人手不足や採用難などにより、ビジネスパーソンひとりあたりの仕事量が増え続けているともいわれるいま、目の前の仕事に追われるあまり、重要な内容であってもつい「先送り」してしまうことがあります。

そもそも、なぜわたしたちは先送りをしてしまうのでしょうか。そのメカニズムと、先送りせず「すぐやれる人」になる方法をお聞きしたのは、トップアスリートやビジネスパーソンのサポートを行うメンタルコーチの飯山晄朗さんです。

■「先送り」がもたらすデメリット

「先送り」がよくないことは、誰もがわかっていますよね。ものごとを先送りすると、いくつものよくないことが起こりますが、やはり最終的にミスを犯すということが最悪のことだと思われます。

やるべき仕事を先送りすると、その仕事をこなすための本来の時間が不足します。期限間際になって慌ててやった結果、しっかり時間をかけてやれば起きようがないようなミスを犯すというわけです。

あるいは、その仕事のクオリティーが期待されるレベルに達しないということも考えられます。先送りをしてやるべきことがたまっている状況というのは、精神的にもよくありません。どこかで「ヤバいな…」という焦りをずっと感じています。

そんな精神状態のまま、いよいよまずいとなった状況になって取り掛かっても、仕事にしっかりと集中できるはずはありません。そうして、その仕事のクオリティーが下がってしまうのです。

■無意識のうちに感情に左右されて先送りしてしまう

でも、先にも述べたように、先送りがよくないことは誰もがわかっています。にもかかわらず、なぜわたしたちは先送りをしてしまうのでしょうか? 答えはとてもシンプルです。その仕事、あるいはその仕事の依頼者に対して「嫌だ」「苦手だ」という感情を持っているからです。

一方、「好きだ」「得意だ」と感じている仕事ならすぐに手をつけられますよね。あるいは、好きな依頼者からの仕事であっても、「あの人のためにちゃんとやっておこう」と感じて先送りするようなことはないでしょう。

このことは、仕事の優先順位をつけているという見方もできます。もちろん、「この仕事は得意だから先に手をつけて、残りの仕事のための時間をつくろう」とか「この仕事は苦手だから、あとでじっくりやろう」というふうにしっかり考えてそうしているなら、そう大きな問題を招くことはないでしょう。

ところが、多くの人が無意識のうちに、「嫌だ」「好きだ」という感情に左右されて優先順位をつけているのが現実です。苦手意識が無意識に働いているのです。

「嫌だから」「苦手だから」と先送りすると、すでにお伝えしたようにミスを犯すことはもちろん、必要なクオリティーに達しないということが起こります。すると、さらに悪いことが起こります。好結果を残せないために、その仕事に対する苦手意識をさらに強めてしまうのです。

すると、また同じような内容の仕事をしなければならない状況が訪れると、半ば自動的に「これは苦手だから」と先送りをします。どんどん先送り癖がつくという悪循環におちいってしまうのです。

■苦手なことこそ、意識的に最優先で手をつける

そういった事態を避けて、「すぐやれる人」になるにはどうすればいいでしょう? そのためのキーワードは「意識する」です。ほとんどの場合、先送りは無意識に行われているとお伝えしました。だからこそ、しっかりと意識することが大切です。

もちろん、どんな人にも得意なことがあれば苦手なこともあります。その感情を強く意識しましょう。そして、苦手な仕事、嫌な仕事がまわってきたときこそ、意識的に優先順位を上げて取り掛かるのです。

そうすることで、苦手意識がなくなっていき先送りしないようになるだけでなく、その仕事が得意分野になることも十分にあり得ます。苦手な仕事を後まわしにするほど、その仕事に取り掛かるときには脳が疲れている状態になります。それでは、ミスを犯したりクオリティーを下げてしまったりして、苦手意識を払拭できなくて当然です。

でも、苦手な仕事を最優先でやれば結果は変わってきます。睡眠によって脳を休めたあとの始業時やお昼の休憩後などは、脳がリフレッシュされている状態です。そういう状態で臨むのですから、後まわしにしたケースと比べると仕事の質を確実に上げられます。

そういった経験を積み重ねるうちに、その仕事に対する苦手意識を払拭し、逆に得意だと感じるようになることもあるでしょう。

このことには、じつは脳の面白い特性が関係しています。その特性とは、脳は「入力より出力を信用する」というものです。人間は、楽しいから笑うことももちろんありますが、その逆もあるのです。

「楽しい!」という思いが入力されるから笑顔をつくるという行動を出力する一方、まったく「楽しい!」と感じられないことをやっていても笑顔をつくれば、脳は笑顔という出力のほうを強く信用するため、自然と「楽しい!」と思えるようになるというわけです。

「苦手な仕事に最優先で取り掛かる」というのは、まさに行動であり出力です。先に、人は無意識のうちに「嫌だ」「苦手だ」「好きだ」「得意だ」という感情に左右されて優先順位をつけているとお伝えしました。無意識下で優先して取り掛かるものは、好きで得意なものです。

だからこそ、苦手な仕事に最優先で取り掛かると、その仕事がどんどん好きで得意なものに感じられるようになるのです。

■プライベートでも先送りしないことが重要

注意が必要なのは、いわゆる完璧主義者の人です。そういう人には、「一度手をつけたら、最後までやり切らなければならない」という気持ちが働きます。その気持ちが、すぐに取り掛かることの邪魔をします。

全部やり切る必要などないのです。先送り癖をつけないことが大切なのですから、やり切れなくてもいいので、まずその場で手をつけることを意識してください。

また、こういったことは仕事だけでやればいいというわけではありません。先送りしがちな人は、プライベートでも先送りしがちな面が目立ちます。みなさんのキッチンのシンクには洗い物が山盛りになっているということはありませんか? 「そろそろ掃除しないと…」と思った次の瞬間、「明日やればいいか」と思っていませんか?

たとえプライベートのことであっても、そういう思考を繰り返しているとその思考の癖を脳が学習していきます。ひいては、仕事においても先送りしがちになるということになりかねません。

もちろん、プライベートのことだって全部をやり切る必要はないのです。全部やり切ろうと考えるからこそ、「掃除もけっこう時間がかかるし…」なんて思って先送りしてしまうのです。ですから、デスクの上だけとか、気になる場所だけを掃除すればOKです。

そうやって、オンでもオフでも先送りしないトレーニングを続けください。それが、「すぐやれる人」になるいちばんの訓練であり、近道です。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人