「目標を一緒に追いかけないと、中小企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)は成功しない」。そう断言するのは、人工知能搭載型RPAの開発・販売を行う、batton 代表取締役の川人寛徳氏。

今回は、"伴走力"を強みとするbattonの川人氏と、同じく中小企業の"伴走者"である税理士であり、幾つもの事業を立ち上げてきた連続起業家でもあるSAKURA United Solution代表・井上一生氏が、「中小企業のDX」をテーマに対談を行いました。

  • 中小企業のDX成功の秘訣は「伴走力」にある【前編】

川人寛徳氏プロフィール
batton代表取締役、一般社団法人働き方改革協会代表理事
ベルシステム24→ワイキューブ→広告会社として独立。その後、ビジネスモデル塾講師を経てRPA会社を設立。5年上場に向けて突っ走り中!

経営課題に真摯に取り組むうちに、活動領域が自然に拡大

井上一生氏(以下、井上) : 川人さんとは、お付き合いが長いわけではないのですが、重要な局面でお会いしている気がします。とてもビジョナリーで応援したくなります。きっかけは、京橋にある東京スクエアガーデンのWeWorkに私たちが入居している頃でしたね。

川人寛徳氏(以下、川人) : たまたま知っていたベンチャー企業の方が、会計事務所のRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入支援をされていて。それで井上先生と引き合わせていただきました。

  • batton 代表取締役 川人寛徳氏(左)、SAKURA United Solution 代表・井上一生氏(右)

井上 : そうでしたね。どのような経緯で、battonを設立されたのですか?

川人 : batton は、2019年に設立した会社です。その前は、7年ほどビジネスモデル塾をしていました。ビジネスモデルの作り方や脳科学を伝える経営塾です。経営には人の問題が必ず出てくるので、人事コンサルティングとして人材採用や育成、定着などの支援もしていたのですが、少子高齢化で人材面の支援だけでは限界を感じていました。それで、中小企業にもRPAが必要だと確信したわけです。前職から事業を買い取ってbattonを設立しました。

battonという社名には、「新しい働き方へバトンをつなぐ」という意味と、「オーケストラの指揮者が揮うバトン」の意味を込めています。

RPAとは? なぜ中小企業のRPAは80%が機能しないのか

井上 : 川人さんは様々な事業を手掛けられていますよね。ビジネスモデル塾や人事コンサルティング、RPA開発や導入支援だけでなく、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)などの支援もされていますよね。最初に、RPAについて簡単に教えてください。

川人 : RPAは、「パソコン上で動くロボット」と捉えるとわかりやすいと思います。「ロボット」というと「白いマシン」を想像する方もいるかもしれませんが、ここで指す「ロボット」とはシステムのこと、つまり「自動で動いてくれる仕組み」です。

異なるソフト間でデータを移行させようとする場合、人間が行うとどうしても隙間の作業が生じます。その作業を自動化するのがRPAです。例えば、会計事務所では「会計ソフトからCSVでデータをダウンロードしてまとめる」といった繰り返しの作業がありますよね。その繰り返す作業をシステムに覚えさせ、自動化させるのがRPAです。

井上 : 会計事務所業界では、RPAブームのような現象がありました。今、私たちSAKURA United Solutionでも社内で2種類のRPAを取り入れています。まだまだRPAを導入できたと断言できる段階にはないですが、導入することで社内の業務内容や業務フローは大きく変わります。ただ、中堅の会計事務所からは「RPAって、ちゃんと機能するの?」と疑問も出てきていますね。

川人 : 残念ながら、「RPAユーザーの80%が使いこなせていない」と言われています。メガバンクのようにRPAが機能している企業や機関もありますが、「そもそも中小企業には向かないのではないか?」という声さえ聞こえてきていますね。

井上 : 「中小企業でRPAが機能しない」と言われる理由はどこにあると考えられますか?

川人 : 理由としては、多くのRPA会社が顧客のRPA導入まで伴走していないからです。ジムに例えるとわかりやすいかもしれません。ジムには、「一般のジム」と「パーソナルジム」がありますよね。一般のジムは、「マシンが置いてあって、あとはご自由に」というスタイルです。一方、パーソナルジムは、「いつまでに何キロ痩せたい」という目標設定をしてトレーニングをします。

RPAを導入するにあたっては、「残業を●●%減らしたい」「ある部署の人数を●●名減らしたい」という目標や目的があるはずです。しかし、多くの中小企業では、RPAを導入すること自体が目的になってしまう。これでは、RPAをせっかく導入しても機能しません。パーソナルジムのようにしっかり目標を決めて、一緒に目標を追いかける必要があります。

井上 : 導入して終わるのではなく、その後の目標達成のサポートも重要ですね。

川人 : もうひとつ、RPAを使う担当者の方にRPAの知識がない場合や、RPAがわかる人が社内で限られており、RPA担当が属人化しているケースもあります。属人化している業務をロボットに覚えさせ、平準化できることもRPAの特徴ですが、RPA担当が属人化してしまうのは本末転倒です。業界によってITリテラシーは異なるので、一辺倒な導入支援ではなく、フルオーダーのような導入支援が必要です。こういった意味でも、顧客に伴走していくことが大切になりますね。

井上 : 私たちも、中小企業経営者の伴走者であり続けたいと考えています。経営者の方から「うちの先生」と呼ばれるとき、多くは税理士のことを指しますが、税務だけでなく、財務・資金繰りや人事・人材、売上にも深く貢献していきたいものです。

しかし士業の仕事自体も、いつまでもあるものではないでしょう。書類作成代行などの業務はRPAでDX化したりBPOをして、人間にしかできない業務に特化していく必要があります。RPAを必要とする中小企業も多いはずなので、川人さんと協業してそういった方々に伴走したいですね。

(次回に続く…)