お笑いコンビ・インパルスの板倉俊之が、芸人としてバラエティ番組などで活躍する一方、小説家としても活躍。2009年に『トリガー』で小説家デビューし、今年1月には5作目となる『鬼の御伽』を上梓した。また、2012年に発表した『蟻地獄』の舞台化で、脚本・演出に初挑戦。マルチな才能を発揮している。板倉にインタビューし、小説家としてのもう一つの顔について、そして、原作・脚本・演出を務める舞台『蟻地獄』について話を聞いた。

  • インパルスの板倉俊之

小説家デビューは、約10年前。自分で志願したわけではなく、もともとはオファーがきっかけだった。「まさか文章を自分で書くとは思っていなかったですが、当時芸人本が流行っていたんですよ。いわゆる自伝本ブームみたいなころで。僕にもオファーが来たんですけど、僕にはそんなパンチの効いた話はないわけです。ダンボールを食べて生活したことはないし、品川さんみたいに荒くれ者だったこともないので」。

自伝本でまとめるほどのエピソードはなかった板倉は、あるアイデアで返答したが、それが功を奏した。「そこでフィクションなら興味あります、みたいなことを言ったんです。その時ちょうど『トリガー』みたいなことを考えてはいたのですが、その時はコントでしか表現できないと勝手に思っていたんですよ。でも、笑いにはならないけれど、面白そうな設定で小説を書いていいなら面白そうだなと。それでやってみようと。フィクションであればと」。こうして最初の作品、『トリガー』が誕生することに。

笑いのない物語を作る作業は、お笑いを構築する作業と似ているという。初期の頃から小説を書く作業は面白かったと板倉は話す。「笑いではない作業は新鮮でした。笑いを起こすためではない装置を作ることが。『トリガー』は短編のように区切ってあり、オチが感動するものであったり、ゾッとするものであったり、びっくりするものだったり、いろいろなんです。目標地点が違うものを作る作業は面白かったですね」。

初小説から10年以上の月日が流れた。「もうそんなに経っちゃっているんですよね」と時の流れをしみじみと実感する。小説家としての肩書きについては、「いやあまだまだですよ」と謙遜を込めてまだ名乗れないと言い、「『トリガー』と『蟻地獄』は漫画が当たったので知る人ぞ知るという感じなのですが、『あれ、板倉が書いていたのか?』といまだに言われますからね。まだまだ認められていないんです」と語る。

そして、自身2作目の小説『蟻地獄』が舞台化され、脚本・演出に初挑戦。当初は昨年7月に上演予定で、新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止になったものの、今年、1年越しに上演される(6月4日~10日、東京・よみうり大手町ホール)。板倉が創り上げる圧倒的ノンストップサスペンスは約1年の充電期間を経て、さらなる強大な罠と絶望にスケールアップしているという。

板倉本人は出演せず、Zero PLANETリーダーの高橋祐理、天野浩成、乃木坂46の向井葉月らが出演する同舞台。晴れて公演できることについて板倉は、「脚本まで書いたものがポシャッて落胆していましたが、いざやることになり、無駄にならなくてよかったなと思いました。ホッとした感じですね」と胸をなでおろす。「ただ、またちょっと雲行きが怪しくなってきましたよね。お客さんが邪念を抱かず、100パーセント笑っていられる状況になってほしいですよね」とコロナ収束を切に願う。