最近、多くの人に注目されるようになったiDeCo(イデコ)。老後資金の準備ができ、同時に節税効果があるので、気になっている方も多いのではないでしょうか。とはいえ、その内容やメリットなど詳しく理解している人は少ないかもしれません。そこで今回は、iDeCoの内容とどんな節税効果があるのかをシミュレーションを交えてご紹介いたします。
iDeCo(イデコ)とは
iDeCoとは、個人型確定拠出年金という私的年金制度のことで、老後資金を準備するのに活用できるものです。平均寿命が延びる今、もしかしたら老齢年金だけでは老後の生活費が足りなくなることがあるかもしれません。そんな状況に陥らないよう、早いうちから私的年金などを活用して、老後の生活を補てんする資金を貯蓄しておきたいものです。その際、手段のひとつになるのがiDeCoなのです。
iDeCoに加入可能な年齢
iDeCoは20歳以上60歳未満の人が加入できます。加入する際は自分で運用する金融商品を選び、自分で掛金を支払っていきます。iDeCoの掛金は5,000円以上で、1,000円単位で設定できます。そして、60歳以降に老齢給付金として、5年以上20年以下の年金、もしくは一時金で受け取ることができます。年金と一時金を併用して受け取ることも可能です。
60歳から老齢給付金を受け取りたい場合は、10年以上の加入期間が必要です。もし10年に満たない場合は、加入期間に応じて受け取り時期が繰り下がります。
iDeCoに加入可能な職業
iDeCoは、自営業者や会社員、公務員、専業主婦(夫)の誰でも加入することができます。ただし、勤務先で企業型確定拠出年金に加入している人は、会社の規約で認められている場合に限りiDeCoに加入することができます。
iDeCoは2022年に法改正が行われ、ルールが変更される予定です。通常、加入できるのは60歳未満の人ですが、国民年金被保険者(厚生年金被保険者)であれば65歳までiDeCoに加入できるようになります。また、企業型確定拠出年金の利用者でも同時加入できるようになる予定です。
iDeCo(イデコ)のメリット
老後資金を準備するのに役立つiDeCoですが、利用する前にメリットとデメリットを理解しておくことも大切です。そこで、iDeCoのメリットとデメリットを解説いたします。
まず、メリットとしては以下の3点があげられます。
(1)運用益が非課税になる
通常、資産運用をして得られた運用益には、原則として20.315%(所得税および復興特別所得税15.315%+地方税5%)の税金がかかります。iDeCoの場合、運用益には税金がかからないので、節税しながら効率的に老後資金を貯めることができます。
(2)掛金全額が所得控除になる
iDeCoの掛金は、全額が「小規模企業共済等掛金控除」の対象になります。課税所得から1年分の掛金合計額を差し引くことができるので、所得税と住民税を節税できます。
(3)年金を受け取るときも税制優遇される
iDeCoは60歳以降に年金もしくは一時金として受け取ることができます。年金で受け取る場合は「公的年金等控除」が受けられ、一時金として受け取る場合は「退職所得控除」が受けられます。掛金を払っている間だけでなく、受け取り時も節税することができるのです。
iDeCo(イデコ)のデメリット
節税に役立つメリットがある反面、iDeCoならではのデメリットもあります。以下で詳しくみていきましょう。
(1)原則60歳まで引き出すことができない
普通の預貯金や資産運用では、まとまった資金が必要になればいつでも引き出せます。しかし、iDeCoは60歳になるまでは、途中で引き出すことができません。そのため、急に資金が必要になった場合に備えて、同時に別の方法での貯蓄を持っておいたほうがよいかもしれません。
(2)運用成績によっては資産が減る可能性がある
iDeCoで利用できる商品の多くは、価格が変動する金融商品です。そのため、運用成績がよくなれば資産は増えますが、運用成績が悪くなれば元本割れする可能性もあります。元本割れを避けたいときは、定期預金や保険など元本確保型の商品を選ぶのも一つの方法です。また、一つの特定の金融商品で運用するのではなく、リスクやリターンの状況を見て商品を分散することも大事なポイントです。
