大手バーガーチェーンでも増えつつある「代替肉」(肉を使わないパティ)を挟んだハンバーガーは、はたしてうまいのか。「本来はゴリゴリのビーフ推し」だというハンバーガー探求家の松原好秀さんに、各社の代替肉メニューを実食レポートしてもらった。今回はフレッシュネスバーガーとバーガーキングだ。

  • フレッシュネスのザ・グッドバーガー

    ハンバーガー探求家が大手チェーンの代替肉メニューを実食!

日本産ミラクルミートを使うフレッシュネス

フレッシュネスバーガーは昨年2020年の秋に、植物性パティのバーガー2品を相次いで発売した。

開発に当たり、同社商品開発マネージャーの逆井里奈さんは2019年に渡米。10日間をかけてロサンゼルスとニューヨークのハンバーガーショップを巡り、「ビヨンド・ミート」と「インポッシブル・フーズ」のフェイクミート(代替肉)を使ったメニューを食べ歩いたという。視察の中で逆井さんが気になったのは、「ヘム」と呼ばれる成分の独特のにおいだった。ヘムとは大豆の根粒に含まれる成分で、代替肉に使うと本物の肉さながらの風味や見た目が再現できる優れものなのだが、逆井さんにはどうも、その風味が合わなかったそうだ。その後も欧州各国のフェイクミートを試したがよいものが見つからず、やっと出合えたのが国内のフードテック企業「DAIZ」社の製品だった。

  • フレッシュネスの代替肉メニュー

    DAIZのミラクルミートを使ったフレッシュネスバーガーの代替肉メニュー

DAIZは熊本県の企業で、発芽大豆由来の植物肉「ミラクルミート」を製造・開発している。大豆パティ開発における3つの課題である「におい」「食感」「旨味」を向上させるべく、発芽した「丸大豆」(品種名などでなく、丸い形のままの大豆のこと)を使用しているのが特徴だ。

大豆は佐賀大学が開発した高オレイン酸大豆で、リノール酸をオレイン酸に置き換えることで、イヤなにおい成分をほとんど生み出さないことに成功。これを「落合式ハイプレッシャー法」で発芽させて旨味を増大(これは熊本大学の研究)、「エクストルーダー」という成形機にかけて、肉のような弾力と食感を再現している。

フレッシュネスはこのDAIZのミラクルミートをパティに採用。つなぎにココナッツオイル、たまねぎを加え、通常の肉のパティと同サイズの大豆パティを作った。これを2015年より導入した低糖質バンズに挟み、2020年9月にアプリ会員限定で先行販売したのが新商品「THE GOOD BURGER」(ザ・グッドバーガー)だ。同年11月には第2弾となる「THE GOOD BURGER (アボカド)」を全国発売した。

  • フレッシュネスの「ザ・グッドバーガー (テリヤキ)」

    フレッシュネスの「ザ・グッドバーガー (テリヤキ)」(480円)

「ザ・グッドバーガー」はテリヤキソースのバーガーで、現在は品名に「(テリヤキ)」の文字が付いている。隠し味に醤油麹を利かせたテリヤキソースにマヨネーズ、グリーンカールからなるシンプルな作りだ。大豆パティは、豆の砕き方の工夫によって表現された「つぶつぶ」感がなかなかよく、肉っぽい食感が再現されている。バンズはザラッとした軽い食べ口。手にも軽く、バーガー全体としても軽い仕上がりだ。

一方の「アボカド」は、大豆パティと低糖質バンズの組み合わせにアボカド2分の1個、タルタルソース、生オニオンのスライス、グリーンカールという内容。アボカドのソフトでクリーミーな食感が大活躍していて、こちらはなかなかリッチな食べ口だ。食べごたえも十分。オニオンの辛味やコショウが利いて、大豆パティが「より肉っぽく」感じられる。かなり肉に寄せた味付けのバーガーである。

  • フレッシュネスの「ザ・グッドバーガー (アボカド)」

    フレッシュネスの「ザ・グッドバーガー (アボカド)」(550円)。アボカドの大活躍で一気に味わいがゴージャスに

通常メニューの「テリヤキバーガー」が熱量344kcal・糖質28.5gなのに対して、「ザ・グッドバーガー (テリヤキ)」は熱量272kcal・糖質21.6g。豪州牛(情勢により原産地が異なる場合あり)113gのパティを挟んだ「クラシックアボカドバーガー」が熱量658kcal・糖質34.9gであるのに対し、「ザ・グッドバーガー (アボカド)」は熱量433kcal・糖質21.2gと、フレッシュネスのイメージにふさわしい、ライトでヘルシーなバーガーを実現している。低糖質バンズの存在も大きい。

