伊藤女流三段、自陣四段目以内に相手の駒の侵入を許さない完封勝利

西山朋佳女王に伊藤沙恵女流三段が挑戦する第14期マイナビ女子オープン五番勝負(主催:マイナビ)第4局が5月25日に東京・将棋会館で行われました。結果は93手で伊藤女流三段が勝利。シリーズ成績を2勝2敗のフルセットとし、決着は最終局へと持ち越されました。


第14期マイナビ女子オープン五番勝負の星取表

伊藤女流三段は、相手が居飛車なら自分も居飛車、振り飛車なら振り飛車というように、相居飛車、相振り飛車の戦型を得意とする女流棋士です。西山女王は振り飛車一本の振り飛車党のため、力戦模様になった第1局を除き、第2、3局は相振り飛車の将棋になりました。

第4局も相振り飛車になるのかと思いきや、伊藤女流三段の初手は居飛車を明示する▲2六歩。相振り飛車で連敗を喫していたため、流れを変えようという選択だったのかもしれません。

西山女王は中飛車に振るため、8手目に△5四歩と突きました。何気ない一手に見えますが、これは強気な作戦です。次に△5五歩や△5二飛と指せれば中飛車に組めますが、この瞬間は角交換から▲5三角と打ち込まれて馬を作られてしまいます。

伊藤女流三段は持ち時間を使わずに誘いに乗り、▲5三角と打ち込んでいきます。もちろんタイトル戦という大舞台で指される将棋ですから、馬を作られて後手失敗、というような単純な話ではありません。

西山女王は9九の香取りに△5五角と打ち、それを防ぐために▲7七桂と跳ねさせて、その桂頭に狙いを定めました。馬を作らせた代償がこの桂頭攻めです。また、先手の馬はすぐには働かないと後手は見ています。

ところが伊藤女流三段は思い切った攻めを繰り出していきます。対局が始まったばかりの21手目に▲6五桂と決断の桂跳ね。次いで▲5四馬と馬を盤上中央に飛び出しました。

この2手によって、先手は前述の後手の主張である、桂頭攻めと馬の働きの弱さを解消することができました。しかし先手にとって、ここまでうまい話があるのでしょうか。

24手目、西山女王は3分考えた後に穏便な△5二金右と守りの手を選択。しかし、この手が本局の事実上の敗着となりました。これ以降は伊藤女流三段の完璧な指し回しによって、西山女王にチャンスらしいチャンスが来ませんでした。

△5二金右に代えて△9九角成と踏み込むのが感想戦で示された順。▲8八銀とされて馬と銀・香の二枚換えになるものの、直後に△5二香と馬取りに打つ手が厳しかったようです。

厳密には無理筋だった仕掛けながら、積極的に動いた伊藤女流三段と、勝負所で踏み込めなかった西山女王。両者の勢いの差が本局の勝敗を分けたと言っても過言ではないかもしれません。終局後のインタビューで伊藤女流三段は「カド番だが挑戦者なので挑む気持ちで精一杯指そうと思って臨みました。▲6五桂は指してみたい手でしたが、無理な手でした。ですが西山さんが良くする手を逃してからはリードを奪うことができました」と語っています。

その後は伊藤女流三段の持ち味の、手厚い指し回しが存分に発揮されました。戦いが長期化するにつれ、先手の馬と後手の角の働きの差が際立つ形に。先手は馬を軸に自陣の駒をどんどん攻めに活用し、後手陣を攻略していきました。

一方の西山女王の駒はなかなか前進することができません。西山女王の持ち味である鋭い攻めが発揮される場面は、ついに訪れませんでした。

最後は中段で粘る西山玉を、伊藤女流三段が鋭く寄せ切って93手で勝利。西山女王の駒を自陣四段目以内に一度も侵入させない圧巻の指し回しで、伊藤女流三段の会心譜となりました。これで本シリーズはフルセットに。決着は6月1日に行われる最終局に持ち越されました。

力の出ない展開で不完全燃焼となってしまった西山女王は、「昨年に続いてのフルセット。悔いなく指せればと思います」とコメント。番勝負でフルセットになった最終局で、西山女王はこれまで4戦4勝です。タイトル戦登場8度で獲得7期。しかも敗れたのは初挑戦だった2014年度の第4期リコー杯女流王座のみで、現在タイトル戦7連勝中という圧倒的な勝率は、この土俵際での勝負強さあってのことでしょう。

第4局を快勝してタイトル奪取に望みをつないだ伊藤女流三段は、「最後の最後の一局になるので、悔いの残らないように精一杯頑張りたいと思います」と抱負を語りました。タイトル挑戦8度目にして、ついに待望の初戴冠となるでしょうか。

快勝でタイに戻した伊藤女流三段(マイナビ女子オープン中継ブログより)
快勝でタイに戻した伊藤女流三段(マイナビ女子オープン中継ブログより)