どの作品もさまざまな趣向が凝らされている大河ドラマのオープニングのタイトルバック。俳優の吉沢亮が主演を務める『青天を衝け』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)もまた、何度も繰り返し見たくなるような味わい深いタイトルバックだ。時代の変化と主人公・渋沢栄一の人生が感じられるこのタイトルバックを担当した演出ディレクターの松木健祐氏に、映像に込めた思いや制作の裏話を聞いた。

  • 大河ドラマ『青天を衝け』のタイトルバックより

新一万円札の顔としても注目されている渋沢栄一の生涯を吉沢が演じる本作。渋沢は、幕末から明治へ、時代の大渦に翻弄され挫折を繰り返しながらも、青天を衝くかのように未来を切り開き、約500の企業を育て約600の社会公共事業に関わった“日本資本主義の父”で、晩年は民間外交にも力を注ぎ、ノーベル平和賞の候補に2度選ばれている。

タイトルバックはミュージカル調の躍動感あふれる映像に。はじめに梅の木が描かれ、「青天を衝け」とタイトルが現れ、木にとまっていた鳥が飛び立ち、大草原にいる栄一のもとへ。そして、世の中の変化を全身で吸収するように両手を広げる栄一。その後、江戸の町、大海原へと変わり、日本を飛び出す栄一の力強い姿が描かれると、栄一は和装から洋装へと変わっていく。さらに、もがいているような栄一の姿も。最後は、同様に洋装に身を包んだ人々と生き生きと踊るシーンで締めくくられる。

このタイトルバックは、映像ディレクターの柿本ケンサク氏が、渋沢栄一の91年という濃密な人生の“ライン”をテーマに作り上げたという。演出の松木氏は「いわゆるこれまでの幕末のヒーローと違って、渋沢栄一は91年という年月を生き抜き、時代を壊し、時代を作り上げた人物です。その連綿と続く人生の時間を“ライン”になぞらえています」と解説。

そして、「生命の象徴である木からスタートし、渋沢栄一が時代、場所、身分を超えていったように、渋沢の舞台も進んでいきます。一度は全てが壊され何もなくなり、走り続けた先に待っている新しい時代の希望。日本人が幾度となく経験してきた光景だと思います」と説明し、「ストーリーを追うごとに栄一自身の現在地が変わり、このタイトルバックの味わいも変わってくると思うので、そこを楽しんでいただければと思います」とアピールする。

制作は全編にわたり、ボリュメトリックビデオ撮影を行ったという。ボリュメトリックビデオ撮影とは、「2019年のラグビーワールドカップで有名になった最新技術です。100台を超えるカメラで被写体を捉え、瞬時に3D空間を再構成する技術です」とのこと。「そうすることで、ダイナミックな自由視点を得ることが出来ます」と意図を明かした。

キーワードは「時代の風の中、踊るように生きた渋沢栄一」。これは、渋沢栄一のコンセプトデザインになり得るものを話し合っていたときに、柿本氏から提案されたものだそうで、「私たち制作陣はそれがとてもしっくりきたのです!」と松木氏。そのキーワードから、ミュージカル調のタイトルバックが生まれた。

「栄一の足跡を辿っていくと分かるのですが、栄一は生きようと思えば死にそうなほどのピンチを招き、死のうと思えば新たな生きるチャンスが生まれてくるような人生です。どこか、滑稽で楽天的なイメージが私たちの中にあって、『踊るように生きた渋沢栄一』というキーワードがとてもぴったりだったのです。その栄一のイメージをタイトルバック映像に落とし込んでもらいました」

タイトルバックで表現された栄一の人生。松木氏が言うように、物語が進んでいくとタイトルバックの味わいが変わり、映像に込められたメッセージをより深く理解できそうだ。本編とともに、タイトルバックも毎回楽しみたい。

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