自然災害や盗難などによって損失を被った場合、原状回復費用や新たにものを購入するために要した費用はどうなるのでしょうか?

実は、その費用などを確定申告することで税金が還付される制度があるのです。多大な出費を伴う損害についての制度は、雑損控除といって所得から控除することで税金の負担が軽くなります。

ただし、すべての損失額や支出が認められるわけではありません。一定の計算式に基づいて算出します。そこで本記事では、雑損控除の申告方法と必要な計算書を書く際の注意点を解説します。

  • 「雑損控除」の申告方法は? 計算書を書く際の注意点を解説

    「雑損控除」の申告方法は? 計算書を書く際の注意点を解説

雑損控除とは

雑損控除とは、災害または盗難もしくは横領によって資産について損害を被った場合などに受けることができる所得控除です。所得控除とは所得から一定の金額を引くことができるもので、課税所得を減らし納める税金を軽減することができます(※1)

雑損控除の対象となる資産はすべての資産ではなく「生活に通常必要な住宅、家具、衣類などの資産」に限られます。また、資産の所有者は「納税者」か「納税者と生活を一にする配偶者やその他の親族」で「その年の総所得金額等が48万円以下」である必要があります。

事業用の資産や別荘、書画、骨董、貴金属などで1個(1組)の価額が30万円を超えるものは当てはまりません。

さらに損害の原因は「自然災害」「火災や火薬類爆発などの災害」「害虫などによる災害」「盗難」「横領」の5つに限られます。詐欺や恐喝の場合には雑損控除は受けられません。

例えば、車は一般的に生活に通常必要な資産に入りますが、それがスポーツタイプの車であれば生活でなく遊びの車と認定されてしまう可能性があります。反対に、貴金属であっても30万円以上しないものであれば対象となります。

また、損害の原因の例としては、シロアリの被害や車上荒らし、偽造キャッシュカードによる不正引き出しなどがありますが、振り込め詐欺は対象ではありません。

雑損控除の計算書の書き方と注意点

確定申告で雑損控除を適用する場合、「災害により被害を受けた住宅や家財、車両の損失額は、その損失の生じた時の直前におけるその資産の価額を基として計算すること」とされています。しかし、直前の資産の価額などはよくわかりません。また元の資産の価額も忘れてしまったということも多々あるものです。

そこで、「住宅の主要構造部に損壊がある場合」で「損害を受けた資産について個々に損失額を計算することが困難な場合」には、後述する簡単な計算方法で金額を計算しても問題ないとされています。この計算は、「被災した住宅、家財等の損失額の計算書(※)」に計算式が記載されていますので、それに従って計算をします。

(※)参考 : 被災した住宅、家財等の損失額の計算書


(1)住宅に対する損失額の計算

  • ①住宅の取得価額が明らかな場合
    損失額(※)=(住宅の取得価額-減価償却費)×被害割合

※保険金、共済金及び損害賠償金などで補てんされる金額がある場合には、その金額を差し引いた後の金額が損失額となります。ただし、被災者生活再建支援法に基づくものは除きます(以下同じです)
※損失額には、損害を受けた住宅等の原状回復費用(修繕費)が含まれます(以下同じです)

  • ②住宅の取得価額が明らかでない場合
    損失額={(1m2当たりの工事費用×総床面積)-減価償却費}×被害割合

(2)家財に対する損失額の計算(生活に通常必要な動産で、車両を除きます)

  • ①家財の取得価額が明らかな場合
    損失額=(家財の取得価額-減価償却費)×被害割合
  • ②家財の取得価額が明らかでない場合
    損失額=家族構成別家庭用財産評価額×被害割合

(3)車両に対する損失額の計算

  • 損失額=(車両の取得価額-減価償却費 )×被害割合

※車両については、生活に通常必要な資産と認められる場合に、雑損控除の対象となります


なお、車両が生活に通常必要であるかどうかについては、「自己または自己と生計を一にする配偶者その他の親族」が通勤のためのみに使用しているなど、車両の保有目的、使用状況などを総合的に見て判断することになります。