大豆パティの今後について、「数あるメニューの選択肢のひとつとして育ててゆきたい」と逆井マネージャーは語る。大事なのは世間の声やニーズに歩調を合わせてゆくこと。植物由来のバーガーは、われわれ消費者と「共にある」、そんな新ジャンルなのかもしれない。

直火焼きで「肉っぽさ」を追求するバーガーキング

そして昨年2020年の12月、ついにバーガーキングも植物性パティのバーガーを発売した。

アメリカ本国のバーガーキングは、2019年にインポッシブル・フーズのパティを使ったハンバーガーをすでに発売済み。東南アジア各国の店舗もそれぞれに商品を発表する中、日本のバーガーキングは独自の開発を進めた。

商品化までに2年を要したという新メニューは、その名も「プラントベースワッパー」。プラントベース(plant-based)とは、文字通り「植物由来の」という意味だ。つまり、植物性パティを使ったバーガーを売り出すに当たって、新たなメニューを立ち上げるのでなく、看板メニューである「ワッパー」をプラントベース化したワケだ。これについて同社シニアブランドマネージャーの麦敏光さんは、「大事なのは味。バーガーキングとして、いかにおいしく出すかを考えた時、ワッパー以外の選択肢はなかった」と語る。

  • バーガーキングの「プラントベースワッパー」

    日本のバーガーキングが独自に開発した「プラントベースワッパー」(590円)

オーストラリアのフードテック企業「v2food」社から大豆由来の100%植物性パティを調達し、これをワッパーパティ同様「直火焼き」にしているところが最大の特徴だ。専用のブロイラーで焼くに当たっては焼き時間を細かく研究し、直火焼きの魅力が最も立つように焼き目を調整。ビーフのパティと焼き上がりのサイズやボリュームが同じになるよう工夫した。このパティを直径約13cmのワッパーバンズに挟み、トマト、レタス、オニオン以下、ワッパーと同じ内容の食材を盛り込む。「パティだけが違う」ワッパーの誕生である。

  • バーガーキングの「プラントベースワッパー」

    パティのコゲ味がポイント

顔を近づけると、においが肉と全く同じであることに驚く。ビーフパティと同じブロイラーで焼くことで、スモーキーなフレーバーをまとわせ、植物性パティのクセや気になる点をうまくマスキングしている。色合いも焼いた牛肉のようで、みごとなフェイクぶりだ。

かぶりついた時の肉っぽい感覚はなかなかのもの。バンズに乗るゴマの風味が加わり、生オニオンの辛味が混ざり合うと、さらに肉っぽさが倍増する。よーく味わうと大豆特有の濃い味が微妙に感じられるが、そこにさえ焦点を合わせなければ、直火焼きの芳ばしさとケチャップ&マヨネーズの味でイケてしまう。

2021年2月には「アボカドプラントワッパー」(期間限定)を発売。パティが「ビーフかプラントベースか」選べる見せ方で売り出した。「選択肢を提供することが狙い」とマネージャーの麦さん。「今日はビーフ、今日は植物性……と、パティを選択することが当たり前になる日が必ず来る」との読みだ。将来的に「ワッパーの売り上げの『2割』がプラントベースになれば……」という期待を込めた予想も聞かせてくれたが、もし本当にそうなれば、それは相当すごいことである。

  • バーガーキングの「アボカドプラントワッパー」

    2021年2月には「アボカドプラントワッパー」を期間限定販売。さらに6月には、世界環境デーに合わせ「みんなで愛するビーフの未来を守ろう」という趣旨のキャンペーンも実施している

代替肉はハンバーガーの選択肢

日本の大手チェーンの動向をまとめると、こうなる。

植物性食材だけで1個の新バーガーを創り出したモスバーガー。むしろ植物性を感じさせないスナック感覚の新バーガーを提唱したロッテリア。アボカドと低糖質バンズによって、ヘルシーでありながら食べ口豊かなバーガーを実現したフレッシュネスバーガー。直火焼きの牛肉のにおいをまとわせることで、ビーフに迫るバーガーを再現したバーガーキング。作り手によって、すでにこんなにも方向性の違う植物性バーガーが誕生している。

4社から共通して聞かれたのが「選択肢」という言葉だ。代替肉は肉に取って代わる存在でなく、「肉以外の選択肢を増やすもの」なのである。牛肉に加えて、鶏、魚、そして植物と、バーガー界のジャンルがまたひとつ増えたということだ。選択肢が増えれば、万一そのうちのひとつが将来無くなった場合にも「困らない」というメリットもある。

「ありかなしか」とか「この先、肉が食べられなくなるかも……」とかいったような「0か100か」の議論ではなくて、「ハンバーガー屋で頼めるメニューがひとつ増えた」ぐらいの感覚で試してみたら、案外悪くなかった……。そんな付き合い方で、とりあえずはいいんじゃないだろうか。ものごとの始まりというのは、大抵そんなものなのだから。