同音異義語の「異常」と「異状」。この2つの「いじょう」という言葉にはどのような違いがあるのでしょうか。「品詞」「文字の構成」「一般用語と限定用語」といった多角的観点から、「異常」と「異状」の正しい使い方を紹介していきます
異常と異状の言葉の違い
同音異義語の「異常」と「異状」には、どのような違いがあるのでしょうか。言葉の品詞や意味を知り、正しく使い分けましょう。
異常の意味
形容詞・名詞である「異常」は、正常ではない場合を指す言葉として広い範囲で用いられ、とりわけ人に対して使われることが多い言葉と言えます。
端的に言えば、「異常」とは「正常ではない」「通常ではない」「健常ではない」「普通と違っていること」の総称です。
異状の意味
「異常」は形容詞・名詞として用いられましたが、「異状」は「名詞」としてでしか用いられません。使用されている漢字の通り、「普通とは違う状態」という意味をもつ言葉です。
「異常」は、通常と異なることについて全般的に使用しますが、「異状」は「異常な状態」を指しており、「異常」なものの中で「状態」に限定して使用されます。また「異状」は、「異常な状態」という名詞であるため、「異状な」「異状に」といった形容詞として使用できない点に注意が必要です。
異常あり(なし)と異状あり(なし)の使い分けは?
「異常あり(なし)」「異状あり(なし)」といった表現をよく見聞きしますが、いざ使い分けるとなると戸惑う方が多いのではないでしょうか。
上記でも説明したように、「異常」は正常ではないことを、「異状」は普段とは違った状態(異常な状態)を表します。
よって、明らかに正常でないことを表す際は「異常あり」、感覚的に普段と違うことを表す際は「異状あり」と使い分けます。
たとえば、体のどこかがなんとなく痛いというのは「異状あり」になりますが、病院で診察した結果悪性腫瘍が見つかったということになれば「異常あり」になります。
異常と異状の使い方や例文
「異常」は形容詞・名詞として用いられ、「異状」は名詞、とりわけ状態に限定して用いられるということが分かりました。ここではそれぞれの正しい使い方について、例文を交えて紹介していきます。
異常の例文
「異常」は、「異常をきたす」「体の異常」「異常なまでの」などといった使い方ができます。つまり、正常ではないことが明白な場合に、「異常」を用いるのです。
異常をきたす
「異常」はノーマルではないことを表しています。「きたす(来す)」は好ましくない状況に用いられることが多く、ネガティブな変化を意味します。
つまり「異常をきたす」という言葉は、ノーマルではないネガティブな変化を意味しています。
<使用例>
- 無理な運動で、両足に異常をきたした。
- 地球温暖化によって、環境が異常をきたし始めている。
体の異常
医師が患者を診察する際に、「体の異常」といった表現が用いられます。それは、医師の目から見ると診察に来た患者は正常ではないため、「異常あり」といった表現になります。
<使用例>
- 健康診断での診断結果は異常なし。
- 無理な運動で、両足に異常が生じていた。
異常なまでの
「度を越えた」表現として「異常なまでの」といった用い方をします。意義素(語形の要素として、実質的な意味を追う部分)としては、「執念深くこだわる」が包括されています。
<使用例>
- 私の主人は、異常なまでの潔癖症です。
- 異常なまでのこだわりを見せる。
異状の例文
「異状」は、「異状を発見した」や「異状なし」といった使い方ができます。「異常な様子・状態」を表す意味の名詞としての用法に限定されているため、「異状な増加」や「これは異状です」といった形容動詞としての用い方はできません。名詞のみに使うため、限定用語と言われています。
異状を発見した
健康状態や病気を表す場合にも「異状」を用います。例えば、体調に違和感があるなど自覚症状がある場合には、「異状」という使い方が適切です。
先にも述べましたが、明らかに普段と異なることが起こっていた場合は「異常」を用いることができますが、「異状」の場合、単に普段と異なる雰囲気を感じ取ったに過ぎない場合に用いられます。
<使用例>
- 足に異状がみられる。
- 警備員が道路で異状を発見した。
異状なし
「異状」には、「異なった様子」「異常な状態」の意味があります。つまり、「異状」は「異常」に包括されていると言えます。
そのため、巡回や点検において「異常」がなかった場合の報告は、「異常なし」ではなく「異状なし」が適切です。仮に「異状」があった場合には、「異状」が前提となる「異常」の発生を伝えるため「異常事態発生」となります。
<使用例>
- 巡回を行い「異状なし」と報告書に記載した。
異常と異状の使い分けにおける注意点
「異常」と「異状」のどちらを使うのが正しいのか迷った際のポイントを押さえておきましょう。
「異常」とは、「正常」の対語であり「何か普通ではない物事」を指します。形容詞として使われることが多いですが名詞としても用いられます。
名詞として使う場合には、「異状」との使い方に注意する必要があります。通常は、数値や検査などで明らかな結果が出ている場合や、どのような異常なのかが具体的に提示されている場合に使われます。
一方の「異状」は、状態が普段と異なること、つまりは「異常な雰囲気があること」(多くはネガティブな状態)を示します。加えて、常に名詞としてのみ用いられる点に注意が必要です。
「異常」に比べて「異状」が使われるのは限定的となり、通常は「状態・雰囲気」に限って伝えたい場合に用います。
異常と異状の英語表現
「異常」と「異状」の英語表現には、「abnormal」(形容詞)や「abnormality」(不可算名詞・可算名詞)が用いられます。例文も交えて紹介するので、英語表現も覚えておきましょう。
abnormal
「abnormal」は、通例「悪い」または望ましくない意味として「異常な」「正常以上(以下)の」「病的な」などという意味を持ちます。そのため以下の例文のように、英語表現においてもネガティブな表現として用いられます。
<使用例>
- abnormal behavior(異常な行動)
- Abnormal noise occurs(異音が発生する)
abnormality
「abnormality」は、(不可算名詞として)異常(なこと)、変則、(可算名詞として)異常なもの(こと)、変則なもの(こと)奇形、という意味を持ちます。名詞として用いられることの多い言葉です。
<使用例>
- We have detected an abnormality on your x-ray.(x線の写真で異状がみられます。)
- I didn't find an abnormality in here .(異状は見つからなかった。)
異常と異状を使いこなそう
日本語には、発音は同じであっても互いに区別される同音異義語が存在します。例えば、今回紹介した「異常」と「異状」の使い方も、頭を悩ませることが多い言葉でしょう。
2つの単語の違いは、「常」と「状」です。「常」は訓読みで「つね」と読みます。つまりは、「いつも」「普段」という意味合いを持った漢字です。一般的に「異常」という単語は、「普段(いつもと)異なっている」意味で用いられ、一方の「異状」は、「状」という「様子」という意味を表す言葉が使われています。したがって、「異状」とは、「異なった様子」と解せます。
非常に似た意味を持つ2つの単語ですが、「様子」に焦点を合わせている要素を強く持つ「異状」のほうがより限定的な意味を持ち、「異常」は幅広い領域で用いられると覚えておきましょう。