具体的なアドバイス

それでは具体的なアドバイスをみていきましょう。

引退後の年間支出が上がる可能性を考える

約10年後にご夫婦でFIRE(早期リタイア)を希望されているCさん。家計状況を拝見しても、支出は月々の収入の半分近くで残りは貯金されており、とても好印象を受けます。ご夫婦の理想に向かって長い人生を舵取りできるように、堅実かつ計画的にチャレンジしていっていただきたいと思います。

FIREする時点で最低どれくらいの貯金額が必要か――。これは、FIREする方々の暮らし方や資産の使い方、運用の仕方などによりますが、ひとつの目安として言われているのが「年間支出の25倍」の金額です。

たとえばCさんご夫婦の現在の生活費は年間360万円です。行き先や予算がわかりませんが、毎年1回は海外旅行に行かれるとのことですので仮に100万円を加算すると、年間支出は460万円になります。その25倍ということは、1億1,500万円になる計算です。

しかし、会社員を辞めた後は国民年金保険料や国民健康保険料の支払いが発生します。40歳以降は介護保険料も支払うようになります。

国民年金保険料は毎年改定されますが、現在の月額1万6,610円を基に計算すると、夫婦合わせて年額約40万円かかります。国民健康保険料は自治体や所得額によって変わりますが、仮に年間世帯所得が300万円とし、ある自治体の保険料率で試算すると世帯分で年額約36万円(介護保険料を含む)となりました。また、現在給料から引かれている税金も自分で支払うようになりますので、その分も含めて目安を立てておくほうがいいでしょう。

仮に物価の安い地方に移住し生活費が低減するとしても、これらの社会保障や住民税等のプラスによって、年間支出は上がる可能性もあります。そう考えると、FIREするために必要な資金は1億円~1億4,000万円程度必要になるかもしれません。

効率よくお金を増やすために資産運用を活用

今後も年間約500万円の貯金を継続できるというのはFIRE実現に向けて頼もしいことですが、10年間積立てると元本だけで5,000万円です。現在の貯蓄と合わせても6,000万円ですから先に試算した必要目安額には足りません。

そこで、現在投資されている200万円に加え、月々25万円、ボーナス100万円を年2回、これから10年間積み立て運用していくと仮定しシミュレーションしてみました。10年後の運用額は次のような結果になりましたので参考にしてください。

年利回り3%:約6,070万円
年利回り5%:約6,730万円
年利回り7%:約7,480万円

これを見てどのように思われるでしょうか。「1億円に近づけられるよう、7%以上の運用を目指そう」とか「7%以上で運用するためにはどういう方法がいいか」などと考えられたかもしれません。

しかし残念ながら、10年間ずっと「確実に」7%以上で運用できるかどうかはわかりません。投資相場は上がるときもあれば下がるときもあります。ここで示した数字も、上げ下げを繰り返しながら、平均して3%、5%、7%の利回りになった場合という前提です。

一般的に投資にはローリスク・ローリターン、ハイリスク・ハイリターンという関係があり、価値が下がった後にまた上昇して高い平均利回りを実現するには長い期間が必要と言われています。

将来の確実な相場上昇を見極めることはできませんが、少しでも効率よく運用できるようリスクをコントロールすることはできるかもしれません。そのためには「複利効果を活用する」「手数料や税金をできるだけ抑えて複利効果を高める」「投資商品(銘柄)や時間をできるだけ分散する」などがあります。

年間120万円までと非課税投資枠の制限があり、Cさんご夫妻の場合は軽く限度を超えそうですが、運用収益に税金がかからないNISAを限度目一杯に活用するのもいいでしょう。ご夫婦それぞれNISA口座を開けば年間240万円まで非課税投資が可能になります。ただし、NISAは2024年に制度改正が予定されており非課税投資枠が変わります。しっかり仕組みを確認したうえ活用するようにしてください。

また、リスクを抑えるためには金融商品(銘柄)を購入するタイミングをずらすことも効果があると言われています。できるだけ長い期間をかけて積み立て運用していけるよう、少しでも早く取りかかるのがいいでしょう。

相場の動きによっては期待通りに資産形成がはかどらない可能性もあるため、状況に合わせて時々、資産のポートフォリオを変えながら、長く続けることを心がけてください。

自由時間を楽しみながら、プチ労働で収入を得ることも考える

FIREを目指されているCさんはご承知だとは思いますが、FIREは単に早期リタイアすることだけでなく、資産運用による収益を基本的な生活原資にするという考え方とされています。つまり、FIREするために運用で資産を築き上げるだけでなく、FIREした後も運用で収益を上げていくことが求められます。

実は先に紹介した「25倍」という目安基準は、投資元本に対して年利4%の運用益で生活費をまかなうという考え方に基づいています。たとえば、1億円の運用原資があり、4%で運用できれば年収400万円となり、それで生活できるという考え方です。なぜ4%かという根拠の詳細は省略しますが、米国の株式市場の成長率やインフレ率が基準とされています。

しかし先に説明したように、相場は上下するものです。年によってはうまく収益を得られるどころかマイナスになり、資産の取崩しが必要になる場合があるかもしれません。そこで意識していただきたいのが、節約して生活費を下げることや、投資に限らず収入源をいくつか準備しておくことです。

たとえば引退後にも時々働いて投資収入以外の収入を得たり、不動産物件を買って賃貸収入を得るという方法などです。節約して年間支出額が下がればFIREのための必要額も下がります。

今回、欧米で提唱されているFIREの基本的な考え方を参考にしながらアドバイスさせていただきましたが、Cさんご夫妻の人生を舵取りしていくのはご夫婦自身です。資産形成を続けていくとともに、日々の節約を意識しながら、自分たちの理想とするFIRE像を見つけていくようにしてください。


今回の相談内容と皆さんの家計簿に似ている部分があるようでしたら、ぜひともFPの方のアドバイスを参考にしてみてくださいね。