(3)手数料がかかる
iDeCoに加入すると税制優遇が受けられる点はよいのですが、手数料を負担しなければなりません。2021年3月現在では、加入時手数料として2,829円、口座管理手数料として毎月105円、資産管理手数料として毎月66円、その他金融機関によっては運営管理手数料がかかる場合もあります。そのため、たとえ元本確保型の商品で運用していたとしても、手数料で資産が減る可能性もある点は留意しておきたいものです。
一時金でiDeCoを受け取る場合の注意点
一時金で受け取る場合はiDeCoの加入期間に応じた退職所得控除を受けることができます。
退職所得控除の計算式
・20年超の場合:800万円+70万円×(加入期間-20年)
・20年以下の場合:40万円×加入期間(80万円に満たない場合は80万円)
もしiDeCoの加入期間が15年の場合、退職所得控除額は以下のようになります。
40万円×15年=600万円
また、退職所得の計算式は以下の通りです。
(収入金額-退職所得控除額)×2分の1×税率
企業年金に加入していない会社員の掛金は年額276,000円(限度額)となりますから、15年加入すれば、一時金は以下のようになります。
276,000円×15年=4,140,000円(運用益は加味していません)
この場合、退職所得控除額よりも一時金の方が少ないので、受け取るときは非課税になります。
しかし、注意しなければいけないケースがあります。それは、会社の退職金を受け取る場合です。
同時にiDeCoの一時金と会社からの退職金を受け取る
iDeCoを一時金で受け取るのと同時に会社からの退職金を受け取る場合、退職所得控除が調整されます。
例えば、iDeCoの加入期間が15年、勤務年数が40年で、2つの期間が重複しているケースの場合。このとき、退職金は勤務年数40年を使って退職所得控除の計算をします。しかし、iDeCoは加入期間が勤務年数と重複しているため退職所得控除が0円になってしまいます。そのため、iDeCoの金額分、税金が高くなってしまうのです。
退職金を受け取った後、iDeCoの一時金を受け取る
また、退職金を先に受け取り、その年より後にiDeCoの一時金を受け取る場合も注意が必要です。iDeCoの一時金を退職金より後に受け取るときは、前年以前14年以内に受け取った他の退職金の勤務年数は除いて計算する決まりになっています。iDeCoの加入期間が15年、勤務年数が40年で、会社の退職金を先に受け取ると、iDeCoの退職所得控除は0円になってしまいます。よって、税金の額が増えることになるのです。
賢く無駄のない退職金と一時金の受け取り方
ただし、受け取り方によっては節税できる方法があります。iDeCoの一時金を60歳で受け取り、65歳で会社の退職金を受け取るのです。実は、退職金を後に受け取る場合、前年以前4年以内に受け取った他の退職金があるときは、重複した勤続年数は除くというルールがあります。
つまり、iDeCoと退職金のそれぞれを受け取る期間が4年しか空いていなければ、後から受け取る退職金の勤続年数がiDeCoの加入期間分だけ減ってしまいます。しかし、5年以上空いていれば、このルールは適用されません。
具体例で見てみましょう。
【iDeCoの加入期間が15年で60歳のときに一時金で受け取り、勤続年数が40年で退職金を65歳で受け取る場合】
iDeCoは加入期間15年で退職所得控除が計算され、退職金は勤続年数40年で退職所得控除が計算されます。つまり、これにより退職所得控除額が増えるので、結果として節税になるのです。
iDeCoの受け取り時期と退職金の受け取り時期は近くなることが多いのではないでしょうか。ただ、iDeCoと退職金は受け取り方の違いで納める税金が変動します。そこで、もしiDeCoを一時金として受け取る場合は、iDeCoを先に受け取り、5年空けて退職金を受け取るよう調整されることをおすすめします。
iDeCoでどれくらい節税できるかシミュレーション!
