マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、「バイデン・プラン」について解説していただきます。
米国のバイデン大統領は3月31日、The American Jobs Plan(以下、バイデン・プランと呼称)を発表しました。バイデン大統領が就任前に提案し、3月11日に成立したThe American Rescue Plan(総額1.9兆ドル)はコロナ対策としての短期景気刺激策で、個人向け現金給付や失業保険の上乗せ、州・地方政府支援などを柱としたものでした。
バイデン・プランの詳細
バイデン・プランは、所得格差の是正、対中国競争力の強化、気候変動への対応を主眼としており、長期経済プログラムの第1弾との位置付けです。バイデン政権は、同プログラムを50年代のインターステート・ハイウェイ(州と州を結ぶ高速道路)整備、60年代のアポロ計画などの宇宙開発プログラムに比肩するものとしています。バイデン政権は4月中旬に、医療、子育て、教育などを対象とした第2弾を発表する予定です。
バイデン・プランの具体的な内容は、インフラ投資、国民生活の向上、高齢者や身障者支援、製造業振興など主要4分野で8年間総額2.25兆ドル。財源は法人税増税などで、15年間かけて手当てする計画です。The American Rescue Planは景気対策であるため、財源はありませんでした。つまり、全額が財政赤字になる設計でした。バイデン・プランの法人税増税は、法人税率21%⇒28%へ引き上げ(トランプ減税の巻き戻し)や多国籍企業の国外利益に対する21%の最低課税などです。
バイデン・プランは、バイデン政権1期目の4年間と、(再選されれば)2期目の4年間の計8年間に実行されます。一方で、増税はその後も7年間続くというかなり虫のいい話かもしれません。
今後の展開は……
ペロシ下院議長(民主党)は独立記念日(7月4日)までの下院での可決を目指しているようです。8月に夏休み入りする前に上院が下院案を受けて審議・採決できるようにするためです。上院と下院が同一の法案を可決し、バイデン大統領がそれに署名して初めてバイデン・プランは成立します。
もっとも、議会審議は難航すると予想されます。The American Rescue Planはフィリバスター(上院での少数派政党による採決妨害戦術)が使えない予算調整法の形で民主党だけで可決、バイデン大統領の発表から2カ月で成立しました。しかし、今回のバイデン・プランは予算調整法案に盛り込めない項目も多数含まれているとみられ、共和党の協力なしでの成立は非常に難しいでしょう。
そのため、民主党はバイデン・プランをいくつかの法案に分けて、可能なものは予算調整法案の形で成立させ、それ以外は共和党の協力を取り付ける戦術をとりそうです。ただし、その過程で規模や内容が大幅に修正されるかもしれません。とりわけ、財源としての増税には共和党の強い反対が予想されます。
金融市場の反応は……
金融市場は、今後の議会審議や、バイデン政権と議会の交渉状況に応じて反応しそうです。主な注目ポイントは、バイデン・プランが原案に近い形で成立して米経済の活性化につながるのか。答えが「イエス」なら、株価や長期金利の上昇要因となりそうです。
そして、法人税増税が企業利益に与える影響はどうか。株式市場が「悪影響が大きい」と判断するなら株安要因になるでしょう。そして、財政赤字は一段と拡大するのか。共和党の反対で増税ができなければ、答えは「イエス」となり、長期金利の上昇、それも「悪い金利上昇」を招く要因となるかもしれません。