上記において1m2当たりの工事費用、減価償却費、被害割合、家族構成別家庭用財産の評価額については、損失額の計算書にそれぞれの表が記載されていて、当てはまる項目や数字を利用して計算します。ただし、このような計算に慣れていないと難しいと感じるかもしれません。その場合は税務署で相談しましょう(※2)

上記のように計算をして、まずは損害額を求め、そして差引損失額を計算します。

  • 差引損失額=
    損害金額+災害等に関連したやむを得ない支出の金額 - 保険金などにより補填される金額

災害関連支出とは、災害等に関連して住宅家財等の取り壊しまたは除去などのためにした支出を指します。災害関連支出のうち、災害により生じた土砂を除去するための支出などの原状回復費用については、災害がやんだ日から1年以内(大規模な災害の場合などには3年以内)に支出したものが対象となります。

この災害関連支出は、実際に支払った領収書や請求書があれば認められますので難しい計算は必要ありません。

雑損控除の所得から控除できる金額は、次の2つのいずれか多いほうの金額です(※3)

  1. 差引損失額 - 総所得金額等×10%
  2. 差引損失額にうち災害関連支出の金額 - 5万円

上記の計算式を使って、実際に雑損控除がいくらになるのか、計算をしてみます。


<雑損控除の計算例>

  • 総所得金額 : 500万円
  • 火事で損失額 : 100万円(損失額の計算書で計算)
  • 災害関連支出 : 30万円
  • 保険の補填 : 50万円
  1. (100万円 + 30万円 - 50万円) - 500万円 × 10% = 30万円
  2. 30万円 - 5万円 = 25万円

「1」と「2」を比べると「1」のほうが多いので「1」を適用し、雑損控除額は30万円となります。


この計算によれば、盗難で財布を盗まれた場合、よほど大金が入っていない限り雑損控除の適用は難しいでしょう。この場合の計算は1の式を使い、所得金額の10% を超えた金額でなければ対象とならないからです。

雑損控除の申告方法とタイミング

会社員や公務員等の給与所得者には、会社による年末調整があり、払いすぎた税金についてはその時に還付してもらえます。ところが、雑損控除は年末調整ではできませんので、自分で確定申告をする必要があります。

確定申告では、確定申告書第二表の「雑損控除に関する事項」の箇所に損害の原因などを記入します。そして損害金額、保険金などで補填される金額、差引損失額のうち災害関連支出の金額を記入し、第一表の雑損控除の欄に「1」と「2」の計算で大きいほうの金額を記入します。

雑損控除は、損失額が大きくてその年の所得金額から控除しきれない場合は、翌年以降(3年間が限度)に繰り越して各年の所得金額を控除することができます。控除しきれずに残った金額がある場合には、翌年、翌々年と確定申告を続けることになります。

「今年シロアリの被害にあった、台風で被害を受けたなどで、雑損控除の申告をしたいが、どんな書類を準備すればよいのわからない」

このようなときは確定申告期限内でなくても大丈夫ですので、事前に税務署で必要な書類や計算方法などわからないことを聞いて申告をすると間違いがないでしょう。

また「雑損控除ができるのにその年内に申告しなかった」「用意すべき書類を事前に確認したい」などの場合は、通常の確定申告期間(例年2月16日から3月15日)でなくても申告をすることができます。還付の申告に関しては5年の猶予期間があるのです(※4)

まとめ

雑損控除において面倒なことは、損失額の計算です。「古い資産など購入金額がわからず減価償却などしたことがない」と悩む方もいるでしょう。それに対して税務署は簡便な計算方法を利用して計算する方法を紹介していますので、思ったほど難しくないという声は聞きます。

また、確定申告で雑損控除をすることで所得税の還付を受けるだけでなく、住民税にも内容が反映されて、翌年の住民税が軽減されますので、雑損控除の対象となるかもしれないと思われる場合は税務署に相談しましょう。

参照 :
(※1)国税庁「No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)
(※2)国税庁「I‐2 雑損控除の適用における「損失額の合理的な計算方法」
(※3)国税庁「手順3 sankaku_red所得から差し引かれる金額(所得控除)を計算する
(※4)岡山市「雑損控除等の申告について