トランスジェンダーで東京レインボープライド共同代表理事などを務め、LGBTQを取り巻く課題解決に向き合う杉山文野さんが、あす27日に放送される日本テレビ系バラエティ番組『世界一受けたい授業』(毎週土曜19:56~)に出演。著書『元女子高生、パパになる』を入り口に、自身の体験や活動を通じてマイノリティーの人たちがおかれている現状や、社会全体が是正すべき問題点について「誰もが自分事として考えられる」な授業を行う。
戸籍は女性、心は男性……幼少期から「女の子」としてのふるまいを求められることや「女性の体」に強い違和感を覚えていたという杉山さん。27歳の時に乳房切除手術を決意し、現在は都内で2軒のバーを経営しながら、トランスジェンダーとして自分と同じような悩みをもつ人たちのために活動を行っている。2018年、ゲイの親友から精子提供を受け、パートナーが体外受精、女児を出産したことを公表。1児のパパとなった。
今回の番組出演にあたり、マイノリティーの人たちと共生する社会のあり方などについて語った。
――ご著書『元女子高生、パパになる』、印象的な素晴らしいタイトルですね。
ありがとうございます。みんなで考えたんですけど、僕は自己紹介で必ず『元女子高生です』って言ってるんですね。色んな言葉の候補を絞って最終的には「元女子高生」と「パパ」という2つの言葉が残りました。これまで小さな一歩を積み重ね、ひとつずつ一人ずつ向き合ってきた結果、想像もできなかった未来にきました。どのシーンが抜けてもやっぱりパパにはなれなかった。「元女子校生」から「パパになる」って、最初と最後みたいな、間をめっちゃすっ飛ばしてるんですけど(笑)。ここに至るまでの嬉しかったこと悲しかったことも大変だったこともすべてを詰め込んだ1冊なので、当事者の人というよりもむしろ、「そんなの自分とは関係ない」って思ってる人にこそ、読んでもらえると嬉しいなと思います。
――最初のご著書『ダブルハッピネス』を上梓された2006年と今、ご自身を取り巻く環境を含めLGBTQの問題にはどんな変化がありましたか?
一番の変化はやっぱり認知度ですね。当時は「LGBTQ」なんて言葉は日本ではほぼ誰も知らなかったので。でも今はLGBTQという言葉がある程度、一般常識化しつつある。ここは本当に大きく変わったところだと思います。ただ言葉は知られていても実際どういうことなの?っていう理解がそれほど進んでいるわけではない。一応知ってるという点で言えば圧倒的に変わったから「いいじゃない」って言ってくださる方は増えたけど、それだけでは片付けられない大変なことはやっぱりたくさんあるんです。例えば先日、僕がコロナの濃厚接触者になってしまったんですが、保健所から「杉山文野、女性」っていう情報で電話がくる。まずそこで会話がかみ合わない。(※注 杉山さんは男性の声なので)まず声を聞いて「ご本人様ですか?」から始まって、一緒に暮らしている家族との関係がまた分からない。ただ、今は「トランスジェンダーです」と伝えると「ああ、そうなんですね」ってある程度分かってもらえる部分はあるんですけど、その電話が終わって病院に行ったときにまた同じ説明をゼロからする…そういったことがまだまだ至るところにあります。
<杉山さんの保険証やパスポートでの記載はまだ女性。身分証を提出するだけでは「本人様じゃないですよね」と問い返されたり、入国審査でひっかかり入国拒否にあったりすることもある。LGBTQという言葉の認知こそ上がったものの、是正しなくてはいけない問題は多いという。>
――当事者の皆さんと共に、社会が問題解決を進めるには何が一番重要なのでしょうか?