iDeCoによってどれくらいの節税効果があるのか気になりますね。そこで、3パターンを例に、iDeCoの節税効果について見ていきましょう。
※下記のシミュレーションでは、給与所得控除のみを考慮。その他の控除は考慮していません
パターン1:自営業者Aさん
- 課税所得:500万円(必要経費を差し引いたあと)
- 所得税:20%-控除額427,500円
- 住民税:10%
- iDeCo掛金:月額68,000円・年額816,000円
【通常の場合】
所得税額
5,000,000円×20%-427,500円=572,500円
住民税額
5,000,000円×10%=500,000円
所得税額と住民税額のトータルは1,072,500円(ア)
【iDeCoに加入した場合(iDeCoの年額が所得控除となる)】
5,000,000円-816,000円=4,184,000円(課税所得)
所得税額
4,184,000円×20%-427,500円=409,300円
住民税額を計算
4,184,000円×10%=418,400円
所得税額と住民税額のトータルは827,700円(イ)
節税額=(ア)-(イ)
1,072,500円-827,700円=244,800円
AさんがiDeCoに加入すると、納める税金が244,800円減額となります。
パターン2:会社員Bさん
- 給与収入:700万円
- 所得税:20%-控除額427,500円
- 住民税:10%
- 勤務先の企業年金には未加入
- iDeCo掛金:月額23,000円・年額276,000円
給与所得控除後の課税所得を計算式は以下の通りです。
(給与所得控除額=収入金額×10%+1,100,000円)
この計算式に当てはめた課税所得は
7,000,000円-(7,000,000円×10%+1,100,000円)=5,200,000円
となります。
【通常の場合】
所得税額
5,200,000円×20%-427,500円=612,500円
住民税額
5,200,000円×10%=520,000円
所得税額と住民税額のトータルは1,132,500円(ア)
【iDeCoに加入した場合(iDeCoの年額が所得控除となる)】
5,200,000円-276,000円=4,924,000円(課税所得)
所得税額
4,924,000円×20%-427,500円=557,300円
住民税額
4,924,000円×10%=492,400円
所得税額と住民税額のトータルは1,049,700円(イ)
節税額=(ア)-(イ)
1,132,500円-1,049,700円=82,800円
BさんがiDeCoに加入すると、納める税金が82,800円減額となります。
パターン3:会社員Cさん
- 給与収入:700万円
- 所得税:20%-控除額427,500円
- 住民税:10%
- 勤務先で確定給付企業年金に加入
- iDeCo掛金:月額12,000円・年額144,000円
給与所得控除後の課税所得はBさん同様、5,200,000円です。
【通常の場合】
所得税額
5,200,000円×20%-427,500円=612,500円
住民税額
5,200,000円×10%=520,000円
所得税額と住民税額のトータルは1,132,500円(ア)
【iDeCoに加入した場合(iDeCoの年額が所得控除となる)】
5,200,000円-144,000円=5,056,000円(課税所得)
所得税額
5,056,000円×20%-427,500円=583,700円
住民税額
5,056,000円×10%=505,600円
所得税額と住民税額のトータルは1,089,300円(イ)
節税額=(ア)-(イ)
1,132,500円-1,089,300円=43,200円
CさんがiDeCoに加入すると、納める税金が43,200円減額となります。
まとめ
老後資金の準備に活用できる私的年金のiDeCoは節税効果が期待でき、運用益が非課税になったり、掛金全額が所得控除になったりとメリットもあるうれしい制度です。
しかし、60歳までは引き出すことができず、場合によっては元本割れを起こす可能性もあります。また、60歳以降、老齢給付金として受け取る際も税制優遇が受けられますが、受け取り方によっては税金が増える場合もあるので注意が必要です。iDeCoの内容をきちんと理解して、老後の生活費を補てんする手段として活用してはいかがでしょうか。