元さんは、はるか先にプロジェクトのゴールを設定できる人だと思います。

――今回は主演として、どのような役割をお持ちでしょうか。

これまで僕が見て来た主演の方々の大きな背中を真似しながら、より魅力的で、より深みのある作品にするために寛大な制作陣とディスカッションを重ねています。演者サイドの声をすべて背負うわけではないんですけど、作っている僕らの好奇心が沸き立つ方向に向かって、意見を伝えています。視聴者の方にとってより興味深い作品にするために、自分ができることをしたいという思いです。