一番はやっぱり法律だと思います。すべての国民は法の下にみんな平等とされているにもかかわらず、婚姻(という法的な平等性を享受)出来る人と出来ない人がいる。国の大きな骨組みである法律に、構造として差別が組み込まれているんです。だから、「国にも認められていない人たちが差別的に扱われたってしょうがないじゃん」と差別偏見がなくならない。逆に言うとその骨組みさえしっかり元の位置に戻れば、外にある痛みっていうのはある程度自然治癒的になくなっていくと思うんです。マイノリティーの人たちはいないという前提で成り立っている社会のルールを、ちゃんと「そういう人たちっているよね」っていう前提に変えていかないと痛みは取れないんですね。
<杉山さんは授業のVTR中に登場した乙武洋匡さんの“ルールを変える社会のムードを作る”という言葉をひきながら、「マイノリティーを優遇して欲しいと言っているわけではない、ちょっとゲタをはかせることで、ますはちゃんとスタートラインに立たせてほしい。これは優遇ではなくむしろ是正なんです」と強調する。その象徴のひとつとして、同性カップルの婚姻を認めてもらおうと杉山さん達は2012年から続くTOKYO RAINBOW PRIDEでのパレード活動などを通じて訴え続けている。その流れは少しづつ形となり、現在では全国74自治体でパートナーシップ制度(戸籍上は同性であるカップルに対して、地方自治体が婚姻と同等のパートナーシップであることを承認する制度)が施行され(※渋谷区・虹色ダイバーシティ 全国パートナーシップ制度共同調査 調べ 2021年1月8日時点)、全国の人口カバー率では33.4%パーセントを超える規模になった。一方で、交付件数は1,516件(※同・2020年12月31日時点)と決して多いとは言えない数字にとどまったままだ。>
――自治体からの講演依頼も多数あると思いますが、どんな質問が多いですか?
何からやったらいいですか?とよく聞かれます。僕はいつもできるところからやってくださいとお答えしているんですけど、「いや、まだみんなの理解が足りないんで急にやっても」とおっしゃる。でも「ここまで準備できたらいいです」みたいなことはなくて、支援したい、その気持ちさえあればもう僕はいいと思うんです。どんなことでもそうですけど、初めてやることって失敗するじゃないですか?失敗するからそれを改善して、次につなげて、成功する。はじめに「失敗」と言っていたことは「経験」と名前が変わる。だから、「失敗しないことが一番失敗です。間違えたら直せばいいんです。失敗を恐れて何もしないことが何よりの失敗だと思っているので、まずはできるところからやってみてください」とお話しています。
――─マイノリティーの方たちへの支援として、我々が「まず、できること」は何でしょうか?
僕はみなさんに1日1ウェルカミングアウトをお勧めしております。当事者も目に見えませんが、アライ(アライアンス=支援者)も目に見えないので、カミングアウトはいつでもウェルカムなんですよと、是非そこの可視化をしていただければと。大きなアクションということではなく、それこそ「今日の番組テーマがLGBTQだったんだよ」「同性パートナーシップ制度もどんどん広がっていくといいね」など、一言口に出していただくだけでも、SNSでリツイートしていただくだけでも、レインボーシールを携帯に貼っていただくだけでも、全てが「ウェルカミングアウト」です。きっと皆さんのすぐお近くにいるであろう、でもまだ言えてない人が「この人にだったら言えるかもしれない」という安心感に繋がっていくと思います。当事者からすると「言えない」のと「言わない」のでは全く違いますので、ぜひ安心できる場を作っていただきたいと思います。
<元女子高生がパパになるまで歩んできた道のりを振り返り、その原動力を訊ねると「往生際が悪いんでしょうね(笑)」と即答。続けて、「自分を肯定できない、自分はいけないものと思っていたので、ずっと自分に自信がなかったんですけど、色々なことを超えてきて最終的に、『両親や家族は何があっても自分のことを受け入れてくれるんだ』っていう家族の愛情、それが今となってはすべての原動力になっている気がします」と語る杉山さん。2歳になる娘が成人する頃、社会はどうなっているのか。>
20年もあればまた社会は全然違っているでしょうけど…。この子が女の子だからという理由で何かができなかったり、日本人だからという理由で何かができなかったり、ましてや親がLGBTだからいじめられたりということはない社会にしておいてあげたいなと。幸せの形って正解はないと思いますし、僕が思う幸せの形と、うちの子が思う幸せの形だってきっと違うでしょうし。ただ、みんなが「こうあるべきだ」っていうのを押し付け合うような社会じゃなくて「こうありたい」って、お互いをもっと応援できるような社会になっていってほしいなと思うし、そのためにやることを粛々とやっていくのかなと思っています。
<最後に娘について質問すると「絶賛イヤイヤ期で(笑)。とにかく何やっても全部イヤだ、パパ、イヤって。何もしてないのに言われてショックで(笑)。でも、それも含めてかわいいなって感じですね」と目尻を下げて締めくくった。>